帝都学園日記

□1年生春学期
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入浴後、彼らはウィルの部屋に集まってきた。
「ちょっとごめんね、よいしょっと、おいで、テコ」
「オニビ、出てらっしゃい」
「キユピー、おいで……」
「アール、出番だぜ!」
マルティーニ姉弟はそれぞれの護衛獣を呼び出す。呼び出された護衛獣は主人の体にすっぽりと収まった。
「もしかして、昼間言ってた護衛獣?」
ウェンリストがウィルたちに訊く。
「うん、そうだよ。もう長い間友達としていてくれてるテコだよ」
「う〜ん、友達って感覚が強いかも……」
ベルフラウはオニビを撫でつついう。横でアリーゼもキユピーをなでる。
「もちろん誓約の儀式も済ませてあるんだぜ」
ナップが得意がってアールを抱きしめる。
「え、誓約の儀式ができるのかい?」
ロレインが驚いてたずねる。
「えぇ、できますよ。今手元に持ってる召喚石全部、私が誓約したものです……」
アリーゼはそう言っていくらかの召喚石を見せる。その中には聖鎧竜スヴェルグ、砂棺の王、パラ・ダリオ、天使ロティエルなど強力なものも交じっている。
「すごいんだなぁ……」
シェリルコールがそう漏らした。
「じゃぁ、入学試験の戦闘試験で今すぐにでも軍属にできそうだって言われてたのは……」
ジェスジールがそう言う。
「たぶん私たちのことだと思います。私、めんどくさくって一気に召喚術で焼き払っちゃいましたから……」
「アリーゼだけじゃない。僕もアイギスで焼き払っちゃったし」
「兄様たちったら大胆ですわね……もうちょっと押さえないと試験にならないでしょ」
ベルフラウが呆れたように言う。
「以後気を付けるよ」
ウィルは苦々しくそう言った。
 ウィルがそう言った時、宿舎の敷地内の時計塔の鐘がボーンとなった。
「あ、就寝時間だねきっと。じゃぁまた明日……気を付けて部屋まで帰ってね」
ウィルはそう言って椅子などを片付けはじめ、ウィル以外は部屋から一斉に出て行った。
 翌日からの最初の1週間は飛ぶようにすぎて行った。というのも最初の一週間はロクに授業がなく、学校の施設の案内やら、授業のガイダンスなどで使われてしまったからである。既に一週間の授業日を終え、授業がない日を翌日に控えた日の授業が終わってウィルたちはのんびり教室で談笑していた。
「明日とあさっては授業お休みだよね、どっか行こうって思ってるんだけど、どこがいいかな」
ウィルは妹たちに尋ねる。そこにいつものメンバーと化しているネシュミア、ウェンリスト、ジェスジール、ジェルスリーが加わる。
「ピクニックみたいなことをするってこと?」
ベルフラウがかつての先生の休日にしたようなことや、島で行った二回のお出かけを思い出しながら言った。
「そういうこと、帝都のどこかでお弁当かってさ、ちょっと散策がてら帝都の外に出てみたいなって思ってさ」
ウィルがそう言う。
「いいんじゃないかな、どうせだし、ロレインやロスティナ、シェリルコールにも声をかけてみようぜ」
ナップはそう言うが早いか教室を飛び出て行った。
「せっかちね……」
姉のベルフラウは口だけは呆れつつもうれしそうだった。
「私は賛成ですけど……」
アリーゼも控えめに行きたいという。
 しばらくしてナップが三人を連れて帰ってきた。
「あぁ、もどってきたきた」
「その様子だといきたいって感じね」
ベルフラウは期待に輝く目を見ながら言った。
「じゃぁとりあえず話し合いの場を宿舎に移そう」
ウィルはそう言って学校の荷物を机から持ち上げて肩に背負う。ウィルに続いて一斉に生徒が教室から出て行った。

「んじゃ、自室で待ってるから荷物置いたら来るといいよ。カギは開けておくから勝手に入ってきてね」
ウィルはそう言うと自室へと引き返す。一斉に11人が自室へと帰って行った。
 それを、物陰から眺めている一人の生徒がいることにアリーゼは気づいた。
――声、かけたほうがいいのかな……――
アリーゼはその様子になんだか昔の自分の気持ちを思い出して一瞬考えた。とりあえずほかの全員がいなくなるまで待ってから、彼女はそっとその人影に近づいて行った。
「!!」
「に、逃げないでください、別に少しぐらいお話しさせてくれたって……」
アリーゼの気配に気づいたその人影――少女だったのだが――が逃げようとしたためアリーゼは慌てて引き留めた。
「……」
「私たちのこと見てたみたいですけど、どうかしたんですか?」
アリーゼは率直に聞く。
「あの、き、昨日、夕ご飯のときに見かけたんで……それに、私友達がいなくて……すごい楽しそうだったから……」
少女はそう口を開いた。
「でも、声をかける勇気はなかったってことですよね、昔私もそうだったからわかります、気持ち。一人ぼっちはつらいけど、声をかけるのも怖い……」
「そ、そうなんです……」
「行きましょ」
アリーゼは彼女の手を取って勝手にウィルの部屋に向かって歩き始めた。

 ウィルの部屋に着くなりアリーゼは全く断りもなく侵入し、自分の荷物をウィルの机の上に置いた。
「あれ、アリーゼ荷物置いてこなかったのかい?」
ウィルはなぜ、と言いかけて傍らに所在な下げにいる少女に気が付いて口をつぐんで、代わりに別の言葉をかけた。
「とりあえず、座るといいよ。僕の名前はウィル。そこにいるアリーゼの兄です、よろしく」
ぺこりと頭が下げられて、少女も口を開いた。
「私、エーフィアって言います」
「そっか、よろしく」
ウィルはそう言って椅子を差し出した。
「じきに集まってくると思いますのでちょっと待っててくださいね」
アリーゼはそう言って勝手に兄のベッドに腰掛けた。
 間もなく全員集まってきて新たな顔が増えたことにうれしそうにし我先にと自己紹介を始めようとしたので、ウィルが制して順番だといって、なんとか順番に自己紹介を終えた。
「もう、本当にそそっかしいんだから」
ベルフラウが呆れて笑う。
「さて、どこか出かけたいところはあるかい?できれば自然があふれている広々としたところがいいんだけどさ。普段自然があまりない街中に住んでるからさ」
ウィルがそうおずおずと自分の意見を述べる。すぐに全員の賛同が得られた。
「でも、誰かそういうところを知っているかどうかも問題だよね……」
ウェンリストがしょぼくれる。
「列車で一駅ぐらいのところにたしか大きい公園があったよね」
ネシュミアが来るときの記憶を手繰り寄せる。
「一駅って、遠くねえか?」
ナップがそう返す。実際ナップが乗っていた列車の一駅はかなり遠い街まで全く止まっていない。
「ナップくんの乗った列車快速か特急だったんじゃない?私の乗った列車、隣の駅なら30分ぐらいで着くよ」
「じゃぁネシュミアに案内をお願いするわ、駅に行くまでにお弁当を買っていきましょ」
ベルフラウがそう締めくくって今はお開きになった。
 結局お昼はベルフラウとアリーゼが無理やり席を12人分とって一堂に会して食事を行うことになった。
「えっと、そういえばさエーフィアおいらと同じクラスだよな?」
ロレインは見覚えのある正面にある顔にそう聞く。
「え、えぇ、そういえばロレインさんうちのクラスに居ましたね……」
「やっぱりか、よかったぁ〜。同じクラスの友達出来た♪」
ロレインはそう言ってすごくうれしそうにする。
「休み明けから授業始まるんだっけ?」
ジェスジールがそう向かいに座るロスティナに訊く。
「えぇ、確かそのはずですけど……」
「ついていけるのかな……」
シェリルコールがものすごく不安そうにする。
「あ、ついていけないとか、わからないところがもしできたら僕たちに訊くといいよ。一応召喚術についても知識はすでにあるし、それにサモナイト石も持ち合わせが結構あるしさ」
ウィルはそう言って隣に微笑む。
「そうよ、そのための友達でもあるんだもの、遠慮なく頼って来なさいな」
ベルフラウも微笑む。
「あ、ありがとう……」
シェリルコールは涙声でそう言うと近くにあったナプキンで顔を覆った。
「お、おぃ、こんなぐらいで泣くなって……」
ナップが大いに慌て慌てて背中をたたく。
「いや、うれしくてつい……」
 結局彼らはゆっくり昼食を楽しんだ後、今日もまた帝都散策に出かけることにした。
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