one night
□第十夜
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会場へ到着し、早くも一回戦。
私とマックスとタカオが出て、見事勝利を納めた。
続く二回戦も順当に勝ち抜き、あっという間に一日が終わる。
ホテルへ入ると、予想はしてたけどやはりみんな同室。
思わず苦笑してしまうけれど、さっき大転寺会長にそれとなく個室はないのかと聞いたら、どのチームも皆1部屋ずつしか借りてないらしい。
・・・そういえば中国チームのマオという女の子がいたけど、あの子もこんな風に男の子達と寝ているのだろうか。
あの子くらい強ければ、女の子の格好のままで過ごしても平気なのだろうけど・・・。
ベッドに深く腰掛け、自分の服装を改めて見てみる。
「・・・・・・。」
はぁ〜・・・と深い溜め息を吐いたところで、通りかかったキョウジュが話しかけてきた。
「どうかしました?」
「え、いやなんでも・・・。」
「?ならいいのですが。」
「なんだぁ、セツナ。勝ったっていうのに溜め息吐いて。」
そんな私達の様子を見て、タカオが話に入ってくるけれど、この中の5人、多分誰であろうと私の小さな葛藤に気付く奴なんていないだろう。
そう思うと益々溜め息が増えるばかりだった。
しかし、別に隠しているわけではないので、正直に聞いてみることにした。
「ねぇ、私が女の子の格好で試合に出たらどう思う?」
タカオとキョウジュは目を合わせて暫く黙る。
「別にいいんじゃねぇの?」
「・・・この辺りの治安にもよると思いますけどね。ちなみにセツナは何か護身術を身に付けたりしていますか?」
護身術といえるほどの腕前かどうかはわからないけど、剣道ならばかじっていた。
しかし、やはり治安の問題があるか・・・。
「セツナ剣道やってたよな?試しに何かあったときに対処できるかやってみりゃいいんじゃね?」
私が答えるより先にタカオが提案する。
でも、確かに調べてみる価値はある。
いまここでこの子達に力で敵わなかったら、もう暫く男装しておくことにしよう。
「ぬおおぉぉぉぉ・・・!」
「ふん・・・ぐぐぐぐ・・・!!!」
私とタカオは向き合い、お互いを押そうと奮闘している。
「なんのこれしき・・・!」
「ちょっ・・・強い強い!」
「セツナ、タカオが優しくしたら意味がありませんよ!」
なんとか力ではタカオに負けないレベルだ。
「さぁ、ここからどう動きますかね。」
勿論、このままじゃダメなのはわかっている。
だから、私は前に向かって押していた腕を突然引っ込めた。
「のわあああ!?」
当然のことながら、突然支えを失ったタカオがコケた。
「そんなのアリかよ!?」
「だって要は危ないときに逃げる隙を作ればいいんでしょ?」
「そりゃそうだけどよ・・・。」
タカオは頭を掻きながら腑に落ちなさそうにしていたが、少ししたらまぁいっかと呟き、そのまま立ち上がった。
「・・・よし、それじゃあ今度は追いかけられたときにどうするかを試そう!」
「うん!」
今度はタカオに背を向けて走り出す。
「おぉらぁまてぇぇぇええええ!」
「いやぁなこっ、・・・だっ!?」
突然ヒョイッと目の前に足が現れ、私は思いっきり転ぶ。
幸いにも転んだ先はベッドだったので痛くはなかったけれど、思わず足をかけた犯人を見ようと振り返ったところで背筋が凍りついた。
「・・・騒ぐな。」
タカオの首根っこを掴み、絶対零度の目が私を捕らえている。
「スミマセンカイサマ。」
暫く頭が上げられなかった。
「何?強くなりたいだと?うーん・・・鍛えれば無理ではないだろうが・・・。」
「フン、馬鹿か。」
「大丈夫ネ、セツナちゃんはボクが守ってあげるからさ!」
三者三様の意見だ。
「確かにブレーダーの中にはベイの間違った使い方で犯罪を起こす者もいるがな・・・。」
「だから男装をしていたんだろう。」
「でもセツナちゃんだって女の子の格好をしたいんだよネ?」
マックスの台詞のときに縦に頷く私を見て、レイが考え込む。
「マオくらい強ければ問題はないと思うのだがな。」
「キリじゃ中華鍋を木っ端微塵にできないよ・・・。」
「貴様の努力次第だ。」
「ねぇ、ボク考えたんだけど、セツナちゃんはずっとキリが側にいるんだよネ?一人になる可能性が低いんなら、女の子の格好でいいんじゃないカナ?」
あぁ、そっか・・・。
でもキリはまだお前を守れないみたいなことを言っていた気がする。
うーん、でもそれなら私が強くなればキリだって力を付けて、いずれは男装する必要がなくなるんじゃないかな?
うーん・・・・・・。
そんなことを考えていたら、気付いたら皆は寝ていて、私はそのあともずっと一人で考え事をしていた。
最後に時計を見たとき、時刻は2時を過ぎていた。