小説  

□曖昧
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最近、クダリの様子がどうもおかしいのです。

時々物思いに耽っているようで、少しすると涙を、それも大きな雫を目から流すのです。

どうしたのかと思い、きいてみてもゴミが入った、とばかり。

そのように、頻繁にゴミは入らないと思いますが…。

暫くすると泣き止みますが、私は心配で、気が気でないのです。

『―ボス、挑戦者が47連勝しそうです。準備をお願いします。』

「…っ!…はい、わかりました。」

無線からの声にハッとする。

そうでした。今は仕事中です。集中しなければなりませんね。



…さて、今日の挑戦者の方は、私を楽しませてくださるでしょうか?

―――――

「―あなたの戦い方、決して悪くは無かった。」

こうして今日も私は勝利という終着駅に辿り着きました。

ですが中々に手強い方でした。

いつも通り、お決まりの台詞を紡ぎましたが、ぜひまたいらっしゃって欲しいです。

いやはや、とても楽しませて頂きました。

「ボス、オツカレサマデス。」

「おや、シンゲンさん。お疲れ様です。どうかなさいましたか?」

「…?イエ、キョウハコレデシュウデンデスヨ。オリナイノデスカ?」


「え…っ、」

「キヅイテイマセンデシタカ。」

「はい、少し…あ、いえ、ありがとうございます。」

少し考え事を、なんて言ったら示しがつかない。

「では、私は車両の点検に言って参ります。」

「ボクハホームノミマワリニイキマス。」

なるほど、今日はシンゲンさんが当番ですか。

ささ、点検、点検。

「指差し確認!
…異常なし、ですね。」

落とし物も無いようです。それではクダリのもとにむかいましょう。


「ノボリ、」

「おや、クダリ。」

どうやら私が迎えに行かずとも、クダリは来てくれました。

「今迎えに行こうと思っていた所ですよ。」

「そっか、帰ろ。」

そう言って笑うクダリを見て、もう大丈夫なのかと安心します。

2人並んでゆったりと帰路を歩く。
私はこういうときに幸せを感じます。

「最近、さらに冷え込みますね。」

「うん。」

「クダリ、寒くはないですか?」

「ありがとう。大丈夫だよ。ノボリが隣にいるとあったかいんだ。」

「それは嬉しいことを言ってくれますね。」

嗚呼、私の弟はなんて可愛いのでしょう。仮にも成人している、しかも男性に使うのは何か違うかもしれませんが、クダ
リにはその言葉がぴったりなのです。

…私ってば重度のブラコンでしょうか。

「クダリ、今日の晩御飯は鍋など如何でしょう。」

「いいね!暖まれるよ!!」

恐らく家に食材はあったでしょう。

―――――

「ただいまぁ。」

そう語尾を伸ばして言うクダリは子供のようです。

「それでは、クダリは休んでいてください。」

「僕も手伝うよ?」

「大丈夫ですよ、鍋なら楽ですし。」

「そう?それじゃお言葉に甘えて。」

「ちゃんと手を洗ってからですよ。」

「はぁい。」

さて、キムチ鍋など良いでしょう。普通の鍋よりも暖まれます。

クダリが観ているのでしょう、テレビから騒がしく声が聴こえます。
そういえば、もうすぐ大晦日ですね。その前にはクリスマスがあります。今年のプレゼントは何に致しましょう。

色々と考えているうちに、切られた食材達は煮込まれる段階に入ります。

ふと、何気なくクダリの方に目をやりました。

「…!!」

ああ、なんということでしょう。解決など、これっぽっちもしていませんでした。

「っクダリ!!」

「…あっ、」

我が弟が、その綺麗な瞳から大粒の涙を流しているではありませんか。

「どうなさったのですか!?」

安心した私は、浅はかでした。クダリはちっとも大丈夫なんかではありません。

現にこうして泣いています。

「何があったのです!?」

「…っ!」

…いけない、これではクダリを驚かせてしまいますね。

「…申し訳ございません、責めているわけではないのです。」

今一度、なるべく優しくそう言った。

「…っうん、わかってるよ…、ふ…っ、僕達、双子だから…っ、ノボリのこと、わかるから…っ、」

「…クダリ、何故泣いているのですか?」

「目にゴミが「クダリ。」…、」

「クダリ、あなたは最近よく泣きますが、ゴミが入ったわけでは無いのでしょう?私達、共に血を分けた兄弟で、双子ですが今回ばかりはあなが涙を流す理由がわからないのです。
クダリ、正直に言って下さいまし。」

「…っ言えない、言えないよ…、ぅ…っ、だって…、い、言ったら、壊れ…っう」

「クダリ、落ち着いて下さい。」

どうしたことでしょう。クダリのことなら何でも分かると言っても過言ではない筈なのに、今は全く理解できません。

「僕が言ったら、兄さんは、困るから。」

クダリを見れば、いつの間にか泣き止
んでいて、それは苦しそうに顔を歪め、笑っていました。

その顔を見た瞬間、私はクダリを抱き締めていました。

「クダリ、あまり1人で抱え込まないで下さい。」

「…ノボリ、ありがとう。」

(そう言ったクダリがまた泣き出しそうだったのを、私は知らない。)

 
 

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