one night
□第五夜
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とんでもない展開になってしまった。
困ったぞ・・・。
あのお兄ちゃんを倒すことなんて想定してなかった。
流石にそろそろ息が上がってきた。
今までの相手なら勝てただろうけど、この人相手にどこまで通用するか・・・。
「・・・ふぅ、面倒なことは好まないのだけどな。」
嘘つき。
その目はそんなこと言っていない。
いよいよ私は覚悟を決める。
「お前の戦い方をずっと見ていたよ。最後まで残ったら、ほぼ間違いなく倒しがいのある相手だと思ってはいたが・・・。」
しかし、一瞬間を置いたお兄ちゃんの目は、もとに戻っていた。
「ブレーダーの方が本調子じゃなさそうだ。・・・どうせならお前とは最初から全力でぶつかってみたい。それじゃダメか?」
『なにっ!?』
キリが驚いたような声を上げた。
『セツナ・・・。』
「・・・・・・。」
私は拳を握りしめ、スタジアムを見つめる。
しかし、下ばかり見つめてもしょうがないので、徐に顔を上げると観客席のカイと目があった。
その目が何を言いたいのかはわかってる。
そして、自分が強くなるためにはどうしたらいいのかも・・・。
「ブレーダーDJ。あとどれくらいで俺達は予選通過できるの?」
私は上を見上げて聞いた。
「あと30秒だ。」
「・・・なら充分。」
大きく息を吐き、背筋をピッと伸ばす。
「やろうよ。30秒。折角だから戦おう。・・・30秒経って両方とも残ってれば引き分けでいいからさ。」
「へぇ。思ったより好戦的なんだな。・・・行くぞ、ドライガー!!」
「キリ!!」
『待ってたぞ、この時を!!!』
キリは全力でドライガーにぶつかっていく。
回転力が上がる度、ぶつかる度、体勢を立て直す度。
どんどん力が吸われていくようだ。
だけど負けたくない・・・。
願いを叶えるために・・・仲間を探すために・・・まだ倒れたりなんかしない!!
「うぉぉぉおおおおおおお!!!」
「やぁぁぁあああああああ!!!」
気付いたら剣道の時のように、声を上げていた。
互いのベイブレードが火花を散らしてぶつかり合う。
会場が熱気に包まれる。
剣道もベイブレードも同じなんだ。
相手と戦うことに、違いなんてそんなにないんだ。
「時間だ!!そこまでっ!!」
DJが叫ぶと同時、二つのベイブレードが飛んでいく。
『っ、らぁぁぁ!』
「くっ・・・、ドライガー!」
しかし、二つとも間一髪のところでピアノ線に引っ掛かり、なんとかスタジアムアウトだけは逃れた。
お兄ちゃんの方のベイブレード・・・ドライガーに関しては、器用にピアノ線のうえで回転をしている。
「どうやらお楽しみは本選までのお預けってとこかな。」
お兄ちゃんがドライガーをキャッチする。
同じタイミングでキリも私のところへ戻ってきた。
「さぁ、Dブロックは唯一の二名予選通過!!レイ君とセツナ君だー!!」
お兄ちゃんは観客に手を振る。
・・・が、
「え、おいっ!?」
私は足早に控え室を目指す。
完全に無茶をしすぎた。
DJが何かいってる。
そりゃこんなに早い退場だ。
驚いても無理はないだろう。
しかし、私だってもう限界なんだ。
あと1メートル・・・もうすぐで退場口だ・・・。
「っ・・・うぅ・・・」
段々視界が暗くなり、足が前に進んでいるのかもわからない。
そんなとき、後ろからしっかりと私を抱き抱える腕があった。
「・・・?」
「おい、しっかりしろ。」
その腕に触れようと手を持ち上げたけど、届くことはなかった。
何故なら私の身体から、完全に力と言うものがぬけてしまったからだ。
意識が薄れ、身体はだらんと前に倒れる。
それでも私を捕まえた腕は私を逃がすことなく、しっかりとそこにあった。
最後に、その腕が背中と膝の裏に周り、身体が浮く気がした。
・・・ああ、結局また、気絶するんだ・・・。