それからの日々

□クリスマスの準備
1ページ/5ページ

 「新堂くんの家って意外に学校から距離があったのですね……」
「あぁ、割とな」
ハヤトはソルとアヤを自宅まで案内しながら答える。すでに彼らは最寄駅から10分ほど歩いている。
「とはいえ、もうすぐだぜ。そこの角をあがった坂の上が俺んちだ」
彼らは言われたとおりに角を曲がる。割と急な上り坂が姿を現す。とはいえ距離は大したことがないが。
「ソル、樋口俺と勝負しようぜ、この坂の上まで誰が一番早く上がれるか」
突然ハヤトが子供のように勝負を持ちかける。アヤとソルははぁ?といった風にハヤトを見る。
「そ、そ、そんなのバスケ部のハヤトが勝つに決まってるじゃないか!!アヤは女だし、俺は召喚師、足は鍛えてないんだぞ?」
ソルがもっともな反論をするがアヤが横からおずおずと訂正する。
「私、勝つ自信がありますよ。ソルさん、一緒に新堂くんに買って何かおごってもらいましょうよ?新堂くん、普段鍛えてるんだから負けたら何かおごってくださいね」
アヤがにっこりとハヤトに言う。
「あぁ、俺が負けたら何かおごってやらぁ」
ハヤトも負ける気がしないのか乗り気の様子だ。
「んじゃぁ、ソル、樋口、順番に5からカウントダウンな、俺からで5」
「では私が4」
「3(ソル)」
「2(ハヤト)」
「1(アヤ)」
「まさかスタートって俺かよ?(ソル)んじゃぁ0!」
一斉にスタートする。スタートこそ拍子抜けで若干アヤとソルに出遅れたハヤトだが一瞬でアヤとソルを抜き返す。当然といえば当然の形になる。アヤとソルが後ろでほぼ併走、ハヤトはダントツの構図。
――アヤは、なんであんなに自信満々だったんだ?普通に振り切られてるじゃないか――
ソルが内心そう思う。が、その瞬間アヤの懐で紫色に発光するものがソルの目に入る。
 次の瞬間ハヤトが石像になる。パラ・ダリオのようだ。ソルは驚いてアヤを見る。
「だって、召喚術は禁止とは新堂くんもソルさんも言いませんでしたよね?」
アヤはいたずらっぽく笑って見せる。ソルはそうだったなと思いハヤトへとスライムポットを憑依させる。万が一石化が解けても彼は足回りが格段に能力ダウンしているので全力疾走したところでおばあさんが歩くほうが早い程度の速度しか出ないことになる。アヤとソルは何事もなかったかのようにゴールした。が……。
「あれ?新堂くんが石造になったまま治りませんね……」
「ちょっとやりすぎたんじゃないか?せめてタケシーのゲレゲレサンダーにするべきだったと思うぜ?仕方ないなァ……ジュラフィム召喚、治してやれ」
ソルの声にこたえて聖獣が姿を現しハヤトの石化を解いた。が。
「あれ?俺ってこんなに走るの遅かったっけ?」
――あ、まず!スライムポットの憑依中だった!――
ソルがうっかりしていた。案の定横を近所のお姉さんが歩いてハヤトを抜いて行った。
「新堂くん、まじめに走らないと勝てませんよ。まぁ私たちは先にゴールしてるわけですが」
「ってか、おかしいだろ。なんで俺がスタート直後でお前らはゴールしてるんだよ」
「まぁ、紆余曲折あったからな」
ソルはそれでいいのか?と突っ込まれるような説明をする。そうこうしているうちにスライムポットの憑依が解けてハヤトが通常の速さで坂を上りきってきた。
 頂上について開口一番ハヤトは文句を言う。
「分かったぞ、お前ら召喚術を使っただろ?ずるいぜ、そんなの。そんなの召喚術にたけたソルと樋口が勝つに決まってるじゃないか!!」
かなり怒り心頭といったところか。が、アヤは軽くかわす。
「だって、新堂くん別に制限つけなかったじゃないですか。無制限なんですから、殺人をしない限りなにしたって大丈夫なはずでしょう?それとも何、文句を言うんですか?」
アヤはそう笑顔で言うが全く目が笑っていない。目はここで文句を言うと男らしくないですよねぇと言っているかのようだ。
「っち、仕方ねェなァ。ったく、おごればいいんだろおごれば!」
ハヤトはアヤの迫力に負けて半ばやけくそのように叫んだ。わかればいいんです、とアヤは言った。
「ただし、何千万とか何百万とかいうのはなしな」
ハヤトが支払い能力を考慮して今度はキチンと事前に制限をかける。
「えぇ、いいませんよ。私、今温かい物が飲みたいので、自販機でコーンスープとかココア買っていただければ満足です」
「俺も、同感かな。どうにも寒いぜ」
さっきの先方から予測するにとんでもないものを頼むのだろうと思っていたが案外平凡なものだったのでハヤトはこけそうになる。言った通りすぐ近くの自販機で買って二人にそれぞれ渡す。
「しかしこんなものなら勝負しなくても買ってやったのに……」
「まぁいいじゃないですか。特に今欲しいものと言ったらこれぐらいなんですから」
欲がないやつらだなぁとハヤトは二人を見つめる。ハヤトの目の前でちょっと缶を暑そうにしながら二人はタブを開けて飲み始めた。
「ほら、二人ともぼさっとしてないで家に入るぞ」
ハヤトに促されソルとアヤは新堂と表札の書かれた家へと入る。
 中へ入ってリビングへ行くとまるで抜け殻そのもののキールがいた。キールはハヤトの姿を認めると生気を取り戻した。
「おかえり、それにいらっしゃいアヤさんとソル」
「おぅ、キール兄元気じゃなさそうだったがどうかしたのか?」
「お邪魔します」
アヤとソルがそれぞれ挨拶をしてリビングへと腰を下ろす。キールはソルに問われたことはまぁ、とお茶を濁した。その時、ハヤトの携帯がブルブルブルと震えて着信を知らせる。
「はい、もしもし新堂だが」
「あぁー、もしもし、こちら深崎ですが。とりあえず最寄駅までは来たものの全くその先がわからないので迎えに来てほしいんだけど」
「おぅ、任せろ!」
ハヤトはトウヤの要請にすぐに応じ、ダッシュをかけようと玄関で運動靴を選ぶ。
「新堂くん、忘れ物です」
アヤは玄関先まで行ってクロックラビィの召喚石を渡す。
「おっ、アヤ気が利くじゃないか、んじゃちょっと行ってくる。お前ら、適当にくつろいでおけよな」
ハヤトはそう言い残してダッシュする。
 道路では普段から早い人がますます速くなり、自転車を追い越して行った。
 数分後。ハヤトはトウヤたちの待つ駅の出口までたどり着いた。走ってきた人影を見てトウヤたちも駆け寄ってくる。
「すごい、速さで走ってきたのね……なにもそこまで急がなくてもよかったのに」
「キミの家は駅から近いのか?」
「とりあえず、行きましょう」
カシス、トウヤ、ナツミの順に反応されハヤトは行きかける。
「あれ?クラレットは?」
「あ、そういえばさっきからいないわね……」
「はい、みなさん。温かい飲み物でもいかがかなと思いまして……」
クラレットはそう言って、みんなに緑茶やホットレモネードを差し出す。
「あら、クラレット、気が利くじゃない」
「姉さま、ありがと」
「ありがたく頂戴しようかな」
「お、俺にもくれるのか。とりあえず歩きながら飲もうか」
ハヤトの促しで一行は歩き始める。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ