それからの日々

□年明け
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 夜中。
「うひゃ〜〜。さみ〜〜〜。俺は帰る」
「ガゼルさん、帰ったらどうなるかわかりますよね?」
アヤは帰ろうとしているガゼルに黒い召喚石と赤い召喚石と紫の召喚石と緑の召喚石を見せながら言う。
「わわわわわわわわ、わ、わかったからその手に持っているものを放せ!!!」
ガゼルは大慌てでアヤの前に戻ってくる。
「ってか、アヤ。持ってる召喚石がなんかどんどん増えてない?しかも隣でクラレットまで構えてるし」
ナツミが言う。ソルもうなずいた。
「あら?そうですか?」
アヤはすっとぼけて手に持っていたレヴァティーン、ゼルゼノン、ミカヅチ、アイギスの召喚石をポケットにしまう。
「ガゼル、ここまで来て往生際が悪いわよ?男としてみっともないと思わないの?」
「しょうがないわね、召喚フレイムナイト、ワイヴァーン」
「ペンタくん」
「ちょっと、クラレットペンタくんなんて召喚してどうするつもり?」
ナツミがパートナーに訊く。彼女はワイヴァーンに炎を吐かせ、フレイムナイトに近くにあった大きな木に火をつけるようにお願いする。
「え?そりゃぁ、こうして温めようと……」
彼女はそう言って前方へと投げつける。間もなくペンタくんは爆発し大量の熱が放出された。
「温かいを通り越して熱いじゃないのよ!!!」
「あら、おかしいですわね……」
「姉さまはその辺が少し昔からずれてたからねぇ」
カシスが横で納得がいったという顔をしている。
「とにかく、これで少しは温かいはず」
ナツミは先頭を切って赤い鳥居の中に入って行く。皆続いて鳥居をくぐった。
「カイナはいるかな……」
ナツミが懐かしい思い出を思い出しながら言った。
 しばらく彼らが行くとやがて開けた土地に出た。
「あら、誓約者の皆さんと護界召喚師の皆さんに、それにすごいお母さんとそこにいるのはコソ泥さんじゃないですか」
「すごいお母さん?あら、それはうれしいわね」
リプレはすこしうれしそうに言う。ガゼルは対照的に噛みついた。
「誰がコソ泥だ!!俺はガゼルっていう名前があるんだからな!!そっちで呼べ!!!」
「ガゼルさん、そんな大声で叫ぶと近所迷惑です」
クラレットが一部ちょっとチガウ指摘をする。
「クラレット、ここ近所とか存在しないから……」
ナツミが律儀にパートナーに突っ込んだ。
「んもう……なんであたしが突っ込まなくちゃならないの……」
ナツミがぼそぼそという。
「ようこそいらっしゃいました。みなさん、といっても何もお出しするものが……あ、お茶をお出ししますのであちらへどうぞ」
カイナは見るからに立派な建物を指示した。彼女もその建物へと入って行く。
「だって、とりあえず先にお参り済ませておきましょ」
「そうですね、皆さん、お賽銭をどうぞ」
アヤが事前に買い物でためておいたリィンバウムのお金をみんなに配る。
「これを神社のお賽銭箱に入れて願いを祈ればきっと叶いますよ」
「そうだね」
各自お賽銭を賽銭箱にいれる。各自が手を二回たたいて手を合わせる。
――アヤとずっと一緒に居られますように。俺がかっこよくなれてアヤと釣り合いが取れますように(ソル)――
――ソルさんが私のことを愛してくれますように。ソルさんが学校になじめますように(アヤ)――
――寝坊が治りますように(ナツミ)――
――もうすこし朝の苦労が減りますように、召喚術が上達しますように(クラレット)――
――もう少し楽にリィンバウムと日本が行き来できますように。世界が平和になりますように(トウヤ)――
――トウヤの奥さんになるために料理が上達しますように。召喚術がクラレット姉様くらいは上達しますように(カシス)――
――テスト前の地獄のような気分が少しでも減りますように(ハヤト)――
――朝の苦労がなくなればなァ……(キール)――
――みんなが元気でいられますように(リプレ)――
――金くれ(ガゼル)――
「さて、とりあえずカイナにお茶をいただきに行こうか」
トウヤが促して一同はカイナが入って行った建物へと入って行った。
 彼らは明るい色調で統一されたその建物を進んでいく。ふすまが開けられており中から光が漏れていた。
「みなさま、よくぞこの寒い中いらっしゃいました」
「初詣に来ようと思って。ついでだから二年参りがいいかと思ったのよ」
「二年参りですか。リィンバウムでまさかそのようなことをする方がいるとは思いませんでした」
「あ、俺たち日本出身だからさ」
カイナが意外と言った反応をするのでハヤトは一応釈明する。
「どうぞ、皆様」
カイナはそう言って緑茶を差し出す。
「あたたまりますね〜」
早速口を付けたアヤがそう言う。
「カイナはえらいわね。こんな時間まで修練?」
ナツミが訊く。
「えぇ、といっても修練自体は終わってもうすぐ寝るところでした」
「そうだったの、邪魔しちゃった?」
カシスがちょっと悪かったかもといった風に言った。
「いえ、来客自体がほとんどないのでうれしかったですよ。こうして皆さんとお話しできるわけですし」
「しかし、懐かしいわね。オルドレイクを倒す戦いのときは共に戦ったっていうのにそれが遠い昔のようですもの」
リプレが思い出を振り返りながら言う。
「そうですね。実際あれから傀儡戦争もあり、アヤさんたちは王都へと呼び出されたりしていろいろありましたものね」
「そうでしたね」
「王都?何しに行ったの?」
「ええと、傀儡戦争に参加したりとか別の討伐の依頼に付き添っていきましたが?」
「あぁ、俺と二人で傀儡戦争に参加したんだぜ?」
ソルも横からくわえる。
「あら、知らなかったんだけど」
「まぁ、とりあえず。みなさんお元気でやってますか?ハヤトさん、ナツミさんは寝坊は治りましたか?」
カイナはナツミとハヤトにそう聞く。答えたのは本人ではなく隣に座るパートナーだった。
「僕の苦労が減ればいいんだけれどね。酷い寝起きに毎朝苦労させられっぱなしさ。時々、放送禁止用語レベルまで行ってる気がするし……」
「わぁぁあーーーーーぁぁぁああーーーーー」
ハヤトが顔も真っ赤にしてキールの言葉を遮る。
「ナツミに関しても少しましになった程度で毎朝私が起こして差し上げないと遅刻ですよ」
「悪かったわね、布団の微睡って格別じゃない?」
ナツミはそう言ってアヤとソルへと同意を求める視線を送る。
「そうか?俺は特段そうも思わないが。さっさと光を浴びて朝ごはんを食べたいからな。しかも朝ごはん俺が作ることも多いから微睡とか言ってると朝ごはんできないし」
「別に私は微睡が格別とは思いませんけど。朝ごはんを作るのもありますけど、朝のフレッシュな空気っていいものですよ」
当の二人はあっさりとかわしたが。
「そうでしたか、私も毎朝5時過ぎに起きるのが最近少し億劫で……禊の時間なので起きなくてはならないのですが……」
「カイナって熱心よねぇ」
「そんなことありませんよ。こちらの世界に召喚されるまでのケイナ姉さまのほうがもっと熱心でした。私はそれと比べるとまだまだ自分に甘いですよ」
カイナはシルターン時代を思い出しながらそう言った。
「そういえば、カイナ寝るんでしょ?私たちそろそろお暇しないといけないかしら……」
ナツミはそう言って腰を浮かせる。
「いつでも話がしたかったら、フラットへ足を運びなさいな。みんな待ってるから」
リプレがそう言い残して建物の入口へと向かう。
「あ、私たちがいるかどうかは保証がありませんが」
アヤが付け加えた。
 カイナに見送られて彼らは鳥居の外へと出る。
「カイナ、体調には気を付けてね」
「助けがほしかったらエルゴを通じて助けを求めてくださいね、いつでも飛んできますから」
アヤがそう言ってにこにこする。
「んじゃ、俺たち帰ってくるな、ありがとなカイナ」
ハヤトが礼を言って全員がその場を離れた。

 そのあとフラットへと帰って彼らは死んだように寝始めた。ソルとアヤを除いて。
「ソルさん、これで全員の部屋から没収できましたか?」
アヤは闇の中ひそひそ声でソルにそう尋ねる。ソルはあぁとだけ返した。
「では、私たちも寝ましょうか」
「あぁ、俺クタクタだ」
「ソルさんは、まだ足が治ってないですからね」
アヤはそう言って彼をいたわってベッドへと導いて自分のベッドへと入る。
 ほどなく彼らは眠りの底へと落ちた。
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