小説
□Good-bye?
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「クダリ、別れましょう。」
はっきりと耳に届いた言葉は、最初、意味が理解出来なかった。
「……え…?」
「別れ、ましょう」
もう1度きこえたノボリの声は震えていた。
それから、
「別れる、って…、」
「えぇ、恋人を、やめましょう。」
意味を理解した。
まるで頭をガツンと殴られた気分だった。
体が硬直して、でも、震えた。血の気が引く。
やっとの思いで、紡いだ言葉
「嘘…でしょ…?」
「…、」
目を、そらされた。
それは問い掛けに対する否定を意味するもので、
「ノボリ、僕を嫌いになったの…?」
こわかった。すごく。
「そんなわけありません。」
もう泣きそうなのにきっぱりと言い放った。
「じゃあ、なん「クダリ、あなたも分かっていたでしょう?」
「…、」
そうだよ。わかってたよ、長く続かないこと。
でも、終わりがこんなに近くにあるだなんて…、
「私は、クダリを傷つけたくないのです…!私のせいで周りから批判的な目で見られ、クダリが悲しむのは嫌なのです!!」
涙がぽとりと床に落ちた。
「僕だって、同じだよ…、」
ノボリはもう泣いていた。
場違いにも、その涙は儚くて純粋に綺麗だと思った。
「お互いがお互いを傷つけたくないのですから。これしか、方法がないのですよ。ご理解下さいまし、」
ノボリの言うことはもっともだけど、
「嫌だよ…」
わかってる筈なのに、受け入れられなかった。
「クダリ、」
「嫌だ!!僕もノボリも愛し合ってる!!それじゃだめなの!?どうし「クダリ!!!」、」
「これ以上、傷つけたくないのです…!!」
…そんな哀しそうな目をされたら、何も言えなくなるじゃないか。
ただ、頷くことしか出来なかった。
どっちにしろ、持たなかったんだ。耐えられなかったんだ、仕方のない事なんだ、と自分に言い聞かせた。
――――
次の日にはもう、普通の双子に戻ってた。
僕らの関係は、恋人から家族になった。
ただ、生活習慣は恋人だったときと変わらなかった。普通に家に帰り、普通にご飯を食べて、普通に仕事して、それら全てが昔から2人揃って一緒にやってたことで、何も変わらない。でも、それは見た目だけの話しだったようで。
だから、そう。僕の世界はがらりと変わった。まるで色を失ったようだ、なんて。陳腐な表現のようだけどまさにその通りなんだ。
全て終わった訳じゃない。
なのに、虚無感が僕を襲う。
ノボリがいなくなった訳でもない。
すぐそばにいて、手の届く距離に居る。
だからこそ、僕はもどかしい。
何よりノボリもこんな気持ちを味わっているのかと思うと、苦しくてたまらなかった。僕らを認めてくれなかった現実に、怒りさえ覚えた。
苦しむのなんてわかってた。
それでも別れたのは、ノボリも僕も幸せだったけどそれと同じくらい辛かったから。僕以上にノボリは辛そうだったから。
もう色々限界だったんだ。仕方のないことだったんだよ。
わかってる。
なのに、今は後悔が残ってる。予想以上に苦しい。
…こうして思考することが余計に首を絞めることになるのもわかってる。
でも、でも、たくさんたくさん考えないと今にも壊れてしまいそうなのも確かで。溺れてもがいて、それでも、避けることは出来ず。
僕はこれから先も、ずっとずっと、彼だけを愛し続けるだろう。
僕の世界で唯一変わらないのは、君に向ける想いだけ。
最後に抱きしめ合ったときの温もりさえ、今では忘れることが出来ないでいる。
(ねぇ、好きだよ?)
――――――
暗っ。