短編

□一日分のキセキ
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ある日。
シオンは森の中にぽつんと一人、いた。

「あー、参ったなぁ・・・。まさか迷子とは・・・いや、これは森林浴さ!」

シオンはぶつぶつ独り言をいいながら木と木の間をすり抜けていく。
当てもないのに歩き回るからさらに奥へと進んでいくのだ。
それに気付かないシオンはひたすらに歩いていく。
腰で、シオンの愛用の剣――ラヴェリエのため息が聞こえたけれど。


しばらく歩くと、少し開けたところに出た。
誰か困ったような声がする。

「わぅー・・・どうしよう・・・」
「あれ・・・」

シオンは辺りをきょろきょろ見回した。
見ると、黒髪ツインテールの女の子が三角座りをしてため息を吐いている。
見るからに幼そうだ。モンスターも出るこの辺りにいるのはおかしい。
明らかに場違い。シオンはそう思った。

「あのー、どうかしたの?」
「わうっ!!?」

とりあえず一人にするのもあれなので声をかけてみた。
するとツインテールの女の子は声を上げて驚いたようで。

「(わう・・・?)この辺りは危ないと思うんだ。一人でどうしたの?」

キリッとした顔でシオンは話を進める。一応シオン(これでも)は王に仕える剣士なのだ。

「あっ、えっと・・・迷子になっちゃったみたいなんです・・・」

女の子は大きな桃色の目を少し伏せて、話を始めた。
要約すると、ラバナスタ?というところから来たそうだ。
そこで仲間とはぐれて、それからさまよっていたらここにいた、と。

「でもラバナスタって砂漠の中のはずなんです・・・」
「砂漠?カルバレイスにそんな町あったかな?」
「カルバレイス・・・?わぅぅ・・・わかんないです」

どうも話が通じなかった。
けれど一つだけ分かる。それはシオンと女の子は同じ迷子同士ということである。

「実は私も迷子なんだ。一緒に出口探さない?」
「わぅ!?いいんですか?」
「(わぅ・・・?)うん、全然大丈夫。ちょっと心細かったから」

女の子は花のように笑った。それはもうかわいらしく。

「(かわいい・・・)私はシオンって言うんだ!よろしく!」
「エヴァって言います!よろしくお願いします!」

エヴァは立ち上がってペコリ、と頭を下げた。大きなツインテールが揺れる。
立ち上がったエヴァはシオンより背が低かった。
エヴァの頭の先がちょうどシオンの鼻くらいである。

「エヴァちゃんって今何歳なの?」
「えっと・・・十五歳です」
「そっか、私よりふたつ下か」

シオンはエヴァににっこりと笑いかけた。
それに答えるようにエヴァもにっこり笑う。

「とりあえずどっち行こうか?」

シオンは上を見上げた。
しかし木が邪魔で太陽の位置が分かりにくい。
方角を知ることも不可能だった。

「こういうときは・・・えいっ!」

シオンは奥の手を出した。
剣を抜き、地面に立て、そして呪文を唱え始める。

「我、願う。正しき道へ。我、望む。光の道標!」

エヴァがごくり、と唾を飲んだ。
永遠ともいえる静寂。鳥さえ、木さえ、静かな一瞬。
そしてシオンの目が開かれ―

「えいっ!」

剣が倒された。
その先はまっすぐにある一方向を指している。

「よーし、こっちっ!行こう、エヴァちゃん」
「わうっ!?大丈夫なんですか?」
「大丈夫なんだよ。実際、何回もこれで家に帰ってるから」

グッと親指を立て、剣を拾い「ごめんごめん」と謝るシオン。
大切な剣なのかな、とエヴァは思った。
・・・少し違う気もするが。


「・・・ごめんね」
「わぅっそんな・・・」

あれから二時間後。
二人は野宿をしていた。
もちろんあの方法で帰れるわけもなく、真っ暗になってしまったのだ。
幸い食料はシオンが持っていた分と動物を捕まえた分、それからエヴァが採ってきた木の実でどうにかなった。
今日はもう進めそうもない。

「また明日、出口を探そうね」

シオンは火を見つめるエヴァの頭を撫でてやる。
シオンの予想と反し、エヴァはしっかりとついてきた。
ただの女の子というわけでもないのかもしれない。

「わぅ・・・」
「あ、もしかして眠たい?」

けれどやっぱり十五歳。
いつしかうとうとし始めたエヴァに毛布を掛けてやりながらシオンはくす、と笑った。
ツインテールは解かれ完全な睡眠モードである。

「火の番はしとくから、お休み」

また明日ね、と小さな声が火を揺らした。



「起きろ、起きるんだ!」
「ん・・・あれ、リオン・・・?・・・っ」

シオンは文字通り飛び起きた。

「あ・・・!寝ちゃった・・・、んだ」

昨夜のことを、寝ぼけた頭で必死に思い出す。
日の番の途中に毛布も掛けず寝てしまったらしい。
慌てて辺りをきょろきょろと見回すが、そこにエヴァの姿はない。

「あれ・・・?」
「どうした、頭でも打ったか」

シオンはリオンに尋ねた。黒い髪をした、幼い少女を見なかったか、と。
しかしリオンの返事は「見ていない」だった。

「僕が倒れているお前を見つけたときには誰もいなかった」

見ればもう森の出口はすぐそこだった。
昨夜は真っ暗だったから分からなかったが、出口まで来ていたらしい。
きっとエヴァも朝起きて気付いたんだろう。

「・・・あれ」

シオンはふと、エヴァが寝ていた辺りでキラ、と光るものを見つけた。
それはエヴァが持っていた髪飾り。
カラフルな色をした石が連なって出来たものだった。

「エヴァ・・・帰れたのかな」

かわいかったなぁ、とシオンはにっこり微笑んだ。
――いつかまた会えますように。





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