それからの日々

□試験
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「ふぅ、とりあえず30分ほどは朝の始業までに時間があるな。俺今日は苦手な英語の勉強でもしようかな。昨日の古典も結構コテンパンにやられたし」
「私は少しボーっとしていたい気分ですね」
アヤとハヤトはそういって教室へと姿を消す。彼らの学校の今日のテストは英語と保健体育と日本史または地理。3時間のテスト日程で本来なら朝から復習に追われるはずの日だった。
が、アヤは教室の自分の席に着くなり机に体重を預けてのーんびりとし始める。いまだ教室には5〜6人ほどしか生徒もいない。
―――んー、ちょっとこのところの睡眠不足がたたって眠いかもしれないですね……――
などと、テスト当日の朝にもかかわらず学校の自席でまどろみ始めて行った。

――地理はばっちり行けるかもしれないが、英語が……保健体育も地味に面倒だしなぁ……って、俺って寒い……シャレになっちまってる――
心の中でそんなことをぼやくのはハヤトである。実際地理は彼も得意なのでいいのだが、英語が昨日の古典並みにできないのである。とりあえず苦手な英語を何とかしようと彼は英語の教科書と単語帳を開いた。

「橋本さん、おたがい教科が違うかもしれないけれど全力を尽くそう」
「あたしはいつでも全力で生きてるわよ?」
一方アヤたちより少し遅れて彼らの学校へと到着したトウヤとナツミもそういって玄関でわかれる。
――あたしは今日は現代文と保健体育と世界史だっけ?今日はどれも得意教科だからいけるはずなのよねぇ……――
内心そんなことを思いつつナツミは自教室の自席へと着く。早速一応それぞれの教科の教科書と英語の単語帳を引っ張り出す。
――よっし、頑張るぞぉぉぉぉ――
ナツミは一人そう自分に言い聞かせて教科書を開いた。

――今日は数学、化学、保健体育のはず。科学と数学に若干の取りこぼしはあるかもしれないけれど特に問題はなかっただろう――
トウヤはそう思いながら自教室の扉をくぐる。すでに教室には10人ほどが来ており自分の思い思いに勉強をしている。彼も急いで道具を引っ張り出して昨夜の分の復習を始める。

キーンコーンカーンコーン。
アヤとハヤトの学校の始業のチャイムが鳴る。実はトウヤとナツミの学校とは十分ほどずれている。アヤとハヤトの学校のほうが始業が早い。チャイムと同時に担任が出欠を取って行く。といっても見渡しただけで全員出席とわかるが。
「今日は連絡も特にないので、各人残りの時間は勉強するなりなんなりして大丈夫ですよ」
そう女性教師が言うのでアヤはまた机へと体重を預けてちょっと体を休める。実際彼女はまだちょっとだるい。
――テスト時に寝なかったらいいんですけれど……――
 間もなくなったチャイムで彼らは荷物を机から出して鞄にしまい始める。そしてそのかばんをロッカーへ入れる。机の上には二、三本のシャープペンシルとシャープペンシルの替え芯と消しゴムが置いてある。そしてアヤは少し外の空気を吸おうと教室を出て行った。
 一方のハヤトは寸前まで英語の単語帳にかじりついている。ものすごい形相で単語帳とにらめっこしながら荷物を片付けていく。
しばらくして両方の教室に試験の問題用紙と解答用紙を持った教師が現れて、問題用紙と解答用紙を配りながら着席するようにと指示をする。
 まもなく試験開始のチャイムが鳴って解答用紙と問題用紙を生徒が一斉にひっくり返す。
――あら、こんな簡単な問題だと25分で終わってしまいます――
アヤは初見でそう思った。
 実際彼女は30分足らずで解き終わってしまった。試験時間は55分。
――私、見直しを何度すれば試験時間が終わるんでしょうか?――
などとのんきなことを考える。そしてゆっくりと見直しを始める。
 が。
――のぉぉぉぉぉぉぉ!さっぱりわからん!――
アヤがそんなのんきなことを考えている時間帯ハヤトは心の中で悲鳴を上げていた。実際彼が読んでも英文はもう暗号文としか思えない。試験開始から40分が近いのに解答用紙は半分しか埋まっていない。
――なにが、英語がやりやすいだ、アヤは超人か!!?――
そんなことを言って昨日全く勉強をしなかったアヤを非難する。彼女がはやばやと寝てしまったため彼は英語の勉強がはかどらず今日にいたってしまった。彼が焦って本文を読んでいく間にも時間はどんどん経過していく。
 キーンコーンカーンコーン。
「はい、回答やめ。解答用紙を集めてください」
最後列の女子生徒がハヤトの解答用紙も集めて教師へ提出する。そして全員の解答用紙を出席番号順に集めた教師は終わりますとだけ言って出て行った。
「新堂、どうだった?」
先生がいなくなった教室でハヤトは友人に話しかけられる。
「ぜんぜん、赤点じゃなきゃいいぐらいだぜ、んでお前こそどうなんだよ佐藤」
「俺もいまいちかな」
「とりあえず一回廊下で気分転換しようぜ」
「あぁ」
友人の佐藤に連れられて廊下へと出る。そこでちょうど同じ目的で教室を出ていたアヤと目があった。
「新堂くんじゃないですか。どうでした、英語のテストの手ごたえは?」
アヤはにこにことしながらハヤトにそんなことを問う。
「ダメだったさ、30点さえあればいいって感じだ。それより……」
樋口はどうだったんだと言おうとして聞くと精神的に大ダメージを負いかねないということでハッとハヤトは口をつぐむ。アヤはその様子にいささか疑問を覚えたようだが幸い追求しなかった。
「樋口さんって苦手科目とかあったりしないの?」
ハヤトの代わりに横にいた少年、佐藤がアヤに質問する。
「そうですね……しいて言うなら数学と世界史が苦手ですが、世界史は分野によりますね。中国史があまり得意ではないみたいで……」
「でも、樋口お前の場合苦手とか言っておきながら90点とかぬかすんだろ?」
ハヤトはちょっと怒った風にそう言う。返ってきた答えはある意味予想通りだった。
「そうですね、この間の世界史のテスト中国史が範囲でしたが100点満点でしたよ。数学も97点と一か所計算式の記述を省いてしまったらその点が引かれてしまっただけでした」
「こいつ魔王より怖い……」
ハヤトはにこにこと表情を変えずにそう言うアヤに戦慄する。
「とりあえず、佐藤俺たちは俺たちで頑張ろうな」
「あぁ……」
これには佐藤もちょっとびっくりした様子で茫然自失となっていた。ハヤトが教室へと引っ張っていく。
 しばらくして2限の始業のチャイムが鳴った。

――うーん、化学もだったけど数学ももう少し前からきちんと対策しておけばよかったかな……――
トウヤは3限目のテストを受けながらそう心の中でぼやいた。2限の保健体育はまぁまぁな自己評価がつけられるぐらいの手ごたえだったものの1限の化学と3限の数学はやや手ごたえが悪い。この見通しで行くと数学の試験は試験時間まるいっぱい60分を使っても2問ほど解けない問題が出てきそうだ。ところどころで彼は計算式を立てるのに詰まったり、式の変形に詰まったりで普段の彼と比べると苦戦気味だ。
――これはどこかの問題を切ろうかな……――

――うん、あたしの見立てに誤りはなかったわね。とりあえず今日の教科は楽勝かしら。保健体育に至ってはわたしの敵じゃないわ――
一方のナツミは3限の現代文を解きながら内心ほくそ笑む。実際彼女も解答時間内に解き終わり見直しを2度ほど行っている。真剣に間違っていない限りポカミスはないはずだった。現代文も解答時間55分にかなり余裕をもって回答し終わり残りの15分は見直しに回す。
――うーん、現代文って見直しが面倒なのよねぇ……――
ナツミがそんなことを思いながら見直して行っている間に3限終了のチャイムが鳴った。

 回答が回収され放課になった教室でナツミは帰る支度をする。そこへ友人が声をかけてきた。
「夏美、どうだったのよ、テスト」
「どうって……今日のはまぁまぁってできかな……保健体育は私の敵じゃないし、世界史は今回得意分野だったしね」
「くぅー、余裕を見せつけてくれますねぇ……そして9組の深崎くんとはどうなのよ」
「え?」
友人の言葉にナツミは固まる。何のことを言っているのかさっぱりって感じだ。
「とぼけても無駄よ、夏美、深崎くんとデキてるんでしょ?」
ニヤニヤと友人がナツミをつつく。当のナツミは全く意味が分からないといった風な顔で聞いている。
「だ、だ、だから、何のこと?私全く心当たりがないんだけど」
「ごまかしたって無駄よ、この間深崎くんと一緒に帰ってるの見たわよ、しかもすっごく仲よさそうに」
あぁ、とナツミは思い起こす。そして友人の言葉に弁明する。
「ひかり、あなた誤解してるわ。わたしと深崎くんはそんな仲じゃないのよ。ただの友達、いや仲間って言ったほうがいいかな……?」
ナツミは少し遠い目になりながらそう言う。が、友人は聞いていないようでくぅーうらやましいですぅ〜〜と言いながら自分の席へ帰って行った。
――なんなのかしら、全く……まぁ、とりあえず家に帰りましょ、同居人も待っていることだしね…――
ナツミは玄関へと歩を向ける。
 玄関まで行くと偶然トウヤとばったり会った。靴を履きながら彼女はトウヤに質問してみる。
「深崎くん、今日のテストどうだった?」
「う〜ん……ちょっと手ごたえがよくないな……理系科目でこれだとちょっと明日からが厳しくなりそうだなぁって見通しかな」
「そっか……。あたしは今日は文系科目だけだったからリィンバウムに行ってた経験と勉強もしてたことも手伝って割といい手ごたえだったけど……そういえばカシスとクラレットは家に無事にたどり着いたのかしら?」
「まさかまだ樋口さんの家にいるということはないと思うだが……」
「案外、学校の門で待っていたりして」
彼女たちは以前にトウヤたちが通う学校までは一緒に来ている。というのも文化祭をナツミとクラレットとカシスの三人で回ったのだ。トウヤは生徒会の仕事で忙しかったが……。
「とりあえず、駅までは一緒だし行こうか」
「渋谷の駅までは一緒でしょ」
「そうだったね」
ナツミが半歩前を行きトウヤが半歩後ろをついていく。正門へと差し掛かる。と、そこには……。
「クラレット!!!」 「カシスじゃないか!!!」
クラレットとカシスがいた。
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