長いお話

□桜舞う
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桜並木を歩く僕の頬を4月の優しい風がそっと撫でる。
見上げると、まだ五分咲き程度の桜たちが太陽に透かされてキラキラと輝いていた。それがあまりにも儚げで繊細で。目を細めた僕は、思わず記憶のなかの君と重ね会わせていた。
誰よりも繊細で優しい心を持った美しい君と。
春…。世界で一番大切な君と出会って、そして別れた季節。
「ジュンちゃ〜ん。なにしてるのぉ。早くしないとおいってっちゃうよ〜。」
今まで隣にいたはずのユチョンが道路越しに僕に向かって手をふってるのが見えた。肩まで伸ばした髪に緩くかけたパーマが手を振る度にゆらゆら揺れる。黒い宝石みたいに輝く目を縁取るように生えた長いまつげは、彼女が瞬きをする度にパチパチと音をたてそうだ。…うん、可愛い。どこからみても可愛いんだけどさぁ…愛らしいおへそが丸見えだ。全く思春期の女の子がはしたない。
「ごめんね〜っ。今行くよ。あとおへそ丸見えだから手は下ろしなさい。」
「げっ、マジ!?」
急いで服を直す彼女を愛しく思いながら僕は駆け足で彼女のもとへ向かう。記憶のなかの君とよく似た美しい女の子のもとへ。

僕と彼が出会ったのはもう20年も前の事。僕らが中学一年の春だった。
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