読み物

□まよいプロミス
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それは夏の日

月火ちゃんにじゃんけんで負け、真夏の陽射しが容赦なく照り付ける中、アイスを買い求めて自転車で最寄りのコンビニへ行った帰り道


「…ほっ!」「えいっ!」「とりゃ!」


約10メートル先の木の下で愛らしい掛け声を上げながらジャンプする、それは世界一可愛い小学5年生八九寺真宵がいた

なんてこったい

ジャンプすることでスカートは揺れるも捲れ上がらない(この素晴らしさが神原には理解されないのは遺憾なものだ)

しかも八九寺の表情はこの暑い中真剣そのものといった感じで一生懸命

――――どうしよう超連れて帰りたいずっと眺めてたい可愛過ぎる!!

って最近早まって八九寺を僕の家に誘拐…もとい連れて来てしまった後、かなり反省したばかりだというのに

「!!」

おっと危ない
そんな事を考えてたら、無意識に僕はにクラウチングスタートの姿勢をとっていた

まったく…
いくら紳士同盟を結んでいるからと言って、毎回勢い任せにセクハラする必要などないのだ
同じ事ばかりでは人間堕落してしまう
たまには普通に駄弁ろうじゃないか

僕は自転車を少しの間だからと道の端に駐輪し、抜き足差し足忍び足で八九寺の背後にまわった

そして僕は、未だ僕に気付かず一心不乱にジャンプし続ける八九寺のスカートを捲る

それはもう勢い良く、背中まで見えるほど

「っ!!」

然為れば八九寺は分け目もふらず無言のまま走り去り、丁度曲がり角で止まった

「お巡りさんこっちです!変態がいます!!」

「!?ちょ、ちょっと待て八九寺!」

「む、阿良々木さん!?聞いてください!今私変態にスカートを捲られました!!」

「え、あ?そうなのか…?」

「ええ!!阿良々木さんだったらもっとちゃんとやってくださるでしょう!?でも今のはスカート捲りという小心的な行為です!間違いなく変態です!」

「お、おう!許せないな、そんなのは!」

「許すまじ!!」

いつぞやのようにフシャー、と唸り声を上げている

八九寺は僕が犯人とは気付いていない
ならば…

「ま、まあ落ち着けよ八九寺。僕がお前を見つけてセクハラしようとしたときは誰も居なかったぜ?」

人間、嘘を吐くことで大人になるのだ

「どうして見つけてセクハラしようとするんですか!」

「それが礼儀だろう」

「そんなの紳士的じゃありません」

「セクハラしないと紳士なのか…」

判断領域が広すぎる
それなら僕は愛という名の紳士
…捕まるな

しかし八九寺は雑談により少し落ち着いたようだ

「まあ阿良々木さんが誰も居なかったと言うのなら、そうなのでしょう」

「うんうん」

「ところで足代さん…」

「いや八九寺、僕を高い所へ登るための木材を組み立てて造られる仮設の足場と間違えるな。僕の名前は阿良々木だ」

「は?何言ってるんですか、あなたは足代さんじゃないですか」

「何!?僕は踏み台だったのか!?」

「まあ物語シリーズにおいてヒロインの引き立て役という意味では合ってるかもしれませんね」

「酷い事言われた!」

興奮する!
間違えたショックだ!

「とにかく、今阿良々木さんは足代さんです」

いまいち意味が解らなかったが、八九寺が指差す方向を見れば
そこにはさっきまで八九寺がジャンプしていた木があり、木の下に行って見上げてみれば、ひとつの黄色い風船が引っ掛かっていた

「つまり八九寺はあの風船が取りたいって事か」

「そういう事になりますね」

そういう事ならば、と僕は背伸びをして風船に手を伸ばした

「この風船、誰かから貰ったのか?」

「いいえ、歩いていたら偶然にも引っ掛かっているのを見つけたんですよ」

まあ八九寺は普通の人には見えないのだから、そりゃそうか

「だから、そんなに欲しい訳でもないんです。どうせ時間が経てば萎みますしね。でも」

僕はなかなか届かない風船の紐を捕えようと手を泳がせる

「でも、そんな当たり前な結果じゃあ、寂しいじゃないですか」

何か思うところでもあるのだろうか

そんな風に思わせる、何か思い出しているような呟きに
しかし僕は何も問わず、風船の紐に手を伸ばし続けた












「阿良々木さんに少しでも希望を持った私が馬鹿でした」


あれから数分
何とか取ろうとしたのだが、残念ながら風船は取れなかった

八九寺がジャンプして取ろうとしていた位なのですぐ取れると思っていたのだが、僕がジャンプした所であと30センチほど足りない
僕の人生において、なぜ低身長に対する弊害がこんなにも多いのか

本日二度目のなんてこったい

「もう良いですよ阿良々木さん、ありがとうございました」

「いや、まだ終わってないぞ八九寺!僕は取る絶対取る取ってみせる!!」

「なんで熱くなってるんですか」

それは僕が負けず嫌いだからとかではない

この程度の願い位、叶えてやりたいのだ

しかしどうする
何か高さを増すものでもあれば…

「!!そうだ八九寺!」

「おや、何か思いついたんですか?」

「ああ!最初にお前が言ってたじゃないか!僕が足代みたく台になって、八九寺が登って取れば良い!」

名案だ!

「阿良々木さん嫌に触るなんて嫌に決まってるじゃないですか」

「何故!?」

きっとあれだ!
暑くて汗かいたから!ですよね!!

「しかしそうなると…どうしたもんなあ」

忍に血を吸って貰って吸血鬼スキルを上げてもらい大ジャンプ、とも考えたが忍はお寝むの最中だ
台になるような物も見当たらない

考えても思い浮かばず、いっそ羽川にでも助言を求めるかと思った所で携帯が着信を告げた

まさか羽川と思ったが、見れば着信は小妹こと月火ちゃんからだった

通話ボタンを押す

『ちょっとお兄ちゃんアイス買うのに何分掛かるの!!なんなの!?プチムカツク!!馬鹿馬鹿馬ー鹿!!早く買ってきて!!』

ぶつッ、と一方的に怒られ一方的に切れられた

しかし思い出した
僕はアイスを買った帰りだったのだ

しかし言い訳させて欲しい
僕に八九寺を見かけても話し掛けないなんて選択肢は無いのだ

さて、解りきっているものの、僕は放置していた自転車の元へ向かい籠の中にあるアイスを見れば、それは言うまでもなくジュースと変わらない程に溶けていた

買い直さなくてはならなくなってしまった
最近忍にミスドを買ったり参考書購入でお金に余裕がないのだが…

一旦整理しようと自転車に寄り掛かったときだった

「あ…」

足代になるものを見つけた











「ありがとうございます、阿良々木さん」

風船の紐をキュッと摘んで、八九寺ははにかみながらそう言った

僕が足代にしたもの
それは僕の自転車だった

ママチャリの後輪に付属する台に乗ったのである
マウンテンバイクでは出来なかった事なのでそこはラッキー

結果拍子抜けする程、あっさり風船を回収することができた


「気にすんなよ。お前が困ってるときはいつでも助ける、って言ったろ?」

「ああ、確かにそんな事、言っていただけましたね」

「それに折角会えたんだ、今から雑談しようぜ!」

「何をおっしゃいますか。ちゃんと受験勉強してくださいよ」

「はは…」

「それにこのまま話していると本当に雑談が始まってしまいそうですしね。
それでは、本当にありがとうございました
またどこかで!」


そう言って八九寺は左手に風船を握りしめ右手で小さく手を振りながら

元気良く、走っていった








《生き生きとした、笑顔で》
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