帝都学園日記

□1年生春学期
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「ったく、お前みたいな暗殺者まがいの男が敷地に居ちゃ物騒だろ!ぶっとばしてやるから安心しな」
ナップが挑発する。
「そうです、多分命は奪いませんけどコテンパンにさせていただきます!」
アリーゼも普段よりかなり前方で叫ぶ。
「多分ってなんだい、アリーゼ」
ウィルは引っかかった部分に突っ込むが視線で黙殺された。
「来るぞ!」
ナップが叫ぶともう2〜3人暗殺者が教室へ飛び込んだ。
「っち、まだいやがったか」
「ナップが受けそこねたのは僕が!」
「みんな、いい、できるだけ相手の武器の間合いから離れて!今はそれだけでいいから!」
ベルフラウは立ち尽くす残り4人に言うと矢を番える。
「覚悟なさい、不肖ベルフラウ参ります!」
「来てください……砂棺の王!」
「ちょ、それってまるっきり手加減なし……」
ウィルが驚く横で彼女は砂棺の王の憑依を敵兵につける。
「まぁとりあえずってことで……きっと大丈夫ですよ、魔力は抑えて憑依させましたから」
アリーゼが笑顔でさらに召喚を続ける。
「『パラ・ダリオ』!まとめて石に!」
あっという間に3体の石像になった仮面の戦闘兵を見てアリーゼ以外がぼやく。
「あーあ、今回もアリ姉が独り占めかぁ……」
「ちょっと、私にも出番をよこしなさいよ、アリーゼ」
「僕全く何もしてないんだけど……」
三人は三人三様に悔しがった。
「……」
「さ、帰りましょ」
ベルフラウがそう言うと茫然としていたジェルスリーたちが目に入った。
「す、すごいね……まるで迷いが全くない……」
「まるで戦いなれた兵士だったよ……」
「あ、あははは。早く帰りましょ」
ベルフラウたちは石像に縄をきつくしばりつけ、放置して寄宿舎へと帰っていった。

「くれぐれも今日のことは内緒にしておいてね、私たちから学長に直接伝えておくから。不確かな情報が蔓延するとかえってパニックになるから」
ベルフラウは寄宿舎に着くなりそう言った。
「その意見には僕も賛成だな。学長にはきちんと話してしかるべき対処をしてもらうからしばらく胸の内にしまっておいてほしい」
ウィルも彼らにそう言った。彼らはコクリとうなずいた。
「うん、ありがとうそうしてくれると助かるよ。お昼ご飯一緒に食べに行かない?たしか今日のお昼は宿舎じゃでないでしょ……」
ウィルはそう言う。
「うん、こっちこそ一緒してほしいです」
「じゃぁ一回部屋に戻って出かける準備してくる」
「ロビー集合な」
ナップがそう言って一度お開きになった。

「あの……」
ロビーに早く到着したネシュミアがナップに向かって口を開いた。今はナップとネシュミアしかその場にいない。
「ん?」
「あの、友達になってくれてありがと……、私心細くて、友達出来るかなとか、仲間外れになったらどうしようとか、授業についていけなかったらどうしようとか……」
「……ったく、そんなことにいちいちお礼なんて言わなくていいんだよ!」
ナップは恥ずかしくなって少し大きな声で言った。
「それにオレも、新しい友達ができてうれしいしな……」
照れてしまって最後はしりすぼみになりながら彼は言った。
「ナップくんってそう言うところはまだまだかわいらしい少年なんだね。さっきの戦いの能力みるとすごい大人びてかっこよく見えたけど」
「か、かわいいは余計だっ!」
彼はそう言って頬を膨らませるがそれも逆効果であることに彼は気づいていない。
「あ、ナップくん早いね」
「おぅ、ウェンリストじゃないか」
「信じられないよ君が11歳なんて。さっきの戦いぶりじゃ一介の兵士より戦闘に秀でていると思うんだけど……」
ウェンリストは興奮冷めやらぬ感じで彼に言った。
「ホントだよね、マルティーニ家のご子息であるってことはものすごいお坊ちゃまなのになんか戦いなれてたよね……」
ネシュミアもうなずく。まさかほんとのことを言うわけにもいかずナップは苦笑いをする。
「本当にキミたちが友達で心強いよ」
「頼りにしてるからね、ナップくん♪」
ネシュミアとウェンリストが同時に言う。
「おぅ、任せとけって」
ナップはうれしそうにそう言った。
 間もなく残りの人たちも降りてきて一同は8人で食事に出かけることになった。
「出かけるって言ってもボクたちあんまり帝都に詳しくないよ……」
実はマルティーニ姉弟以外は全員帝都に住んでいたことはなく、全くどこに何があるかわかっていない。
「う〜ん、僕たちが今日一日かけて案内しようか?」
もちろん彼ら四人は全力でハイとうなずいた。

「夕飯はたしか宿舎で出るんだったよね?」
ウィルがネシュミアに尋ねる。
「え、えぇ、確かそのはず……」
「じゃぁこのまま帰ろうか。おなかぺっこぺこにして帰ればきっとご飯もおいしいだろうしね」
ウィルはそう言って宿舎がある方向へと歩を進める。
 するととある路地で複数の男たちに囲まれた。
「ん……」
「ネシュミア、ウェンリスト、ジェルジール、ジェルスリー、逃げて!!宿舎まで全力で!!!」
どうも挙動がおかしいと気づいたナップの横でベルフラウが彼らをかばって後ろへと追いやる。
「あなたたち、何の用なんですか?私たち宿舎に帰りたいんですけど」
アリーゼが冷やかに言い放つ。
「貴様ら、あの有名な豪商マルティーニ家のガキだな……?」
男の中でひときわ背の高そうな男が口を開いた。
「いいえと言ったらどうするんですか?」
アリーゼがためしに訊いてみる。
「それならそれで、似てるだけだったということで別に何もしないが」
別の男が口を開く。

――身代金目的の誘拐か何かじゃないかな……――
私は以上先ほどの駆け引きから結論を導き出した。
――あるいは取引停止が目的……?どちらにしろ私たちを人質にとってお父様に不利な要求を突き付けるつもりですね……――
私はベル姉さま、ウィル兄さま、ナップに目配せをする。
「あなたたち、マルティーニ家のご子息が目的ならあっちにさっきいましたわよ……?」
ベル姉さまが私の意図をくみ取ったのか先ほど自分たちが通ってきた道を示す。
「そ、そうか。怯えさせてすまなかったな。いくぞ」
リーダーらしき男が声を上げると周りの男も「はっ!」と言ってそちらの方向へと走り去った。
「とりあえず宿舎に戻ろうぜ、話はそれからだ」
ナップの一声で私たちは宿舎へと再び戻り始めた。少しずつ日が暮れようとしていた。

「戦闘だけじゃなくって状況把握や駆け引きにも秀でているんだね……」
ウェンリストが夕食が始まってすぐに口を開いた。
「私も思った」
ネシュミアも彼に同調する。
「ま、まぁ……」
まさか暗殺者や帝国軍と渡り合っていたなどとはとてもじゃないが言えない。ましてや亡霊などと戦っていたとも。
「まぐれだよ、まぐれ」
ウィルはわれながら苦しいなと思いつつ口にする。
 ウィルたちが食事をしている間に徐々に食堂にいる生徒の数は減っていった。そんな中かなり遅い時間帯に食堂に現れた生徒たちがいた。彼らは何となくウィルたちの席のすぐ近くに座る。特に連れだというわけでもないのか全く、3人が3人話すこともなく沈んだ顔をしている。

――話しかけてみようかな……――
私はそう思った。昔なら絶対にそう思わなかっただろうと内心驚いたが私はとりあえず声をかけることにした。
「あの、もし嫌でなかったら私たちと一緒にご飯食べません?大勢のほうがおいしいと思いますし」
「まぁアリーゼが声をかけるなんて……」
「わたしだって成長したんですのよ、姉さま」
ベル姉さまが驚くがお構いなく彼らに向かって笑いかける。
「あ、はい……」
彼らはそう言って、こちらに席を移した。私は幾分かほっとした。

「ロレインです」
「ロスティナ・エヴルです」
「シェリルコールです」
「君たちは、お友達同士じゃないの……?」
ウィルが三人にそう尋ねると三人は一様に顔を横に振った。
「同じクラスでもないし……たまたま食堂の入り口ですれ違ったので、声をかけようと思って近くに座ったんだけど……いざとなったら勇気が出なくて……」
「あの、そちらはお友達同士なんですか……?」
ロレインと名乗った少年がしょげる横で、シェリルコールと名乗った少年がウィルたちに話しかけてくる。
「あ、ええと……自己紹介するわね」
ベルフラウがそう言って名乗る。
「ベルフラウ・マルティーニ。Sクラスにいます。ちなみにこっちのみんなはSクラスにいるの」
「アリーゼ・マルティーニです」
「ナップ・マルティーニだぜ!よろしくなっ!」
「ウィル・マルティーニです。以後お見知り置きを」
家名を聞いた途端三人の目が驚愕で見開かれた。
「で、私がネシュミア・ドレイスト」
「ウェンリスト・セウェルス」
「ジェルスリー・ルースブルグ」
「ジェルジール・フェッツロイ。ボクたちもSクラスの一員だよ」
一通り自己紹介を終えてジェルジールがそう締めくくった。
「よかったら仲良くしてね」
アリーゼがそう言う。
「いつも授業では一緒にならないと思うけど、困ったこととかあったら教室でも宿舎の部屋にでも訪ねてきてくれればいいから」
ウィルがそう言う。そう言って精いっぱいの笑顔を見せる。
「遠慮したら一生恨みますからね、あはははっ」
ベルフラウも偽りでなく本心からそう言って笑う。
「た、助かります……、オレ田舎から一人で出てきてて……すっごい不安で……周りみんなお金持ちばっかりだし……」
そう言うのはシェリルコールだ。隣でロレインもうなずく。
「おいらもパスティス近郊の街から来たんだ……、ホント心細くて……、それにおいら貴族出身でもなんでもないから……周りに打ち解けられないし……」
「それオレも……なんか回りからバカにされちゃって……」
ふたりともしょぼくれる。
「あぁ、ウルゴーラの学校ならありそうだなぁ」
ウィルは苦々しく笑った。
「僕たち別にそんなことないから」
「そうだぜ、安心して頼ってくれよな!」
ウィルとナップがマルティーニ姉弟の意志を代表してそう言った。
「うん、私たちも頼ってくれて構わないよ」
「別にボクも、偏見はないつもりだし」
ウェンリストたちもにっこりとほほ笑んだ。それを見て安心したのかあちらも笑顔になった。
 それからしばし歓談してから彼らは一応部屋へと戻るために食堂を出た。
「あ、部屋教えてなかったね」
ウィルがそう言って部屋を教えるためにロレイン、シェリルコール、ロスティナと一緒に自分の部屋へと向かった。
「就寝時間までは時間があるしどうしましょうか……」
その廊下でアリーゼがつぶやく。
「部屋でお話ししてればいいんじゃないかしら?先にお風呂とかだけ済ませてね」
ベルフラウはそう返す。
「そうしようぜ、とりあえず風呂が終わったらウィル兄の部屋に集合でいいか?」
「断りなく僕の部屋にするのかい、ナップ」
「いいだろ、減るものじゃないんだからさ」
「いいけどね」
結局部屋の位置を教えてそのまま全員がお風呂へと向かった。
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