読み物
□つばさダイエット
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*GW前
僕にとって昼休みとは、僕の学校生活において最も暇を持て余す時間と言っても過言ではないものだった
なぜなら周りは集団で仲良くよろしく過ごす中、一人で40分間を過ごさなくてはならないからだ
居たたまれない、この一言に尽きる
しかしこの日ばかりは天に昇るような気分で
いっそのこと、ずっと昼休みだったら良いのにとさえ思ってしまう
なぜなら今日は、羽川と一緒にお弁当を食べるのだから
「じゃあ、失礼しまーす」
「ぉ、おう!」
僕の前の席の椅子に腰掛けた羽川に対して、思わず声が裏返ってしまった
事の成り行きは単純
些細な事でも僕に対し気を配る羽川
それこそ不良と勘違いし更正させようと副委員長に任命した事は言うまでもなく、一緒に授業移動したり、たわいもないeメールもくれたりする
それこそ『友達』のように
一緒に昼食をとるのもその一環として今朝、誘われたのだった
そのおかげで思考は滅茶苦茶で午前の授業はさっぱり頭に入らなかったのだが
――もう今日という日を羽川と食事記念日として毎年僕の中で祝おうそうしよう
いや、いっそ毎月一ヶ月記念日と祝うか
一緒にお弁当を机に並べているだけで、幸せ過ぎて
とにかく緊張する
「どうかしたの、阿良々木君。何か挙動不審だけれど」
羽川は上目遣いに僕の様子を伺う
「っな、ん、僕は全然ちっとも挙動不審なんかじゃないぜ!?逆にいつも通り過ぎて申し訳ない位でございますだぜ、うん!」
「ふ、そっか」
あはは何その口調、と快活に笑う羽川
ああ駄目だ。何を言っているのか自分でも全く分からない
とにかく落ち着かなくては
「た、食べようか」
「ふふっ、ん、そだね」
ずれた眼鏡を掛け直し、羽川がお弁当箱を開けるのに合わせて僕も包みを開いた
ところで、一緒に食事とはどうすればいいのか。
一緒に食べるのだからいつものような雑談も交えて行うべきだろうが、でも話してたら食べられないし、無言で食べて、終わったら話せば良いのか?ていうか僕、家では話しながら食事しているはずだな
…どうすれば良いんだ!?
「阿良々木君?」
「え、あ…」
「本当にどうかしたの。もしかして何かあった?相談事とかあるなら言ってね」
…僕は本当に馬鹿か
「悪い、大丈夫だよ。羽川」
「そっか、なら良かった。よし、食べよう!いただきまーす」
「い、いただだきます」
噛みまみた!
気にせず深く考えなければ、なんてことなく会話をしながら楽しく食事が出来た
でも食べるよりも話したくて、僕はお昼をものの数分で済まてしまった
器用に食事と会話を成立させる羽川はゆっくりとお手製のお弁当を口に運ぶ
「あれ?」
「どうかした?阿良々木君」
なんだろう、食事マナーの基本のように食べる羽川を眺めていたら、ある事に気付いた
「いや、羽川ってさ左利きだったっけ」
そう、羽川は右利きだったと記憶していたのだが。まあ羽川だし両利きでも不思議ではない
それに神原から聞いた話だと、羽川は勉強をしていて疲れたら利き手を変えるんだったか
「ん、ううん。右利きだよ。でもちょっと、ね」
「?」
「えへへ、実は私ダイエット、してて…」
「何!?」
衝撃の事実
確かに羽川のお弁当は野菜や豆類ばかりで肉がない。肉類が駄目なのかと思ったのだが…
「この間ね、ダイエット方法で利き手じゃない方の手で食べると食べづらいから少ししか食べられなくて満腹感が得やすい、って聞いてやってはいるんだけれど…」
羽川は少し照れたように説明する
「どっちの手でも普通に食べられたから、あんまり意味なくって」
「本末転倒じゃねえか!」
流石、としか言い様がなかった
…ていうか、え?何、羽川がダイエット!?
「羽川?ダイエット、してるのか…?」
「ん、うん」
恥ずかしそうに頷く
そんなどうして、何のために!?
「何でそんな事…羽川こそ僕に相談することがあるんじゃないか!?」
「いや、さすがに気になってても異性に体型の事を相談したりはしないでしょう」
落ち着いてよ、と平静をとり戻した様子でつっこむ
「でも羽川がそんな事する必要ないだろ!」
「うーん…女子としては気になっちゃうんだよね、ちょっとでも」
『ちょっとでも』
そう言えば僕、吸血鬼もどきになって三週間程経つけれど、早くも体型が変わらない事に慣れていたのかもしれない
「そっか、でもさ羽川。もともとお前細いんだし、本当に気にすることないと、僕は思うけどな」
それに男子は少し位肉付きの良い方が好きだったりするのだ
「ほ、本当に?」
「もちろん」
それにダイエットだなんて、そんな事したら―――羽川の胸が拝めなくなってしまうじゃないか!!
僕はあの春休みからいつか、いつかは絶対に羽川の胸を…!!おっと危ない。これ以上は発禁ものだぜ!
「…そう、やっぱりダイエット頑張ろうかな」
「え!?」
《素直な下心,不器用な片想い》
<あとがたり→>