one night
□第一夜
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最初は犬か猫だと思ったんだ。
川面から時折出る濡れた毛のようなものが見えた時、間違いなくそれが生き物だという確信はあった。
視力は人よりもかなりいい方だったしね。
だから、持っていた竹刀を使ってなんとかそいつを助けようとした。
自分でも本当に馬鹿だとは思う。
真冬だというのに。
川は決して浅くも狭くもないというのに。
無理に橋の上から身を乗り出した私は、お約束のように川に落ちた。
『しかし、その馬鹿さは嫌いじゃない』
なんとか目標に手を伸ばし、その腕に抱きしめる。
よかった、流れが緩やかだからまだなんとか浮ける。
しかしこの水温じゃ私の体力が持たない。
日は沈みかけ、街灯がないと川の様子なんてわからない。
「うっ・・・」
しかし、泳ぐには手がふさがっているせいでかなり不自由だ。
右手には竹刀。
そして左手には・・・
「・・・?」
そこで私は気付く。
自分が左手に抱えたそれは、犬でも猫でもない・・・もっといえば、そいつが今まで見たことのない動物だということに。
「なんなのこれっ・・・わぷっ!?」
一瞬気がそれてしまったのが運の尽きだったらしく、私は見事に足を捻ってしまった。
がぽがぽと間抜けな音を立てながら沈んでいく身体。
せめてこいつだけはと、私は左手を上に掲げ・・・・・・
そのまま、気を失った。
『気に入った。お前は僕のものになれ。』
・・・・・・頭の中で、誰かが私にそう言った。
「・・・ここどこだ・・・?」
気が付いたら私は布団の上に寝ていた。
川に飛び込んだせいもあって、全身ぐしょぐしょだというのに・・・
「・・・そうだ!犬!?猫!?あいつどこいった!?」
上半身を起こして周りを見渡せば、そこはどうやら寺の中のようで、もしかしたら通りすがりのお坊さんかなんかが助けてくれたのかもと一瞬考えたが・・・
「いや、フツー救急車だよね。」
『お前は動物を救急車で運ぶのか。』
「!?」
てっきり一人だと思ってたから恥ずかしい。
しかし、思いっきり独り言に突っ込んできた相手の方を反射的に向いてしまうのは、私の持ち前の好奇心のせいだろう。
それでも、薄暗い部屋の中では声の主らしき姿を捉えることができないのだが。
「・・・貴方が私を?」
声だけ聞いても男か女か判断ができないが、少なくとも若い人なのだということはわかる。
『ああ、そうだ。』
その人がそう答えて間もなく、私の膝に何かが落ちた。
・・・いや、落ちたのではない。
多分、乗ったのだ。
「さっきの・・・?」
きっと、あの動物だと察した。
しかし、あろうことかその動物と同じ角度から、例の声がしたのだ。
『僕はキリ。五聖獣の中央を守護する者。先程は助けてくれてありがとう。』
「・・・・・・。」
はい?