長編小説

□Gatto-April-
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講義が始まる直前に西は席にやってきた。いつものように私の席の隣に座りテキストを取り出してたわいもない話すをしていると教授が入って来て講義が始まった。

「狩野!ちょっといいか」
授業を終えてすぐ先教授が私に声をかけてきた。断るまでもなく、私は教授の元に向かう。
「なんでしょう先生?」
呼んだの
「…うん。ちょっと頼みがあるんだ。あー、明日!明日俺のとこまで来てくれないか?」
「?わかりました」
「よし」
いっていい、といわれ、私は2人のところに戻る。
すぐさま西が俺に問いかけて来た。
「洋一なんかやっちゃったのかぁ?」
「してない。…たぶん」
わたしは全否定できなくて曖昧な答えを返す。正直心当たりはなかった。

午前分の講義が終わり、私達はずっと同じスケジュールなのでお昼をともにすることになった。
「なんにするか…」
「俺ハヤシー」
「飽きないね、それ」
「大好きだし」
席とりをシアンに頼み、私と西はカウンターにやって来た。
一ヶ月一緒に居て見るといろんなことが見えてくる。西はほぼ毎日ハヤシライスを食べてるし、シアンは食にてきとうで、私に任せ自主的に席とりに行ってしまうことが多い。私はだいだい麺類が多くて、専らうどんだった。
「私は…月見うどんにしよう。シアンはとんかつ定食でいいか」
「シアン?」
一人でつぶやいていた私に、頭上に?を浮かべた西
が振り返った。その顔に思わず笑ってしまう。
「むっ笑わんでもいいでしょ」
「あは。ごめん。シアンはね、犬伊崎のことだよ」
「は?ナニソレあいつの源氏名?」
「違うちがう」
そうこうしている内に注文品が目前に来てので、おぼんを持ってシアンのところに向かう。彼の黒髪はカラフルといっていい食堂内で逆に目立つのだ。
「お、サンキュ」
私達に気づいたシアンが手を上げる。
「シアンちゃん、今日はカツ定食よぉ」
「水持って来たぞ」
「ん。ありがと」
「無視ィ!?」
「いただきます」
「頂きます」
「うぅ…ます」
西が折れた。

「で?シアンてなにさ?」
「ふぁふぁな」
「食ってから言えよ!え、訳せ?!」
「シアンてフランス語で"犬"なんだよ。犬伊崎が犬じゃなくて違う呼び名がいいっていうから」
それにもぐもぐ口を動かしていたシアンは首を振る。
「おふぇは…呼びづらくないか、て聞いただけだ」
「そうだっけ」
ツルツルとうどんをすすりながら応えた私にふーんとさっきとは違い、興味なさげに返事を返す西。
「なんだ、あだ名かー。俺はてっきり犬の源氏名かなんかかと…だっ」
テーブルの下からダンッと何かを叩くような音がした。
「?」
「なんでもない。うどんがのびるぞ」
「え、はい」
「洋一くんはもう少し気にしよーよ。どうしたのーとか」
声を抑えつつそう言う西の声は少し弱い。
「大丈夫?」
「うん、洋一くんてこういう性格だったね」
一ヶ月一緒に過ごしてて今頃気づいたのか、西は。
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