one night
□第五夜
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ピアノ線の張り巡らされたスタジアム。
この隙間を抜けるだけで大変そうなのは見て明らかだし、簡単には切れないから、ぶつかる度にベイブレードの回転力は落ちることだろう。
岩場よりももっとたちが悪い。
汗ばむ手をパーカーでごしごしと拭き、シューターを構える。
「「「3、2、1・・・ゴー、シュート!!!」」」
「(キリ、そのままいくと糸にはね飛ばされる!!)」
『分かってる』
キリは上手く糸を避け、なんとかスタジアムに着地した。
糸は大きく二段に分かれているが、基本的にはランダムに張られているため、避けながら移動しなければならない。
何人かの子は、シュート段階で糸に触れてしまい、早くもバランスを崩した。
しかし、これはチャンスだ。
「(キリ、右の方が少し糸が少ないよ。そっちから攻めよう。)」
『そうだな。』
キリは30p程離れた場所のフラついたベイブレード目掛けて動き出す。
しかしそのとき、突然目の前のピアノ線が弛んだのだった。
「キリ避けて!!」
思わず叫んだところ、間一髪でキリは避けた。
よく見ると、ピアノ線が弛んだのではなく、切れたせいで落ちてきたらしい。
「うわあっ」
「邪魔だってば!!」
「僕のベイブレードっ・・・!」
その後も次々にピアノ線が切れ、多くのベイブレードが足をとられていく。
「おおっと!?あの頑丈なピアノ線が切れて行く!?」
「キリ、上からも来るよ!」
『わかってる、って・・・!お前口に出さないと指示できないのか!!』
「(あっ、つい・・・)」
『ちっ・・・しかし、このピアノ線をいとも簡単に切るとは・・・。』
一体どのベイブレードがこんなことを・・・?
私もキリも、その本体を探し始めていた。
「(あっ、あのお兄ちゃん・・・)」
まさにいま、ピアノ線を切ったベイブレードを目でとらえたと思ったら、その持ち主はあのお兄ちゃんだったのだ。
『なるほど。これはやりがいがありそうだ。』
「(キリ、なにする気?あのお兄ちゃんのベイブレード、もしかしたら・・・。)」
『なんだやっぱりそうか。・・・ならば話は早い。セツナ、喧嘩吹っ掛けるぞ。』
ピアノ線は下段残り2本。
上段はまだまだたくさんある。
残ったベイブレードは5個・・・。
「上手く糸を切ってくれたお陰で助かったぜ!!」
「ああ、これなら上手く行けっ・・・ぶふぉっ!?」
鈍い音を立てて、とあるブレーダーの頬にベイブレードがあたる。
「すまない、つい勢いが余った。」
「ああ!?」
皆の注目がそちらに行っている内に、私も油断しているベイブレードを攻める。
「負けるな!」
「(キリ、私ならまだ大丈夫!どんどん行って!)」
『ああ、まかせろ』
キリは一旦距離を取ると、勢いを付けて相手を飛ばした。
「あっ・・・!」
しかし、相手のベイブレードは運よく上段の糸に当たり、そのまま跳ね返ってきた。
『ちっ・・・!!』
スッと避けるものの、避けた先にピアノ線があり、僅かに掠れてしまう。
『んなところで負けてられるかっ!』
キリは大きく傾くものの、そのままの勢いで落下してきたベイブレードに止めをさした。
「決まったぁっ!セツナ君(?)のアタック!!」
「行けぇ、ドライガー!!」
丁度DJに被るように、あのお兄ちゃんが叫ぶ。
すると、こちらに攻撃を仕掛けてきたではないか。
「(キリ!)」
ガシィッ!!
ガキンッ!!!
そう音を立てて飛んでいったのは、もうひとつのベイブレードだった。
「レイ君も更にアタック!!さぁ、これで残るベイブレードは2つとなった!このまま時間がくれば二人とも予選通過だー!」
私達の視線が交わった。
そのとき、お兄ちゃんの目の奥がスッと鋭くなった気がした。
そう、まるで獲物を捕らえるときのように・・・。
「1つ聞くが、お前には無駄な戦いをわざわざ吹っ掛ける趣味はあるか?」
「えっ、いや・・・」
『セツナ。折角の誘いだ。こう答えてやれ。』
「(キリ!?)」
『生憎俺にはそんな趣味はない。』
「生憎俺にはそんな趣味はない。」
『だが』
「だが」
『楽しめる戦いをみすみす逃す趣味もないぜ!!』
「楽しめる戦いをみすみす逃す趣味もないぜ!!(って、ええええええええ!?)」
心の中で絶句した。