one night
□第一夜
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そのときちょうど、雲が晴れたのか月明かりが部屋に差し込み、膝の上の動物の正体が露わになる。
七色に輝く美しい毛は、やはり私の記憶を探っても、見たことのない動物のそれだった。
「貴方は一体・・・?」
『"麒麟"・・・そういえば少しはピンとくるだろうか?』
「きりん・・・」
改めて口を動かして喋るそいつを見てみたけど、決して首は長くないし、おしゃれな模様もない。
念の為にその体を撫でてみた。
『なるほど。この世界には神獣の類の逸話がないのか。』
「神獣・・・?貴方、神様なの?」
だとしたらここは神社か。
『まあそれに等しい力は持っているな。尤も、今は大分弱まっているが。・・・しかし、お前思ったより驚かないんだな。』
「夢だと思ってるから。」
『馬鹿か。これは現実だ。』
バシンっ
思いっきり頬を叩いてみたが、普通に痛かった。
『馬鹿か。』
「否定はしない・・・。」
『しかし、その馬鹿さは嫌いじゃない。・・・いや、むしろ僕はお前を気に入った。』
「わっ!?」
ストン、と布団に押し倒される。
ぬいぐるみぐらいの大きさのくせになんて力だ・・・。
『お前、僕と取引をしないか?』
「取引?」
『ああ。お前には僕の力を取り戻す手助けをしてほしい。しかし、僕の力が完全に戻ったら、お前の願いをなんでも3つ叶えてやろう。』
「力を取り戻す・・・?何故?どうやって?」
『一辺に質問をするな。まあ答えてやるから落ち着け。』
そいつは・・・キリは、私の顔に近づき、額にそっと触れた。
次に、私の頭には様々なヴィジョンが浮かんでくる。
麒麟、青龍、朱雀、玄武、白虎・・・。
ベイブレード。
聖獣。
仲間。
「・・・・・・。」
『それらは、お前の住んでいるこの世界とは異なる場所に存在するものだ。・・・僕達聖獣は、現在ベイブレードとその主と共に共存し、世界の秩序を護ってきた。』
しかし、それぞれの聖獣の主は世界中を探せば必ず見つかるのに対し、キリの主になれる器はなかなか生まれなかった。
『もともと僕だけは聖獣の中でも特殊でね。毎回主探しに困るんだよ。・・・今回はもう、彼此50年は探し続けた。』
「50年・・・。」
『そうだ。・・・50年探し続け、ようやく気付いた。僕は何故か、ベイブレードの存在を知る人間を主にできないのだと。』
しかし、50年一人で過ごしてきたキリは力の衰えを感じていた。
『一刻も早く、主を探さねばならないと思ったよ。・・・そこで、僕は残り少ない力を振り絞って、異世界へ主を探しに来たんだ。そして、お前と出会った。』
「・・・・・・。」
『悪い話じゃないと思うんだ。寧ろお前には都合のいい話だと思うんだよ。・・・どうだろうか。』
なんでも願いが叶う・・・3つも・・・。
「・・・それで、どうやって私はその条件を果たせばいいわけ?」
『僕と一緒に僕の世界に来てもらう。そこで、残りの五聖獣・・・いや、正確には四聖獣の主を見つけ出し、共に戦ってほしい。お前が強くなれば、僕の力も強くなるんだ。』
「その仲間はどうやって見つけるの?」
『戦えばわかるさ。・・・必然的にな。』
「でも異世界に行くって・・・私、学校とかあるんだけど。」
『大丈夫だ。僕達五聖獣が揃えば、異世界へ行くだけではなく、時間さえも超えることができる。お前との契約終了時、お前が川に落ちる前の時間・場所に戻すことだって可能だ。』
「なるほど。」
それなら、こんなにおいしい話はないだろう。
「わかった。キリ、協力するよ。」
だって、私にはどうしても叶えたい願いがあったから・・・。