帝都学園日記

□初めての長期休み
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 エリクは間もなく広間に戻ってきた。
「初めましてナップの姉のアリーゼです」
「は、は、初めましてっ!エリクですっ!」
「ガチガチになってんぞ、エリク」
ナップが呆れて笑う。アリーゼもそうですねとくすくす笑った。
「さて、いくかっ!」
ナップはそう言って屋敷の玄関へと向かった。

「オヤジ行ってきます」
「お父さまお出かけしますので……」
アリーゼとナップが当主である父親にそう一声かけて玄関から出ていく。
「エリク、くれぐれも粗相と失礼のないようにな」
エリクは父親にそう怖い顔で注意されて送り出された。
「ま、まぁ、子供同士ですし。楽しく遊んでくればいいでしょう」
当主は笑って送り出した。

「さて、何して遊びたい?」
ナップが満面の笑みで屋敷を出た途端に訊いた。
「う〜ん、何もとくには思いつかないなぁ」
「私海の方にお散歩に行ってみたいんですけど」
アリーゼはおずおずと意見を出した。
「んじゃとりあえず海向かって逝ってみるか。なにかしたいこと思いついたら言ってくれよ?」
ナップはにへっと笑って歩き出した。アリーゼとエリクもその後ろからついて行った。

「いい風〜〜、やっぱり海に来てよかった」
アリーゼは自分の髪が風になびくのを心地よく感じながら遠くからやってくる船を見つめた。
「うん、いい天気だしいい気分だぜ」
「そうだね、僕の住んでいる街は海がないからうらやましいよ」
エリクは眼前に広がる大海原に視線を奪われているようだ。
「へぇ、ってことは内陸なのか」
「そうなるのかな。山のふもとの街だから。もしよかったら浜辺とか行ってみたいな」
エリクがそう言うのでアリーゼは行きましょうかと歩き出した。ナップが二人の後に続いた。

「……ん?」
「ど、どうかした、ナップくん?」
急に立ち止まって目を凝らしているナップにエリクが声をかける。
「あそこ」
「なんだか様子がおかしいですね……」
アリーゼも同じく目を凝らしながら言った。
「なんだか、ただ子供たちが遊んでいるわけじゃなさそうですね……」
アリーゼが懐に手を忍ばせて言った。
「もちろんアリ姉イケるよな?」
ナップはそれだけで十分通じるだろ?と目で訴える。
「えぇ、いざとなったらイケますけど、とりあえず近づいて様子見ですね」
アリーゼはエリクをかばうような位置に立ちながら少しずつ距離を詰めていく。
「後ろはオレに任せておけ、アリ姉は前だけ頼む」
「わかりました、頼んだからね、ナップ」
アリーゼは細心の注意を払いながら前へと進む。
「やめてっ!」
かろうじて聞こえてきたのはその言葉だった。
「話してよ……その子を離してってば……」
「聞けねえなぁ?お前たち金持ちなんだろ?金さえ出せば放してやるぜ?」
男の方は少女にそう返した。もう一人のとらわれている男の子ののど元には鈍く光るナイフが突きつけられている。
「姉ちゃん、オレに構ってないで逃げるんだよっ!オレなんて放っておけ!」
そこまで少年が言った瞬間背後でナイフを突きつけていた男が少年を殴った。
「うるせえ、このガキ!」
「うぐっ……!」
それを離れた物陰から見ていたアリーゼはナップに一言ボソッと言った。
「もう、限界見てられないわ、蒸発させてあげましてよ」
「アリ姉キャラが崩壊してるって……。まぁなオレも見てられねえや、ぶっとばしてやろうぜ」
ナップは腕まくりして懐から剣を取り出す。アリーゼはタガーを取り出した。
「エリク、そこを動くんじゃないぞ?オレたちちょっくら暴れてくるから」
ナップはそう言い残すと姉と一緒に物陰から出て行った。
「あなたたち、それ以上やると命はないですよ」
アリーゼが彼女にしては大きな声で叫ぶ。
「なんだぁ?」
ナイフを突きつけている男が舐めつけるような視線をアリーゼに向ける。
「おいっ、まて……」
後ろで控えていた男がその男に一声かける。
「お前、あのマルティーニ家のご子息だろう。たしか、今日屋敷に帰ってきているとか聞いたが……」
その男がアリーゼにそう返す。
「あなたに名乗る名などありません。私たちが相手になってあげます、かかって来なさい!」
アリーゼはそう言うと詠唱をさっそく開始する。
「ナップ、とにかくあのとらわれている子を開放するのを優先するからね」
アリーゼはそう言うとキユピーを呼び出す。
「わかってるって。アリ姉魔法で援護頼んだぜ?オレが行って助けてくるから」
「うん、私はその間に女の子の方にじりじり寄って行くからね」
「了解。んで、あの女の子を確保しだい、エリクのいるほうにじりじり後退な?」
「うん、了解よ、おいてキユピー。あのナイフ持った男を眠らせて……?ドリームスモッグ!」
アリーゼが言うと彼女の盟友がナイフを持った男を眠りへと落とした。もちろん手に持っていたナイフは砂浜へと落ちた。
「すきアリだぜっ!!」
そこへナップが突進をかける。剣をもって突撃をかけたため一斉に男たちがひるんだ。その隙をついてナップはそのとらわれの少年を抱きかかえると急いで敵陣から離脱を図った。が。
「さ、させねえよ!」
「二人まとめてとらえてやるぜっ!」
3〜4人われに返った男が彼らに襲い掛からんと武器を振り上げる。
「させませんよ?後方に召喚師がいることをお忘れなく……誓約の名のもとにアリーゼが望む、来たれ『魔天使ベルエル』よ……」
彼女の声にこたえて一筋の閃光がナップと相手の男たちの間を貫く。男たちに直撃することは免れたものの、砂地が大きくえぐられた。
「ナイスアシスト、アリ姉」
「もう大丈夫よ?あとで少しお話は聞かせてもらうけれど……安心していいからね?」
「オレの声にこたえてくれ……出番だぜ!アール!」
ナップがそう叫ぶと彼の相棒が姿を現した。
「アール悪いんだけど、街の衛兵呼んできてくれねえか?」
「がが、ぴっぴぴ〜!」
アールは彼の言葉を聞くや否や街の方向へと走って行った。
「さて、その間は私たちだけで抑えなきゃいけないわけですが……開いてください、霊界の門……。おいで『天兵』」
彼女がそう言うと、剣を携えた天使が複数顕現した。
「悪いのですけれども、相手の方々の相手をお願いできるかしら?多少傷つけても構いませんから」
アリーゼは天使たちにお願いする。天使たちは武器を携えて男たちに一声に襲い掛かった。
「しょ、召喚師相手だとさすがに劣勢か……まさかマルティーニ家のガキが召喚師とはな……」
リーダー格であろう男が歯ぎしりをしながらそう言った。
「仕方ない、引き上げだ!」
「させないぜ?お縄についてもらわなくっちゃな?……ロレイラルのゲート、ひらけっ!『エレキメデス』、ボルツテンペストだ!」
ナップがそう叫ぶと高圧電流が放射されて男たちの自由を奪った。間もなく衛兵が駆けつけてきて彼らを縛り上げて帰って行った。衛兵たちは少女と少年を保護して親御さんを探すから、と一言言って一緒に連れて行った。
「おぅ、頼んだぜ」
「お願いします」
「あ、ありがとうお姉ちゃんたち……」
とらわれていた少年がそう去り際に一言振り返って言った。
「おぅ!」
「気を付けてね」
アリーゼたちはそう言って彼らを見送った。
「すごいなぁ、マルティーニ家のご子息って戦闘もできるんだ……」
振り返るとエリクがものすごい輝いた目で彼らを見つめていた。
「まぁ、私たち、とある家庭教師に実戦形式で教わってますから……」
「ある程度なら戦えるんだぜ?」
ナップはへへへっと笑った。
「僕にも教えてほしいな。やっぱり自分の身は自分で守れるようになりたいし……」
エリクはナップをあこがれの目で見つめながらそう言った。
「おぅ、わかった。オレとアリ姉で教えてやるよ」
「うん、ありがとう」
「じゃぁ公園とかに場所を移しましょうか」
アリーゼがそう言いながら街の方向へと歩き出した。二人が後を追った。

「ここならのんびり練習できるだろ」
ナップが広々として人影もまばらな郊外の公園へと入って言った。
「えぇ、人気もまばらですし、練習にはうってつけですね」
「とりあえず、武器の扱い方からだな。どれ、ちょっと失礼……」
ナップは一言断って彼の体を障る。
「う〜ん、こりゃオレと同じ武器は扱えそうにないや。ちょっと腕が細すぎるぜ、大ぶりの剣を使うには……」
「かといって最初から召喚師を目指すのも大変ですし……」
アリーゼは手元のサモナイト石を取り出しながらぼやいた。
「とりあえず、未誓約のサモナイト石ならメイトルパやシルターンのサモナイト石もあるけれど……」
アリーゼがいくつか混ざっている彼女の得意属性ではない色を取り出しながら言った。
「とりあえず、武器の扱い方からお願いしたいな。やっぱり武器もある程度つかえたほうがいいんだろ?」
エリクは至極真剣な顔でナップに訊いた。
「あぁ、男なんだしな。ウィル兄だって召喚師だけど剣でもある程度戦えるし」
「じゃぁボクにもお願いできるかな……。ボク、どの武器使えばいい?」
「う〜ん、実際に市場に行って確認してみましょうか。手に持って馴染む武器を使えばいいと思いますよ。と、その前にサモナイト石の属性だけ見ちゃいましょうか……。エリクくんそのまま立っていてくださいね」
アリーゼはそう言うなり彼に4色のサモナイト石を近づける。
「お、緑が反応してるぜ?」
「そうみたいですね」
「緑って……たしかメイトルパの色だよね?」
エリクはアリーゼの手の中にある緑の宝石みたいな石を見つめる。
「えぇ、ウィルお兄様が遣う属性です。あとでウィル兄さまに手ごろな召喚石を誓約しておいてもらうので、まずは武器から見繕いましょうか」
アリーゼはそう言って公園を出て行った。二人が後に続いた。

「こっちの店のレイピア割といいのが置いてありますね……」
アリーゼはエリクがレイピアやエストックに興味を示すのでそれを中心に武器を見ていた。
「そうだなぁ、これとかいい感じに重いしな。細っこく見えるのに面白い武器だな……」
ナップは姉が見繕った武器を手に取る。
「で、でも恐ろしく高いよ……。こんな高価な武器買ってもうまく使いこなせないボクには豚に真珠状態じゃ……?」
「いえいえ、最初に手に取る武器って大切なんですよ?手になじむ武器じゃないといけないし、すぐに折れたりするような武器もダメですし」
「そうそ、命を託す武器なんだから高いなんてことは絶対にないはずだぜ?」
ナップも姉の言葉に一言付け加えた。
「でも、ボクの手持ちのお金じゃ……買えないよ」
エリクは空っぽに等しい財布を振った。わずかな銀貨や金貨が手に落ちてきただけだった。
「アリ姉いくら持ってる?」
「私の手持ちは……10,000バームしかありませんよ。もともと飲み物と軽食ぐらいしか出費を予想してこなかったから……」
アリーゼはお札が入った財布を取り出してきた。
「オレも今15,000バームくらいしかないんだよなぁ……」
ナップも財布の中身を心細げに見ている。
「おっちゃん……?」
「なんだい坊や?」
「あのさぁ、このレイピア、撮り置いてもらえないかなぁ?1時間以内に買いに戻ってくるからさぁ……。ちょっとばかし今の手持ちのお金じゃ足りなくて……」
ナップはちょっと苦笑いしつつ店主と交渉を始めた。
「少しまけようかい?誰も買ってくれる人もいないし。というより全くお客が寄り付かないんじゃなにも売れやしないさ。買ってくれるなら1割引きにしとくよ?」
気立ての優しそうな初老の男性はそう言って値段を提示してきた。
「じゃぁ、そく買う!20,700バームだっけ?ちゃんと確かめてくれよな!」
「おぅ、確かに受け取ったわい、今後ともごひいきよろしく頼むよ、坊ちゃん」
その男性はそう言うとナップにレイピアを渡した。
「ほれ、エリク。武器の調達は済んだし、公園に戻るぞ」
「え、え?」
エリクはナップに引きずられる形で公園へと戻っていった。
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