読み物
□なでこウォー
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戦争という遊びを僕は火憐ちゃんに教わるまで知らなかったのでマイナーな遊びだと思っていた
しかし月火ちゃんに聞いたところ、
「戦争位誰でも知ってるよ…お兄ちゃんは友達がいないから一緒にやってくれる人がいなくて知らなかっただけでしょ」
と残念そうな目で説かれてしまった
まあ確かにそうなのかもしれないが、しかしそう言われると大人気無いが反骨精神が湧いてくる
「いや、どうだかな。いくら友達が少なかった僕だってじゃんけん遊びのカレーライスやグリーンピース位は知ってるんだぜ?このふたつと同じ位の知名度を持ってなくちゃ、マイナーと言われても仕方がないんじゃないか」
それに僕には友達がいるのだ
しっかりそんな説は論破せねば
「むぅ…」
確かに、といった表情の月火ちゃん
僕は勝ち誇った顔になる。しかしそこで月火ちゃんはふと思い出しように言う
「あれ?でも考えてみれば、カレーライスを教えたのもグリーンピースを教えたのも、私と火憐ちゃんだよね」
「何!?」
「あー、そうそう、思い出したよ。私小学生の時お兄ちゃんに聞かれたんだった。
あの頃のお兄ちゃんはまだ友達を何とか作ろうとしてたんだよね。で、クラスの子がやってるの見て、話に入りたいからルールを教えてって私と火憐ちゃんに頼んできたの。あの時はびっくりしたなー。まさかそこまでお兄ちゃんに友達がいなかったとは」
あんまりに可哀想だったからすぐに教えてあげたんだった、と聞いてもいない悲しい情報のおまけ付きだった
「………」
残念な事に身に覚えがある
「それに昔は私が友達連れて来ると口では面倒くさいとか言いながら、しっかり楽しんでたしね」
昔の僕はツンデレだったようです
いや普通に素直になれなかっただけだ!不器用だっただけだよ!!
「ちょ、ちょっと待て月火ちゃん!仮に昔の、昔の僕がじゃんけん遊びの一つや二つ知らない少し残念な子だったとしても、戦争がマイナーな遊びかまでは図れないだろう!?」
「ちっ、何それ…ぁあもう!早く自分が世間知らずって認めれば良いのに!!何意地張ってんのよっ!!」
ヒスる月火ちゃん
しかし負けじと張り合う僕
不毛な言い合いは数分続いた
「〜〜!そんなに言うからにはお兄ちゃん、誰か知らなそうな人でも心当たり有るわけ!?」
「ああ、いるさ!」
「誰よ!友達のいないお兄ちゃんに!!」
「っ千、石……?」
と、言う訳で
月火ちゃんとの話し合いの結果、内気な千石が戦争を知っていたのならそれがが一般的な遊びであり僕が世間知らずである事を認める運びとなった
冷静に考えてみれば、大人げ無く意味も無く、しかも千石にも大変失礼な話である
しかし一度ヒスった月火ちゃんの機嫌は治る気配無く、30分後には阿良々木家に千石を呼んでいた
恐ろしい話だ
取り合えず月火ちゃんは場を持たせてくれたので、こんな事で呼び出してしまったのも申し訳ないし、さっさと千石に訊いてしまうことにした
「なあ千石、戦争ってじゃんけん遊び知ってるか?」
「うん、撫子の学校でもよくやるよ」
即答だった
僕の負けです、僕はじゃんけん遊びのひとつも知らない奴でした以上!
しかし終わらない
「?、でも何で?」
突然の質問で千石に疑問を持たせてしまった
だが僕が知らないから千石も知らないだろうと思った、なんて言えない
「、やってみないか?」
「うん!」
その場繋ぎに出た言葉だったが千石は乗り気なようで助かった。考えてもみれば千石は遊びが好きなのだ
僕の負けは決まっていたのかもな
さて、取り合えず千石に右手を差し出す
まずはお互いに手を繋いで…
「っ…ちょ、ちょっと待って暦お兄ちゃん!」
「どうしたんだ?」
「そんな…暦お兄ちゃんと手を繋ぐなんて…そんな恥ずかしい事、したら…………」
「?」
何か呟いているようだが、如何せんか細い声なので上手く聞き取れない
「千石?」
「ぅ…こ、こここ暦お兄ちゃん!!戦争はやっぱり駄目!」
「ん、何かあるのか?」
何か手を握れない理由でもあるのか。
まさかまた怪異絡みか!?
「え、とね、戦争は男女でやっちゃ、いけない遊びなの」
「そうなのか」
「そうだよ、男女でやって、もし男の人が叩く事になったら、それは女の人を叩く事になるでしょ?女の人を叩く男の人なんて、変態さんだよ」
確かに、というかまず軽くでも僕にはこの真っ白な千石の手を叩くなんて無理だし、絵的に問題ありじゃないか
戦争という遊びは羽川も言っていたが、かなり考えなくてはならない遊びかもしれない
「よし!じゃあ戦争は止めて別の遊びをしようぜ。何かやりたいの、あるか?」
「…撫子、おままごとしたい、かな…」
「懐かしいなあ!よし、役はどうする?」
「撫子が奥さんで、暦お兄ちゃんが…旦那さん…」
という訳で戦争の事はひとまず脇におき、少し友達の少なかった僕でも体験済みのおままごとに身を興じたのだった
しかしこの年になってするこの遊びが、とても危険だと僕が知るのはもう少し後の話
《大人まであと何歩》