忌まわしき遺産

□屋敷にて〜とある召喚師の夜〜
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やっとのことで彼が廊下の火を消し終わった。アメルは使える召喚石がなく、ソルへとありったけの魔力を注いでいた。
「ふぅ、一時はどうなるかと思ったけどとりあえず廊下の火は消えたな」
「えぇ、とりあえず部屋に入ってみましょう」
アメルに促され部屋へと踏み入れる。
「大丈夫か、お前ら!?」
そこには怯えきった生徒たちがいた。真夜中だったため寝ていた生徒たちは完全に逃げ遅れたようだった。アメルが優しい言葉をかける。
「もう大丈夫よ。何とか火は消したわ。ほかの部屋にも生徒たちはいるのかな?」
ところが帰ってきた反応はきついものだった。
「く、く、来るな!お、お、お前たちなんだろう?派閥を襲ったのは!!」
意味が分からずソルは首をかしげる。――派閥の襲撃とかいったか?――合点がいかないので生徒たちに彼が質問する。
「派閥の襲撃って、何かあったのか?」
「ごまかしたって無駄だぞ、俺は知ってるんだ。お前たちがここに火を放ち、生徒たちを殺そうとした上に本部のサモナイト石を盗み出そうとしたことは!!」
全く合点がいかない。アメルはその様子を見てあることを決心した。
「これで信じてくれるかしら?」
彼女は天使としての羽を見せたのである。これにはさすがに生徒たちも心を開いた。三人のうち一人が口を開く。
「ここ最近、派閥のサモナイト石が狙われてるんだ。錬成中のサモナイト石が取られそうになったり、夜に侵入者が来たり」
――どういうことだ?だれが、何の目的でそんなことをする?――
ソルが心の中で諮問するが、心当たりなどまるでない。デグレアは傀儡戦争以来平和な国家へと生まれ変わった。特に心当たりが……
「ぐるおーん!!!グルォォォ」
「!!!!」
彼が思索を巡らせている間に咆哮が廊下の方向から聞こえてきた。アメルとソルは「ここを動くなよ」と言い残し何事かと廊下へと飛び出し、生徒の部屋のカギを締める。それは本部の教室がある方向にいた。
「あいつらがさっきの叫び声の正体か……」
廊下に出たソルが見たのは悪魔。しかもかなり大柄でとても下位悪魔とは思えない。幸いここが一番教室側の部屋のためまだ生徒に危害が及んではいないようだ。
ぐるぉおぉぉぉん!それらはソルとアメルを見て一層大きく叫び声をあげる。
「上等だ!全員まとめてあの世に送ってやるぜ!!」
燃え上がるソルを見てアメルがとりあえず付け加える。
「ここ室内ですからそれだけは忘れないでくださいね」
ギクッとソルは顔を青ざめさせる。とりあえず行くぞ!と彼は悪魔のほうへと意識を集中させる。
「召喚!機竜ゼルゼノン!バベル・キャノン!」
「天使エルエル!それと天使ロティエル!スペルバリアを展開!!」
ソルが大規模な攻撃魔法を召喚しようとしているのを見てアメルが周りに防御陣を張る。はり終わったその瞬間とんでもない光弾が空から落ちてきて悪魔たちを引き裂く。
「ふぅ、何とか全部始末できたみたいだな」
終息した後を見た彼はそうつぶやいた。――正直あれで死ななかったら困るし。――
アメルはそうですねと返事をする。
「とりあえず生徒たちを集めましょうか」
アメルの提案にソルは行動することで同意する。
 生徒たちは全員無事だった。多少火事で煤っぽくなってはいたが目立った怪我もなく、とくに命に別状はなさそうだ。
「とりあえず、今日は俺たちがずっとここにいてやるからお前たちはこの部屋で寝てくれ。いつまた襲撃があるかわからないからな」
ソルがそういうと生徒たちは素直に従った。部屋はとてつもなく狭くなったが何とか入りきるようではあるしソルとアメルがドアの外に出るためなんとか全員寝られるようだ。ドアの外に出たソルは横に立っているアメルに話しかける。
「アメル、君も寝てもいいんだぜ?見張りは俺一人でも勤まるわけだし」
大丈夫です、お気になさらず、とアメルは笑って返事をする。彼女は次の襲撃が確実にあると踏んでおりその時最初から臨戦態勢に入っているほうが有利だと踏んだのである。ソルがぼやく。
「しかしひどい焼け方をしたなぁ、この建物。これは一回きちんと改修工事したほうがいいと思うぜ……」
「全く同感です。きれいに絨毯が敷かれていたのに……レルム村が焼かれた時を思い出しました」
「す、す、すまない、君にそんなにつらい思い出をよみがえらせる場所に連れてきてしまって……」
アメルが一瞬つらそうな顔をしたのでソルが焦って謝罪する。
いいんですとアメルは彼に微笑む。
「あれはたしかに悲しかった。わたしがいた村のたくさんの命が犠牲になった。それだけ見ると悲しいことです。でも、今レルム村は生まれ変わって新しい活気ある村になっています。きっと昔のように平和でいい村になってくれるって信じています。あのような悲しみが繰り返されないようにするためにわたしたちがいるのですから!」
彼女は眼の奥に確かな光を宿しながら力強くこう締めくくった。
――なんだかこういうところはアヤに似ているかもしれないな……――
ソルがアメルの顔を見ながらそんなことを思った。和みかけたまさにその瞬間―――
ドーン!!!!
地響きがした。今度は別の建物からだ。
「ソルさん!!」
アメルの言葉にあぁとソルが応じる。が……。
「アメル、君はここにいてくれ、もしかしたらここにも襲撃者がくるかもしれない」
でも、とアメルは言うがそんな彼女を残してソルは爆発のあった建物へと駈け出していた。
 爆発があったのは教室や生徒たちが誓約の実践練習をする部屋がある建物だった。悪魔の数が心持増えている気がする。
「っち、ついてないぜ。まったく!」
幸いにもまだ火は回っていないが、悪魔が多すぎる。――正直こんな数は俺の手に余るぞ!!――
 ――だが、とりあえず火は消しておかないと!!――焦燥でショートしそうになる思考をフルに回してローレライを召喚し、火を消す。
 グルォォォォォン!悪魔たちは消化し終わる前に彼に向かって突撃を始めていた。ソルは悪魔の突き出す槍を交わしながらいなしながらローレライを召喚している一方でもう一つの召喚石に働きかける。
「召喚!レヴァティーン!ギルティブリッツ!」
先ほどとは色が違う光弾が空から降ってくる。それは悪魔たちの中心に降り注ぎ徐々に膨れ上がる。膨れ上がった光弾の炎が消えるころには悪魔の姿はなく、そこにはただ彼がひとり立っているだけだった。彼が空を仰ぐと東の空が明るみ始めているのが目に入った。
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