遊魔SHORT
□ひび割れたring
5ページ/16ページ
ヒナ……お前、何でこのタイミングでこんな電話なんかよこすねん。俺に見られていたことを知らないとしても、あんまりやないか。
腹が立つ。嘘付いて、俺を誤魔化して……騙せてるつもりでいるヒナが。いや、村上が。
(許さへん)
甘くみんな。
そう簡単に騙されるかいや!
――――――――――――――ー―ー――ー
待ち合わせの場所に出向くと、すでにヒナはそこで待っていた。
手を振って俺を出迎えるヒナに、いつもと違う様子は全くない。むしろ、いつも以上にイキイキとした様子だった。
……騙せたことに有頂天になってんのか。ホンマに、嫌な奴。
「ヨコ!早かったな」
「家から近いし、今日はオフやったしな」
「あー、……ごめん。用事は早くに済んだんやけど……」
すべてバレていることも知らず、ヒナは頭をかいて困ったフリまでしながら……俺を見て、何故か照れくさそうに笑う。そのヒナのしぐさに、俺の中で怒りが沸点に到達した。
「用事?ホンマはフリーやったくせにマルと遊ぶことがか?」
そして、遂に口に出して……ヒナの嘘を糾弾した。
――――――――――――――――――――――――――
嘘がバレていたことを指摘され、ヒナの目にはっきりと焦りの色が宿る。それに伴って俺の表情も険しくなっていたらしく、嘘を詫びるヒナの口調には……俺に対する怯えがハッキリと表れていた。
「ええよ。しゃあないやん。マルに誘われたんやから」
「ち、ちがっ……誘ったんは俺やねん」
「へー。俺を避けてか」
「ちゃうねん!あんな、ヨコ……」
「言い訳すんな。見苦しい」
徐々に冷たくなっていく俺の声。隠し通すつもりだった本心が、声にも態度にも露わになっていくけれど……もう、俺にはその事に構う余地はなかった。
あの時の俺にあったのは、愛憎、怒り、未練……何と形容していいのかわからない、迸るようなヒナへの激情だけだった。
だからこそ、口走ってしまったのだ。
「村上なんか大嫌いや!!もう、顔も見たくない……!!」
どんなに酷い喧嘩をしても、絶対に言わなかったその言葉を……あろうことか、大好きだったヒナに。
今も、未練が残り続けているヒナに。
→