one night
□第九夜
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「へぇ、聖獣が実体化してんのかこれ。」
「ネェネェ。ドラシエルもこんな風になるのカナ?」
「聖獣にはまだ多くの謎が秘められてますからね・・・。」
キリのことを話した後の3人のリアクションはそれぞれだった。
「あのさ。そろそろ行かない?」
いい加減に日が暮れてきた為、カイを探すにしても帰るにしても、そろそろこんな路地裏に居たくない為に提案した。
『いや、それは無理だな。』
しかし、キリはこちらを見向きもせずに答える。
「Why?」
『・・・・・・。』
「?」
その瞬間、どこからか中華鍋が降ってきて、カタカタ・・・と回転する。
そこで私達は漸く、キリがとある一点を見つめていることに気付いた。
「誰だ。出てこい。」
ザッとレイが前に出て、キリが見つめる方へと声を上げる。
すると、そこから出てきたのは私達と同い年くらいの男の子だった。
フツーに肩にヌンチャクを掛けているけれど、それって日本で私が木刀ぶら下げて歩いてるのと変わらないよね!?
しかし、そんな顔を引きつらせた私に気付き、マックスが耳打ちする。
「よく見てみるネ。彼、ブレーダーだよ。あの肩の、変わった形してるけどシューターだ・・・。」
なるほど。
確かによく見たらシューターがついてる。
「貴様は何者だ。」
「・・・ブルース。」
リー?
だからヌンチャク持ってんの?
「俺達に何か用か。」
「ああ。俺とバトルしろ。」
その言葉を聞いた途端、マックスがタカオ達の肩に寄っ掛かり、相手にする必要はないと言う。
そのままブルースを背にその場を去ろうとするが、なんと気付いたらブルースは後ろに移動していた。
「やっ!?」
『なんという跳脚力だ。』
きちんとした公式戦で試合を申し込め、なんて話は通じず、どうやってもこの場を回避できないと踏んだ私達。
そこでタカオが相手になると一歩前に出たのだが、そのときキリがくいっと、私の裾を引っ張る。
「どうしたの?」
『聖獣の気配がする。』
「えっ!?まさかあの人から・・・」
『いや、違う。さっき僕が見ていた方向からだ。恐らく監視されているのだろう。・・・奴と一緒に。ずっとな。』
「嘘・・・全然気付かなかった。」
私達はスタジアムを他所に、さっきまでキリが見ていた方向へと近付く。
ゆっくり、ゆっくり・・・。
途中で木の棒をこっそり拾い、構えながら。
そして曲がり角に着いた途端、バッとなにかが飛び出した。
「っ!」
「わっ!?」
反射的に棒を振ると、見事右手に当たった。
「痛っ!」
「誰?」
前を私が、後ろをキリが囲む。
「くっ・・・。」
「ずっと俺達を付け回して・・・何の用だ。」
木の棒を顔まで近づける。
歳はタカオ達よりも下だろう。
『・・・なるほど、お前があいつを差し向けたんだな。』
「!?」
『僕が見えているということは、お前も聖獣持ちなんだろう?おとなしく答えた方が身のためだ。』
「なんなんだよお前らっ!!」
咄嗟に体当たりをしてきた男の子。
受け止められるかと思ったのに、予想を遥かに越える力の強さに圧倒され、私はあっけなく倒れてしまう。
『セツナっ!』
「うっ!・・・あっ。こら!」
それでも逃げようとする男の子の服を思いっきりつかむ。
「離せよ!」
「い・や・だ!!」
どちらも一歩も譲らない。
さっきはいきなりだったからビックリしたけど、脚も腕も絡ませればそう簡単にほどけるわけがない。
今のうちに誰か・・・そう、誰でもいい。
誰かを呼ばなきゃ・・・!
そう思って息を吸うと同時、目の前でカチャ・・・とベイブレードが構えられる。
それも、シューター付きで。
「邪魔なんだよっ!」
ワインダーを引く指が、やけにゆっくりに見える。
え、ちょっと待ってちょっと待って。
ベイブレードって岩砕く・・・
「セツナっっ!!!」
鼻先に触れる瞬間。
何かが私を押し倒した。
この匂い・・・・・・。
私はきつく目を閉じたまま、その背中を抱き締めた。
「ちっ・・・!」
「なんだ!?」
そのとき丁度、ブルースに勝ったらしいタカオ達が駆け付けてくる音がした。
「セツナ!カイ!!」
「大丈夫ですか!?」
私達もなんとか起き上がる。
「いたた・・・ありがと、カイ・・・。」
「勘違いするな。大会前に下手に怪我をされたら出場できなくなるからだ。」
カイに微笑んだ後で、さっきまで私が捕まえようと思っていた男の子を見る。