one night
□第八夜
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アジア大会まであと2日。
私はこちらへ持ってきた服が暑すぎるので、練習を終えたカイに服屋に連れていってくれと頼んだ。
「断る。」
「いいじゃん、カイだって必要なものあるでしょ?買いに行こうよー。それに私、この町の・・・ってか、この世界の地理詳しくないんだもん。帰ってこれなくなっちゃうよー。」
「・・・・・・。」
カイは表に出ると、地面に何やら木の棒で書き始める。
「ここがいま、俺達のいる場所だ。・・・そして、この通りを出て右にいけば大通りに出る。30分ほどまっすぐ歩けば駅に出る。そこなら何かしらあるだろう。」
「・・・・・・。」
思っていたよりも絵がシンプル過ぎてわからない・・・・・・。
「なんだ。」
「帰ってこれなくなったらどうしたらいい?」
「迷うような道のりではない。」
「・・・・・・。」
・・・変だな。
カイは基本的にクールだ。
だけれど、なんだかんだで目に見えない優しさを持ち合わせているのは、だんだんわかってきた。
だからここまで私が不安がれば、いつもなら着いてきてくれそうなのに、今日はそういった気配がない。
ひょっとして・・・
「カイ、もしかして用事でもあるの?」
「・・・・・・。今日は家に帰る。当分行けなくなるからな。」
渋々口を割るカイ。
「じゃあ今日は私一人なの?」
「夜には帰ってくる。貴様を一人にするのはさすがに不安だからな。」
なんだ、やっぱりこういう気遣いはしてくれるんだ・・・。
「最初からそういってくれればいいのに。ま、頑張って一人で行ってみるよ。」
「ああ。」
私はパーカーを羽織って腕を捲り、財布をしっかりしまう。
私の世界とは季節が真逆だったから、この10日間本当に苦労した。
でもそれも今日で終わりだと、私はうきうきしながら町へ出るのだった。
カイのいう通り、大通りにさえ出てしまえば駅前まではまっすぐだったので助かった。
最初はコンビニの帰り道すらわからなくて迷子になっていたことを思い出す。
そういえば、またタカオの家に行くと言ったきり、行っていない。
もう道は覚えたし、今度行ってみるかなー。
暫く歩くと、前に見覚えのある姿を見かけた。
「マックス!」
「Oh!セツナちゃん!」
マックスは私に近づくなり、ギュッと抱き締める。
「キャア!?」
「アハハ、可愛い反応するネ!」
最初に会ったときには頬にキスをされ、今日は抱き締められた。
・・・ホント、文化の違いと言えど慣れそうにないんだよな・・・。
「ところでセツナちゃん、買い物か何か行くの?」
「まぁね。明後日は中国に行くでしょ?私、冬服しかないから・・・」
「Why?・・・確かに大会でも長袖の姿しか見なかったけど。」
「えっ、あ。」
しまった、怪しまれた・・・!?
「ほら、卒業したら制服しかないからさ!小学校のときより身長も伸びたしね!」
「オーマイゴーッット!!セツナちゃん中学生だったの!?ボクよりお姉さんだったなんて!!」
「待って待って。マックス小学生なの!?」
お互いに衝撃の事実が発覚した。
「え、私中一なんだけど・・・マックスは?」
「ボク、こっちだと五年生カナ?タカオやキョウジュと同い年だよ!」
タカオ達が小学生なのはわかってたけど・・・まさか2歳も年下だったとは・・・。
あ、でもそれならある程度のスキンシップは許せる・・・かな?