短いお話

□白雪
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音がした。雪が積もる音が。
俺がそう言うと殆どの人がそんな音するわけが無いとバカにする。そんな嘘をついてまで人の気を引きたいのかと。
けれど、確かに聞こえたのだ。ずし、ずしと…静かな冬の朝に降り積もる雪が奏でる音色が。最近では人に言うだけムダだとわかってるので、誰にも言わないけれど。

ベットから体を起こすと、向かいの窓から薄く光がさしているのが見えた。
閉め切られたカーテンの隙間から見えたのは降り積もる雪。ベットから降り、その辺に散らばっていたバスローブを適当に羽織って、窓辺に近づく。

やっぱり、雪が降っていた。

しんしんと降り積もる雪を眺める。雪は儚げに、ソウルの街を白く染め上げていた。
俺、死ぬときは雪の中で死にたいかも。真っ白な雪の中で…降り積もる雪で埋れて逝きたい。
そうしたら、そのまま雪と同化出来そうな気がするから。自分の真っ黒な部分も白く白く雪が書き換えてくれそうだから。

「風邪ひきますよ。」

その言葉と同時に背後から感じるぬくもり。後ろから、タオルケットを羽織ったミノに抱きしめられたようだ。

「何だ、もう起きたのか。珍しい。」

目線を窓の外に向けたままミノに問いかける。

「ひょんがベットからいなくなるから寒くて。おかげで目が覚めました。…あぁ、雪が降ってるんですね。通りで寒いわけだ。」

そう言ったミノは体を震わせて、俺の首筋に顔を埋めた。猫っ毛なミノの髪があたって少しくすぐったい。

「…音がしたんだ。雪が積もる音。」

そう言ってハッとする俺。もう誰にも言うまいと思っていた言葉。何故今ミノに言ってしまったのだろう。
今更ながら、俺は後悔していた。

2人の間を沈黙が流れる。どうしよう…。ミノの返事が…怖い。また、あの日の様に拒絶されるのだろうか。

「へぇ…。どんな音がするんですか?」

俺にも聞こえたらいいのにとミノは雪を見つめながら楽しそうに答えた。ああ…だから俺はきっと…。

「信じるのかよ。変なやつ。」

照れ隠しに憎まれ口を叩いてしまう可愛げのない俺。俺の言葉にあははっと笑いながら言葉を続けるミノ。

「ひょんってさ、たまに人とは違う視点で生きてるんじゃないかって思う時があるんだよね。なんとなくだけど。
残念ながら人並みの感性しか持ち合わせてない俺にはひょんが見ている世界はわからないけど…
少しでも近づけたらいいのにとはいつも思ってる。だからさ、教えてよ。ひょんがいつも思ってる事を。見てる世界を。」

そう言って、俺の首筋にちゅっと優しく口付けるミノ。

「そんな事言ってくれたのは…お前が初めてだよ。」

嬉しくて、照れ臭くて…。何だか泣きそうになりながら、俺はミノに向き直しその頬にそっとキスをした。
その後惚れ直した?なんてニヤニヤしながら聞いてくるヤツに一気に白けたけどな。
 

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