one night

□第三夜
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翌朝。

目覚まし時計もないのに、自然と目が覚めた上に、久しぶりに気分よく目覚めることができた。

カイは隣でまだ寝息を立てていたので、起こさないようにそっとベッドから降りる。

そして、念のために部屋の外に出て、ポケットからベイブレードを取りだし、そっと声をかけてみる。

「キリ、まだこの姿のままなの?カイは仲間になった筈なんだけど・・・。」



しかし、キリからはなんの返事もなかった。

もしかしたら、キリが力を取り戻すにはもっと何か必要な条件があるのかもしれない。

・・・仕方ない。

後でまたカイからシューターを借りてベイブレードを回そう。

そしたらキリは会話ができる筈だから。



そのとき、私のお腹はグ〜・・・と音をたてる。

しかし、悲しいことに金はキリが持っていて、この廃墟に食料があるかどうかもわからない。

やむを得ず、私はカイを起こすことにした。



ガチャ・・・とわざとらしく大きな音を立て、わざとらしく大きな咳払いをする。

・・・が、カイはピクリともしない。

案外寝起きが悪いのかもしれないので、私はベッドに乗り込んでカイを揺さぶる。

「カイー、朝だよー。」

しかし、返事はない。

「ねぇ」

少し強めに揺さぶるも、やはり反応はない。

「カーイーってばー。・・・起きないとイタズラするよ?」

それでも起きないものだから、私は意外と長いカイの睫毛に手を伸ばす。

こうすることで人間は目が覚めると以前教えてもらったのだ。

昔は私もよくやられたのだが、これが案外効く。



コショコショ・・・



「・・・・・・っ」

ピクリと瞼が動いたのを、私は見逃さなかった。

更に指を動かし、カイを眠りから引き上げようとするうちに、私は殆ど乗っかるような体勢になっていたのだが、それが苦しかったせいもあり、カイはそれはそれは面倒くさそうに重たい瞼を持ち上げた。



「・・・・・・なんだ、」

「おはよ、カイ。」



とりあえずニコッと笑ったのだが、それと同時にお腹の虫が鳴いたため、カイは一瞬で自分が起こされた理由を悟ったのだった。

カイは私に1,000円札を渡すと、なんでも好きなものを買ってこいと告げ、再び瞼を降ろした。

「カイはなにがいい?」

「何でも構わん。ただ、今度は真っ直ぐ帰ってこい。・・・・・・さもなくば」

「さもなくば?」

「・・・・・・。」

「・・・・・・?」

間もなく聞こえてくるのは規則的な寝息。

よほど疲れているのかもなー、なんて呑気に考えたところで、ふと、ある仮説が頭のなかに浮かんだ。



昨日のタカオの話によると、カイはタカオと何かあったようだ。

つまり、私がタカオのお爺さんと稽古をしている間に、カイとタカオは会っている。

カイが私がいないことに気付いたのはこのあとなのだけど・・・タカオが家に帰ってきた時間や、昨日私が廃墟に帰ってきたときの時間を考えると・・・・・・。



・・・・・・タカオが家に帰ってきたのは17時頃。

私が廃墟に帰ってきたのは21時頃。

そしてそのとき、カイはベッドに寝そべっていた。

・・・・・・昨日の朝のように、本も見ずに。

しかも、私が帰ってくるのを待っていた様子だったのに、シェルキラーの皆には私を捜させていないと言っていた。



・・・もしかしてだけど、カイはあれからずっと、私を捜していたのかもしれない。



私はそっと扉を開け、急いでコンビニを目指した。












「・・・・・・。」

セツナが去った後、カイはゆっくり瞼を持ち上げた。

誰のせいで寝れなかったと思っているんだ、そう悪態をついてやりたかったが、ややこしいことになりそうなのでやめたのだ。

なぜあのとき、さっさとベッドから降りろと言わなかったのか。

なぜ結局、隣で寝ることを許してしまった挙げ句、そのまま蹴落とさなかったのか。

普段異性と近付くことが殆どないせいで、僅かな躊躇いが生じた結果、このようなことになってしまったのだ。



・・・・・・今夜、同じことになったら必ずベッドから降ろす。



そう決意したカイだったが、自宅に帰ってセツナだけをここに置いていくという選択肢を無意識に外していたことには気付かなかったのであった。
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