読み物

□つばさバレンタイン
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つばさボム





2月10日、場所は駅前

町全体が様々なハート型で彩られる今日


中学生特有の病気を患った際、左利きに憧れて右手に付けていたら馴れてしまった腕時計を確認する。
時刻は11時55分。待ち合わせは正午なのでそろそろ来るだろうか。


「あ、阿良々木君!」


呼ばれて振り向くと、駅の改札からキャリーケースを引きながら笑顔で駆け寄ってくる彼女が見えた。


「よう、羽川」


例え受験目前だったとしても彼女――羽川翼と会えるなら、僕は幾らでも時間を割くのだ。





「おはよう、こんにちはかな。待たせちゃった?」

「気にすんなよ、僕も今来た所だし」

「そっか、なら良かった」


まるで彼氏彼女のような会話。実際の彼女である戦場ヶ原には羽川が会う許可を貰ったらしいが。


「それにしても急に呼び出しちゃってごめんね、阿良々木君」

「気にすんなよ。つうか羽川こそ飛行機の時間大丈夫か?」

「うん。14時半の便だから一時間は平気だよ」

「そっか」


一昨日帰国し、また今日外国へ飛ぼうとしていた羽川から『今日の正午、会えないかな』と絵文字付きのメールが送られてきたのは11時のことである。
今回の帰国では羽川と会わない予定だったので、メールが来てから即座に家を出て40分ほど待っていたことは羽川には秘密だ。


「じゃあ阿良々木君、そんなに時間もないし行こっか!」

「、えっと悪い羽川。どこへ?」


猫の様に目を細めて羽川は言った。


「お好み焼き」













聞けば羽川は前回の外国滞在中、夜行列車を利用して4時間ほどイタリアを訪れたらしい。その際ピザを見てお好み焼きが食べたくなったのだとか。

確かに女子の一人お好み焼きは辛いな。それに一枚でもボリュームがある。そこで男子である僕に白羽の矢が立ったのか。


話しながら2人で3枚のお好み焼きを平らげ、食べ終えても話は尽きない。羽川が海外滞在中美しい夕日を見た話や現地の子供に勉強を教えたこと、ジャングルで野宿をしたり爆弾処理をしたなどの危険な話まで。

時間を忘れて話していた時だった。


「あ、阿良々木君。歯に青海苔付いてる」

「え」


なんてこった。恥ずかしい

話していた口を閉じて舌で歯を準える。


「取れたか?」

「んー、取れてない」

「どこに付いてるんだ?」

「奥歯」

「よく見えたなそれ!」


もう一度、舌を回して羽川に確認してもらう。


「口開いてー」

「あー、」

「ん。」


えい、と羽川に口に何かを入れられた。


「っ!?」


ほろ苦く甘いそれは口の中でゆっくりとけて独特の味わいが広がった。


「は、羽川」


なんかもう、キョドる。


「イタリアのそれなりに良いチョコレートだよ。ちょっと早いけれど、私からのバレンタインデーね」


バレンタインデー


僕には全く縁のないイベントだし、まさか羽川から貰えるなんて…


「…しかし僕には戦場ヶ原が…いやでも羽川からじゃ仕方な」

「ちょっと阿良々木君勘違いしてない。当然義理だからね?」

「何!?本命じゃ…」

「有り得ないよ」


全否定だった

ちなみに青海苔は付いてないから大丈夫だよ、と付け加え満足そうに笑うとそろそろ飛行機の時間だから行くねと言って羽川は席を立った。

色々思考の追い付かない僕はなんとか言葉を引っ張り出す。


「、行ってらっしゃい」

「うん、行って来ます」


キャリーケースを転がし羽川が店内を出ていくのを見送り、テーブルに置かれたハート型の箱に入った残り2つのチョコレートをみる。

さて、3倍返しのホワイトデーはどうしようか。





つばさバレンタイン
《supply is Sweet》
20130210

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