last night
□第十夜
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「あ、ぅ・・・・・・。」
不意にタカオの目が泳ぎだす。
「やめろ・・・んな目で、見るんじゃねえっ!!」
「おわっ!?」
遂にその眼光に耐えきれなくなったタカオは、大地君を押し退けて、走り出した。
・・・・・・いや、耐えきれなくなったのは、何もレイの眼光だけではない気がする・・・・・・。
でももう、彼を気遣えるような余裕なんて私にはなかった。
「ふん。世界チャンプも大したことなかったな。」
「っ・・・・・・」
「ライ。」
私が言葉を発する前に、レイが静かな声でライの名を呼ぶ。
「タカオを甘く見るなよ。・・・タカオの本当の力は、あんなものじゃない。」
「!!!」
そしてレイは今度は私の方へ、その鋭い眼光を向ける。
「・・・・・・何があったかは知らんが、お前がタカオの力を生かせなければ、世界には通用しない。少なくとも、味方同士で争っている内は、俺達には勝てないぞ。」
「・・・・・・っ、」
わかってるよ、そんなことくらい・・・・・・。
でも、もう言い返す気力もなく、ただ黙ってバイフーズが去るのを待った。
「・・・ちぇっ。」
大地君が頭の後ろで腕を組む。
「どっちが降りるにしたっておいらが代わりに出ることになるけどよ、お前らみたいにうじうじ悩んだりする奴と組むなんて、考えてもなかったぜ。」
「・・・・・・。」
「早く来いよ。監督が待ってんだからよ。」
「・・・・・・。」
「セツナ。」
イライラした口調で、私の名を呼ぶ大地君が、グイッと腕を引っ張る。
この感情を、どうしたらいい?
吐き出したい。
逃げ出したい。
どこへ?
「っ・・・・・・、うわぁぁぁああああああっっっっっ!!!!」
「「「!!!!」」」
突如聞こえた声に、BBAのメンバーは顔を見合わせた。
「今の・・・」
「間違いないわ、セツナちゃんの声よ!!」
「・・・・・・っ!!」
直ぐ様走り出し、角を曲がる。
・・・しかし、
「わっ!?」
「きゃ!?」
キョウジュ、ヒロミは突然発せられた目映い光と強い風に目を瞑り、顔の前に手を翳した。
「な、なんなんですか・・・!?」
「眩しっ・・・!」
しかし、サングラスを持っていたヒトシだけは、咄嗟にそれを装着したお陰で何が起きているのかをその目でおおよそ捉えることができた。
「麒麟の力の暴走・・・!!」
虚ろな目をしたセツナの傍で、大地が気を失っている。
ヒトシは直ぐ様駆け寄り、大地を傍のソファーへ寝かせると、セツナを振り返る。
「セツナ。」
「・・・・・・。」
その瞳には涙が浮かんでいたが、何も写していない。
ヒトシは思わずその頬に触れようと手を伸ばした。
「・・・・・・!?」
するとその途端に自身の身体が浮くような感覚がして、思わず目の前にいたセツナの肩を抱き寄せた。
「な、なんだこれは・・・!?」
冷や汗が出たのは、目の前の超上現象に驚いたからではない。
以前、確かに自分はこれと同様の出来事に巻き込まれたような感覚があったからだ。
「っ・・・セツナ!!」
その名を口にした途端、目の前が真っ暗になり、自由落下するかのように身体が重くなった。
いや、実際に落ちているのだ。
自分はこの少女とともに。
「くっ・・・・・・!!」
周りを見ても、何も見えないし聞こえない。
大地も、キョウジュも、ヒロミも、どこへ行ってしまったというのか。
しかし、頭のどこかでその答えを知っているような気がして、いくらか冷静になれる。
思わずセツナを抱く腕に力が籠るが、やがて頬に暖かい水がパタパタと当たった。
「セツナ・・・・・・。」
『やれやれ、無茶しやがるぜ。』
「・・・・・・!?」
自身の頬に当たったのが、彼女の涙だと気付くと同時に聞こえた声。
ヒトシは思わず息を飲んだが、間髪入れずに、今度は下から光が溢れてきて・・・・・・。
「・・・・・・っ!?」
咄嗟に受け身を取るものの、運良く柔らかいもの・・・どうやらベッドの上に落ちたらしく、そこまでのダメージはない。
「セツナっ、・・・・・・!!」
セツナが無事なことを確認し、大きく息を吐いた。
そして辺りをゆっくりと見渡す。
「・・・・・・誰かの部屋、のようだが・・・いや、・・・なぜだ・・・・・・・・・・・・?」
ヒトシが降りたことによってスプリングが軋んだベッドが、僅かにセツナの身体を動かす。
しかし、そのことを気にできないような出来事が、ヒトシを襲った。
「うっ・・・・・・!?」
突如襲い掛かってきた激しい頭痛。
思わず頭を抱えて座り込むものの、脂汗が滲んでくる。
「・・・・・・っ、ぁ・・・・・・!!」
次々に、脳に沢山の映像が浮かんでくる。
幼いセツナの顔。
二人の男女の顔。
懐かしさを感じる家。
通ったことのない筈の校舎。
「俺は・・・・・・知っている・・・・・・?」
トクンと、心臓が音を立てた。
そうだ。
全て知っている。
自分達がいた世界とは異なる、もう一つの世界での出来事を・・・・・・。
「っ、セツナ・・・・・・。」
程なくして頭痛は消えるものの、ずっしりと身体は重い。
しかし、そんなことに構わず、ヒトシはセツナに近付き、その頬に改めて触れた。
「ん・・・・・・?」
「!!」
瞼が微かに揺れ、うっすらと開く。
「ここは・・・?」
「・・・・・・家だ。」
「・・・・・・?」
パチパチとゆっくり瞬きを繰り返し、セツナは目の前に写る青年をじっと見つめた。
「お兄、ちゃん・・・・・・?」