one night

□第六夜
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22時近くになった温泉には、もう誰もいなかった。



「はぁ・・・・・・生き返るぅ・・・・・・。」

こういう濁った白いお湯は好きだった。



夜空には月や星が沢山見えていて、ちょっとしたプラネタリウムみたいだ。

しかし、そんなロマンチックな時も、ガラガラとガラス戸が開く音で終わりを迎える。



『おいセツナ。なんで僕を置いていくんだ。』

「ちょっと何入ってきてんのエッチ!」

てかどうやってドア開けたの!?

『安心しろ、僕に性別はない。それに、人間の女の体を見たところで僕は興奮しない。』

「貴方一言余計なんだよ・・・・・・!」

思わず胸元を隠すために組んだ手をほどく。



『しかし気持ちがいいな。』

「そうだね。」



暫く静かな時間が流れた。

しかしあるとき、ガキンッという小さな音がしたような気がして、私達は互いに顔を見合わせた。

「なんの音?」

『ベイブレードだな。』

「こんなところで!?」

どんだけ物好きなんだ・・・・・・。

そんなことを思いながらも、その"物好き"が気になる私は、露天風呂の岩を気を付けながら登って、音のする方向をじっと見る。

『隙が多いと言われたばかりだろう。それじゃ見えるぞ。』

キリが口から取り出したバスタオルをかけてくれたのでお礼を言う。

しかし、意識は完全にベイブレードの音へと移っているため、適当なお礼になってしまった。

それでもキリも気になるらしく、私の行動にいつものツッコミを入れずに、となりにならんだ。

『何が見える?』

「傷付いた地面と、割れた岩が。」

『なるほど、お前は目がいいんだな。』

じゃなかったら、あんな日がほぼ沈んでいる中でキリが溺れているのを見付けることなんてできないよ。



「あ!あそこ・・・・・・!」

漸くベイブレードらしき姿を捕らえたのは、それから3分後のことだった。

どんどんこちらに近付いてくるベイブレードは、手前にあった岩を砕いた。

「すごい・・・・・・ベイブレードで本当に岩を砕いちゃったよ・・・。」

『あのベイブレード、ほぼ間違いないな。』

「うん。」

私は昼間に見たあのビットを思い出す。

「レイのだ。」

『やはりそうか・・・。戦ってみて、なんとなくそんな気はしていたんだ。』


「キリ。少なくとも明日の本選で、カイかレイに当たったら、聖獣持ちと戦うことになるんだけど・・・」

『タカオもな。・・・しかし、そうとなれば作戦を練らなければ・・・。』

私達はお湯まで降りてきて、再び肩まで浸かる。

『そもそも明日はどんな風に試合が行われるんだ?』

「今日みたいに一斉に戦うなんてことはもうないと思うけど・・・私もよくわからないんだ。」

トーナメント戦ならば誰か一人はシードになるだろうし、リーグ戦ならばあの三人とも戦わなければならない。

というか、あの金髪の子以外なら誰であろうとかなりピンチになるのでは・・・?

「その場合の私の体力・・・」

・・・ううん、そんなこと言ってられない。

これだって、剣道と同じなんだから。

「万が一リーグ戦になっても、早めに片をつけよう。」

恐らく連続で戦うことなんてそうそうないだろうし。

『まぁ確かに長期戦には持ち込みたくないな。・・・ところでセツナ。』

「何?」

『さっきから言ってる"とーなめんと"や"りーぐ"とはなんだ?』



知らないのか。



私はキリに試合の方式を教えながら、明日の作戦を練るのだった。
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