読み物

□つきひミッドナイト
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「暑…」

それは口にしてはみたものの、暑いというよりは不快が身体中を纏っている、と言いたくなる状態だった

日付を跨いで1時間と少したった頃

夏独特の蒸し暑さによって大量の汗も相成り、なかなか寝付けずにいた僕は水分補給のために台所のある一階へ行くため、汗で水分が減り重たく感じる体を引きずって階段を降りていた

階段もあと数歩、というところで一階の灯りが点いていることに気付いた

深夜を廻った時刻である
明日も仕事である両親は先程寝室に入っていて、きっと今頃熟睡中だ

まさか座敷わらしがいるわけでもあるまい(割とそうだったりして)
さしずめ火憐ちゃんと月火ちゃんが、それともどちらかが夜更かしでもしているのだろう

案の定、リビングに居たのはソファに寝転がってぽーっとテレビ眺めている月火ちゃんだった

「んぁ、お兄ちゃん」

近づいてソファに腰を下ろした所で月火ちゃんはようやく僕に気付いた

「こんな時間になに、お兄ちゃん。見たい深夜番組でもあったの?足音隠して降りてきて。やらしー」

減らない口だ。それに現在進行形で見ているのは月火ちゃんの方だというのに

「隠してねえし見ねえよ。暑くて汗、かいたから水飲みに来たんだ。つうかお前こそ何して…」

「お兄ちゃんとおんなじ」

リビングは皆が集まる場所なので両親が寝る直前までエアコンを起動させている
残った冷気で涼んでいたのか

月火ちゃんは発汗がとても良い
その理由を知ったのはつい先週
不死身で不死鳥の怪異で偽者の妹、と

「…ねえお兄ちゃん」

「なんだよ」

「麦茶持ってきて」

「…」

そういえば、僕は水分補給をしに来たのだった

だから序でに持ってきてあげるだけなんだからね!
妹にパシられるとか、別に興奮してないッス

「ほら」

「あんがとー」

月火ちゃんは、麦茶を手渡され飲もうとしたが寝転がったままでは飲めず、軽く舌打ちをして気だるそうに起き上がり口に含んだ

「ねえお兄ちゃん」

「今度はなんだよ」

「今日はそのパンツなんだね」

おや、ズボンがずれていた
ちなみに上は暑いので脱いでいる

「そういう月火ちゃんは何色なんだよ」

「涼しくなるかなーって思って水色にしたんだけど、なんないねえ」

「やっぱり白だな」

「やっぱり白だね」

深夜らしいトークだ
まあ寝起きでもするけれど

そんな、いつも通りの会話を繰り広げたりして
話は弾み、四杯目の麦茶を注いで戻ったところで月火ちゃんは流石に眠くなったらしく、とろんとしていた


そんな月火ちゃんを見て僕は改めて思う

月火ちゃんの本当を知ったところで変わったことと言えば、月火ちゃんの髪型と僕が戦場ヶ原と付き合っている事を教えたくらいなのだ
きっとこれからも日々変わることがあるのだろうけれど、僕と月火ちゃんの兄と妹の関係は変わらないのだと
変わるのは法律が変わった時くらいだろう

「ねえお兄ちゃん」

「ん」

「熱い視線で見つめないで、暑苦しい」

おっと、邪なことを考えていたら視線から漏れてしまった

「ていうか私寝る」

「なんだよ今更つれないなあ。ここまで来たら、いっそオールしちゃおうぜ」

「何でテンション上がってんの…。私明日水鳥君とデートだから、隈とか作りたくないし」

「何!?それは阻止すべし!」

「丁重に御断りさせていただきます」

「丁重に御断りされた!」

しかも三指で!

「まあ、寝るか」

いい加減に良い時間だ

「よしお兄ちゃん、部屋までおぶって」

「へいへい」

そうして僕は月火ちゃんを所謂お姫さま抱っこで部屋に運び、ぐっすり眠る火憐の寝顔を確認して月火ちゃんにおやすみを言って、自分の部屋に戻ったのだった





《変わらないものなんてないけれど、永遠はあって》

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