小説  

□雨
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書類を運ぶ途中、ふと下を見ました。

ああ、

「今日は雨のようですね。」

外からいらっしゃるお客様の足跡で、
ホームの床が水に濡れています。

汚れまでついていて、
今日の掃除は大変でしょう。
何せ次から次へと汚れてしまいますから。

床が滑りやすいので気をつけて頂きたいですね。
呼びかけましょうか。

それにしても雨と分かると憂鬱になります。
冬場はいつにも増して冷え込みますし、
夜も中々寝付けないでしょう。

どちらにせよ、この書類の多さでは
今夜も徹夜になりそうですが。

…他に考え事は無いでしょうか。
思考を止めてしまってはまずいのです。

何故ならすぐに思い浮かぶ白い弟。

ズキリと胸が痛みます。

叶わないことは分かっています。
それでも愛してしまったからには
そう簡単に諦められないのが
私ノボリと云う人間なのです。

毎日顔を合わせるのにどうして忘れられましょうか。

弟に恋をしたのも雨の日でした。



その日、雨は急に降り出して、傘を持っていなかった私は中々帰れずに居ました。

クダリは高熱を出して仕事を休んでいたので頼るわけにはいかず。

雨に打たれて帰ろうかと思ったとき、
見覚えのある自分と同じ顔を見ました。

クダリは熱で辛いはずなのに、私に傘を届けにきてくれたのです。

ふらふらになりながら、

「クダリが困ってたら僕がすぐに
駆けつけて助けてあげる。」

と、そう言いました。

そのときに私は恋を知りました。

クダリにしたら昼のテレビに影響されただけの台詞だったのかもしれません。

それでも私は、そんな些細な理由で
深く恋に落ちてしまいました。

振り向いてもらえないのなんて理解しています。

それでも割り切れない想いがあるのです。

あの日雨が降っていなかったら、など考えても、
もう後の祭りというもので。

どんなに苦しんでも、足掻いても、
決して抜け出せないのですよ。

嗚呼、本当に雨は憂鬱です。


後ろから私を呼ぶ弟の声がして、
現実に戻されました。

振り返って顔を見ればまた、


(こうして私は繰り返すのです。)



 

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