one night
□第四夜
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キリがベイブレードに戻ってしまったので、やることがない。
どうせ暫くはカイも帰ってこないだろうと思った私は、昼間にシェルキラーの子から聞いた銭湯に行ってみることにした。
銭湯は思っていたよりも近く、閉店ギリギリだったためにそんなに混んでいなかった。
番頭のおばちゃんに性別を疑われかけたが、パーカーを脱いでシャツ一枚になったらそのまま通してもらえた。
キリに出してもらった着替えを用意し、私は30分ほど銭湯にいた。
その帰りのことだった。
隣のコインランドリーで洗濯をしていたら、柄の悪そうなお兄さんが入ってきた。
私の座っているほうに灰皿があったため、近くに座るお兄さん。
・・・心なしか、視線を感じる。
居たたまれなくなって外に出ようとしたら、突然腕を捕まれた。
「っ、離して!」
「なんだよ、やっぱり女じゃん。」
「!!!」
キリが男装を推奨していた理由をここに来て悟る。
どうせ誰もいないだろうと、ブラも付けずにTシャツ一枚で出てきた自分を恨んでももう遅い。
お兄さんは私を壁に押し付けると、いやらしい笑みを浮かべている。
そういう知識はきちんとあるけれど、経験はない。
思わず身体を強ばらせた。
「大丈夫だって、ちょっと悪戯するだけだからさ?」
「や、ヤダッ・・・!」
「テメッ、暴れんなよ!」
腰を引き寄せられ、顔が近付いてくる。
それでも必死に抵抗し、なんとかその腕を振りほどこうとする。
・・・ヤバい、竹刀がないと何もできない・・・!!
「誰かっ・・・!!」
この世界に呼べる名前なんてそう多くない。
私はただひとり、頭に浮かんだその人の名前を叫んだ。
「カイーーーーーーッ!!!!」
ギュンッッ!!!
「だぁあっ!?」
鈍い音がしたと同時、私を拘束していた腕が解かれた。
私は急いで助けてくれた人の元へと駆け込む。
「カイっ・・・!」
カイはフンと息を吐くと、さりげなく私を後ろへ庇う。
「なんだッ・・・!・・・お、お前はっ・・・!?」
そのお兄さんはカイを見た瞬間に青ざめ、そのまま逃げていってしまった。
「あ、ありがとう・・・。」
「・・・勘違いするな。」
「え、何を?」
「・・・馬鹿かお前は。」
「馬鹿って・・・」
ムッとする私を余所に、丁度乾燥の終わった洗濯機からパーカーを取り出すカイ。
「・・・誘っていると思われても仕方ない。なんのためにそんな格好をしているんだ。」
「あ・・・。」
よくよく見ると、ほんのりとカイの顔が赤らんでいるのがわかった。
思わずうつむくと、予想以上に胸元が露になっていたので、更に居たたまれない気持ちになる。
蒸し暑いけれど、やっぱり上着は着ておこう・・・。
残りの洗濯物もしっかり持つと、私達は帰路へ着いた。