それからの日々

□リィンバウム
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「というわけですが私たちはとりあえず、街の北に行かなくちゃいけないんですよね?」
アヤはそう言って街を歩いて町の北へと向かう。
「そうみたいだな、街の北で異常にアリ?が繁殖してて周囲の木とか植物が被害を受けているとかいう報告がされていたが……そのせいで北スラムの住民が日々怯えて暮らしているとか……」
「スラムの住民までちゃんとそうして保護対象に入れているのは以前のサイジェントをとは違ったところですよね」
そう言いながらアヤとソルは北スラムへと入る。
――かつてはバノッサやカノンたちと戦ったっけ……――
ソルはあの頃を回想しながら北スラムへと入る。
――結局、最終的に二人を救ってあげることはかなわなかったんだよな……なんとしても救ってやりたかった……俺の召喚術の知識がかなわなかったせいで……――
ソルは悔しさを顔ににじませる。
「ソルさん、どうしました?」
前を行くアヤは周りを見回していてものすごい表情をしているソルに声をかける。
「あ、いやなんでもない」
「しかし、あの頃よりは少し整備されているようですね」
少し区画整備が進んだ北スラムを見ながら彼らは感想を述べる。
「あぁ、南スラムも思ったけど最近少しその辺の公共の福祉にもサイジェントの領主様や議会も気を配り始めたんだなって実感させられるよ」
「えぇ、そうですね」
アヤがそう言って角を曲がった瞬間。
「よぉ」
何やら5〜6人ほどの男たちが声をかけてきた。身なりや態度からは引き剥ぎだと思われる。
――っち、でも住んでる人の心は荒んだままみたいだな……――
フラットのそれと比べながらソルは舌打ちする。
「殺されたくなかったら、有り金置いていけや」
物騒な口をその中の一人が利く。
「あら、なんですか?脅しですか?私はそのような脅しには屈しませんが?」
アヤは何とも呑気な態度で返答をする。だが、呑気でもすでに懐には赤い召喚石が用意されている。彼もそれを横目に見て紫と黒それに緑の召喚石を用意しながら敵をにらむ。敵は彼女の態度が気に入らなかったのか額に青筋をうかばせて言う。
「ったく、痛い目見たいらしいな。でてこい!」
そうその男が言うとアヤたちを囲むように30人ほどの男たちが姿を現した。
――ったく、囲んだところで俺たちにかなうと思ってるのか……?――
ソルはあきれながらそれでも気を引き締めろと自身に言い聞かせる。
――どんな敵でも油断は大敵だ――
「仕掛けてこないんですか?私から仕掛けてもいいってことですね?急いでいるのでのいてもらいます♪」
アヤは一向に仕掛けてこない相手に焦れてそう言う。
「いや、なんでうれしそうなんだよお前……」
ソルは突っ込むと同時に黒、紫、緑の順に召喚石に魔力を込める。アヤは赤、そして紫、黒、緑、すべての召喚石へと魔力を走らせる。が、相手が魔力が高まる前に彼女の背後と前から襲いかかった。
――っ!!何とか少しだけでも……――
――私の杖で時間が稼げれば……――
二人とも持っていた杖で敵の剣やタガー、斧を受け止めながらその間に魔力を高めてゆく。
「いくぜーー、ロティエル、レヴァティーン、ゼルゼノン、それから……アイギス!」
「あら、ソルさんいつの間に幻獣界の魔法を?まぁいいです、私はミカヅチ、ええとそれからジャルヌアークとゼルギュノス、あとブリスゴアで行きます」
ソルはまず真っ先に自身と彼女にスペルバリアをつける。
――さぁ、真髄はここからだぜ!――
襲い掛かる敵の数はざっと見てもアヤは5〜6、ソルには8〜12だ。
そこへレヴァティーンの攻撃、ゼルゼノンの攻撃が加わる。さらに遠く離れていた銃を持っている敵や弓を構えている敵にもアイギスをお見舞いする。さらに反対側はアヤによってジャルヌアークとゼルギュノスが放たれ、遠距離の敵にはブリスゴアの極炎界が放たれる。あたりは惨状となる。
「さて、行こうか」
全員が倒れた時点で彼はそう彼女に言う。彼女は、はいと言ってまた一歩を踏み出した。
「しかし、ソルさんがメイトルパの召喚術をマスターしているとは思いませんでした……」
「あぁ、聖王都に行ったときにちょくちょくミモザの家でメイトルパの術に関する専門書を読むうちにな。しかし、ちょっとやりすぎたみたいだな……」
ソルは後ろを振りかえっていう。
「あら、ほんとですね。まぁ誰かが通報してたぶん誰かが治療しに来てくれますよ」
アヤは日和見なことを言って城壁へとたどり着いた。

ハヤトとキールはそのころアルク川の上流へと来ていた。
「たしか、この川の源流になにやらなんか大変なことが起こったと?」
「あぁ、そうみたいだぜ」
ハヤトは草木をかき分けてキールが進みやすいようにしながら川の源流をさかのぼる。
「大変なことってのはこれのようだな」
「木が枯れちゃっているね……しかも、何やらかじられた跡があるよ……」
キールはその場の惨状に目を丸くしながら言う。あたりの木が手当たり次第に歯形をつけられすべて枯れてしまっていた。その時。
GYshaaaaaaaaaa!!
「!!」    「!!」
彼らの前方からそれらは現れた。
「これって……なんなんだ?」
キールは見たこともない物体に目を丸くする。が、顔は険しい。
「わからない、が俺に一つだけ言えることがある。こいつらだぜこの森をからしたのは……」
ハヤトは肉眼で遠方にいるそれらが木をかじっているのを確認しキールに告げる。
「って、見る見る間に増えてるし……しかも、なんかすごい今にも襲い掛かって来そうな感じがするんだけど……」
「来るぞ!キール!」
ハヤトは自然に前にでて彼をかばう形になりながらいう。
「召喚……。頼んだよ」
ハヤトが多勢に無勢で防戦一方になっているところへ彼が援護魔法を放つ。
「っと、いきなり最強クラスの召喚術かよ……。まぁでもこいつら硬くて俺の攻撃じゃ不利みたいだから助かるぜ」
剣による攻撃が通じにくいと悟った彼はすぐに召喚石へと手をかける。彼の召喚石は間合いが不利な相手に接近するだけの補助の役割のためかなり威力は控えられているが。
「よいっしょっと、頼んだぜパラ・ダリオ」
骸骨の骸が彼のチカラによって召喚される。が。
「こいつらモノによったら麻痺や石化さえ効かないのかよ……」
彼の召喚術によって石化したものをスルーして麻痺したものの首を斬り飛ばしながら彼はぼやく。そこすぐ前へキールのレヴァティーンが直撃し、また大量の敵を薙ぎ払った。

――ハヤトたちがそうぼやきながら苦戦している頃。
「あーぁ、これ敵って?」
ナツミはあきれてぼやく。実際彼女の目の前の敵はただの人間だ。
「ざこそーね、さっさと倒れてもらいましょ。さっさとつかまってよね、街の騎士団の人もさっき呼んだし」
彼女は心底面倒くさそうにそう言う。彼女たちは一通目の依頼の通りに王都へと続く道路沿いに来たわけだが。そこへ何やら大きな男が現れる。しかも大量の敵を連れて。
「あら、ナツミ。雑魚も群れると始末に悪いって言いますよ。苦戦しないように気を引き締めませんと……」
「いや、クラレット、あなたあたしよりひどいこと言ってるでしょ……」
ナツミは突っ込みながら剣を構える。
「準備はいい?クラレット、倒すのも目的だけど、今回はとらえるほうを最優先にしないといけないのよ?」
「いや、ナツミの力で敵を殺さないでくださいよ?とんでもない力なんですから……」
「ちょっと、クラレット、それどういう意味よ?」
何やらすでに漫才と化している。
「多勢に無勢なのに余裕だなねーちゃん、だが世の中そんなに甘くねえぜと」
「そうだぜ、そんなか細い体でなにしようってんだ?」
どうやら頭目である男と副頭目の男がたしなめる。が、彼女たちは笑うだけだった。
「あら、あたしたちを知らないなんてほんとかわいそうよね。教えておいてあげる。わたしは橋本夏美。誓約者の一人よ」
「わたしは、クラレット・セルボルト。護界召喚師の一人です」
「!!」
どうやら敵の数人の召喚師が思い当ったのか顔を引きつらせる。
「生きていやがったのか……全員、あの乱で死んだと聞いていたのに……」
「勝手に殺さないでよね!まぁということでちゃっちゃとやられちゃってくださいな」
彼女はそう言うなり、ゲルニカとスライムポットを召喚する。横ではクラレットがレヴァティーンとペンタくんを召喚している。
「さぁーて、ひと暴れしますかぁ」
ナツミがそう言った瞬間、炎が荒れ狂った。

――僕たちに来ていた依頼は城の警護か。マーン家の警護も確かあったな。今日は街で何か行われるから、という理由が書いてあったが……――
トウヤとカシスは城壁の中に入りながら言った。マーンの屋敷に行ったら屋敷の主のマーン三兄弟が今から領主のいるお城に行くといったからだ。
――ふむ、きれいに選定されているな……――
彼は庭を通過しながらそう回想する。
 やがて彼は謁見の間へとたどり着いた。昔きたわねぇとカシスは昔の嫌な思い出を思い出す。
 やがて、領主様が外出なさるということで彼らは警護でついて行った。

――ふぅ、草木が枯れた原因はこれらが原因みたいだな……
あたりに群がるジルコーダを見上げながら彼は分析する。
「アヤ、こいつらジルコーダだ。たしか、特徴は硬くて、一度興奮すると周りに伝染するから注意が必要だったと思うが……」
「要するに召喚術で一気に殲滅すればいいんでしょう?」
「たぶん、どこかに女王のジルコーダがいると思うんだが……そいつを殺さない限り永遠に増え続けると聞いた覚えがあるぞ……」
彼はそう記憶を手繰る。
「そうですか、要するに日本のアリと増殖方法が同じってことですね、白アリだと思えば駆除に心が痛むこともありませんし、とっと消えていただきましょう」
彼女はそう言って懐の召喚石4つへと魔力を込め始める。
「さぁ、行きますよ。レヴァティーン、スヴェルグ、あとはブリスゴア、ミカヅチ、思う存分暴れちゃってください!」
「俺が戦う間もないと思うが……俺はじゃぁジャルヌアーク、ヘキサアームズでいくか」
アヤが言った瞬間あたりの破壊が始まる。もう殲滅というよりはでたらめな破壊だ。ソルも便乗したことであたりはものすごい地響きに襲われた。

 それは突然やってきた。ぐらぐらぐらぐら。会場は半ばパニックになる。トウヤとカシスは公聴会にいた。今日は街の議会に住民の意見を取り入れるため定期的に行われる公聴会の日だったのだ。彼らはその警護を依頼されたということだ。何事かとトウヤとカシスがあたりを見回す。カシスが目ざとく見つけた。
「あれ!」
「これ、もしかして樋口さんとソルの仕業か……」
半ばあきれながらトウヤはつぶやく。マイクを取って叫ぶ。
「落ち着いてください!これは召喚術による地響きです。原因は樋口綾とソル・セルボルトです。すぐに収まりますから、どうか落ち着いて席で待機してください」
彼のその声で会場のざわめきは収まった。すぐに揺れも収まる。
「ぐっじょぶ、トウヤ。ナイスな判断だったと思うよ」
カシスはまた裏へと戻ってきたトウヤの肩をたたいて労をねぎらう。
 すぐに領主の演説が再開された。
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