one night
□第十七夜
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その後も私達はいくつかのお店を見て回った。
しかし、相変わらず私の気持ちは沈んだままだった。
「おしっ、こんだけ買い込んだんだし、後は帰るだけだな。」
「そうですね。まだ時間はありますが、そろそろ練習もしたいですし。」
それでも、さっきまでのように明らかにボーッとしていたら、皆が心配してくる。
・・・それに、私がどんな態度を取ったとしても、カイは気にしないしね・・・。
皆と適度な距離を保ちながら、相手の話を一生懸命に聞く。
せめて表面上は、なんでもないように振る舞おうと思ったのだ。
やがて港に着いた私達は、広々とした海を見て絶句した。
「「「「「「・・・・・・。」」」」」」
船がない。
おかしい。
あんな馬鹿デカイ船を見失うはずはないし、この町に港はここしかない。
しかし、近くを通りかかったお兄さんに聞くと、船は一時間も前に出航したとのこと。
「どどどどどーしてー!?」
「船の出航は余裕の筈ネー!!」
「ああああああああ!!!せっ、世界大会がっロシア大会がっ私の夢がぁぁぁぁぁ!」
困惑する小学生組に対して、私達中学生組は多少は落ち着いていた。
「落ち着け。」
レイの一言で、3人は一先ず我に返る。
冷静に状況を整理し、船は諦めて他の手段を考えた方がいいと告げる。
「あのじいさんがいい加減なこというから・・・!」
「あ!そうだ、先にロシアに行ってる大転寺会長に相談するのはどうカナ?」
「それはできません・・・。ロシアのどこにいるか聞いてません・・・。ロシアに到着したら港で落ち合う約束だけしていましたから・・・。」
まさか予定が狂うなんて、誰も想定してなかったしね・・・。
「せめて携帯番号でもわかればいいのにね・・・。」
そう口にすると同時、誰一人とて携帯を持っていないことを思い出す。
「どーすんだよ・・・。」
「いや、会長の居場所なら調べられる。」
「え・・・?」
レイの後をついていくと、ロンドンにあるBBAのイギリス事務局へ着いた。
大使館みたいな場所と言われたけど、生憎海外に行ったことのない私から言わせてもらえば、そもそも大使館というものがわからない。
それでも、やっぱり長い間旅をしてきただけあって、今日のレイは一段と頼りになった。
しかし、そこでも大転寺会長と連絡はとれなかった。
どうやら宿泊先から外出してしまったらしい。
携帯電話の類いも持っておらず、結局私達は会長からの連絡を待つことに決めた。
「それにしても大人なのにケータイ持ってないなんて・・・。」
「そんなもんじゃねぇのか?うちはじっちゃんも親父も兄ちゃんも持ってないし。」
「それじゃ不便じゃない?私なんて小3からきっずケータイ持ってたのに・・・。」
「きっずケータイ?」
どうやらきっずケータイすら通じないなんて・・・どれだけ田舎なんだろう。
「・・・セツナ。」
「な、なにっ?」
不意にカイに呼び止められ、心臓がドキッと跳ねる。
「ここではそれが当たり前だ。」
「ここ・・・?」
私は首をかしげる。
カイは何を言いたいんだろう・・・。
・・・あれ、もしかして私、またなにか忘れてるの・・・?
「・・・仕方ないな。それでいいか?」
考え始めた途端、レイがこちらに向かって問い掛けた。
「・・・え、ごめんなんのはなし?」
「会長の連絡がつくまで、ホテルで過ごすことにした。ここが全て手配してくれるらしい。」
「・・・あ、いいよ。」
「構わん。」
「ボクも賛成ネ。」
・・・ふぅ、と溜め息を吐いた。
キョウジュが持っていた自分のパスポートを受付で見せている。
・・・あれ・・・そういや私、パスポートってどうやって取ったんだろ。
・・・なんか、また色んなこと考えてるなぁ・・・。
しかし、そんな心情なんて悟られないように、飽くまでいつも通りに過ごす。
余計なことを考えるから気持ちが落ち込むんだ。
なんか他に考えられることを探そう。
考えられること・・・考えられること・・・
ふと、視界の隅に捕らえたタカオが、一枚の写真に向かって歩いていく。
そこにはあのラルフの姿が。
私は皆がするのと同じようにタカオについていき、その写真をまじまじと眺めた。
受付のお姉さんが言うには、どうやらドイツ大会のときのものらしい。
そして、今年の優勝者だったらしいけれど、何故か今度の決勝大会には出ないということも聞いた。
「あんなに強いやつが決勝戦に出ないなんて・・・。」
外に出た私達は、まずホテルを目指すことにした。
「それにしてもかなりハイレベルネ。世界大会決勝戦は。」
「兎に角早いとこ見てみたい。世界大会に出てくるやつらの力を。」
そうマックスとタカオが口にしたときだった。
「セカイタイカイ・・・ダト・・・?」
「「!!」」
不気味な声が耳に真っ直ぐに入ってきた。
咄嗟に振り替えったけど、一瞬だけ何か黒いものが見えた。
しかし、それは瞬きをした瞬間に消えてしまう。
「どうしました?」
「「・・・・・・?」」
私とタカオは顔を見合わせた。
「・・・何かいた気がしたんだけど・・・。」
「What?」
マックスが私の指差す方向へ目を向けるも、やはりそこには何もいない。
「・・・気のせいみたいだな。」
「・・・かな?」
なんだか気味が悪かったけど、気にしないようにした。
・・・なんなんだろう、今日は本当に・・・。