小説  

□呼吸
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ノボリ兄さん(が)なんだか変だよ!





恐い恐い恐い恐い恐い、怖い!!
逃げなくちゃ。
…早く、逃げなくちゃ!!

なんで?どうして?
ノボリ兄さん…!

お願い、やめてっ

カツコツ、カツコツ
人の足音をこんなにも不安に
思う日がくるなんて。
とてもとても恐ろしくて。

「クダリ」

びくり。心臓がうるさい。

急いで資料室に入る。焦る気持ちとは裏腹に扉をそっと閉めた。

まずい。ここには隠れる場所がない。どうしよう、どうしよう!!
こんな状況で良い案が浮かぶはずもなく、仕方なくドアを開けたときに死角になる場所へ力無く座り込む。
どうか兄さんに気づかれませんように。

カツコツカツコツ、
足音が近づく。

近くに、居る。
ああああ、近づいて来る!

足音を気にすればする程、息遣いは
荒いモノに変わっていく。
ノボリ兄さんに気づかれたらどうしよう。
もしかしたら既に気づいてるかも
。考えれば考えるほど涙が出そうになる。
頭の中はぐちゃぐちゃだ。


どのくらいたったのだろうか。
きっと時間にすれば短いだろう。
でも僕には酷く長く感じた。

「…?」

そういえば、足音はもう聞こえなかった。
あきらめた?嫌、でも。
聞こえるのは自分の呼吸音だけ。

ここで僕は一か八かの賭けにでた。

扉を開けよう。外に出るんだ。

とても怖い。恐ろしい。
でも、見つかるのも時間の問題。

ならば、と、覚悟を決めて

カチャリ、
心臓がうるさい。吐き気がする。

右側をみる。いない。
次に左がわ、




「見つけましたよ。」




息を呑んだ。
急いで逃げようとした、

「うぐっ!!」

気づいたときにはもう床に叩きつけられていた。
ひやり、首元に手が添えられた。冷たい。そのまま馬乗りにされた。

今度こそ涙が溢れた。

どうして僕は扉を開けてしまったんだ。後悔しても無駄。もう遅い。

「クダリ、」

普段聴くことが出来たならとても心地良い低音。

心臓はさっきと比にならないくらい煩い。

「逃げるなんて、酷いです」

少しずつ首に力が込められてゆく。
苦しいよ、やめて

「…かはっ、」

言いたいこともろくに言えやしない。

「どうか怖がらないでくださいまし。わたくしはあなたのことを慕っているだけなのです。

ねぇ、クダリ。愛おしいひとに拒絶されればとても悲しいんですよ。そんなの、可哀想だと思いませんか?」

慕っている?愛している?そんなの嘘だよ!!本当ならどうして殺そうとするの!?可哀想なのは僕だ!!!
もうわかんないよ…何を言ってるの。苦しいよ。

「返事さえしてくださらないのですか?
あなたの声だって好きなのに。」

出来るわけ、ないだろう。

「ふふっ、わかりました。少しの間寂しいですけど、すぐに私も行きます。

ねぇクダリ、」

ぽたり。落ちてきたのは涙だろうか。
霞む視界の中、兄さんを見上げれば、次から次へと雫が落ちて来る。それなのに、彼が笑っている気がした。

「本当に、本当に、愛しております。」

最期に感じたのは、自分が飲み込まれてしまいそうなほど大きな恋慕。

そのとき、僕もだよと言いたかったけど
やっぱり言葉にはならなかった。

(あぁ、一体全体何処で歯車が狂ったんだか!!)

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