それからの日々

□冬のある日の朝
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「なぁ、アヤ、起きなくてもいいのか?」
ソルのあきれるような顔を見ながらアヤは眼を覚ます。その半覚せい状態で時計を見る。
「えぇぇぇ?もうこんな時間なんですか!!?」
そしてあわてて起き上がる。それを見てソルは部屋を後にした。
 リビングにアヤが下りていくと彼はとあるものを差し出す。
「はい、お弁当。早くいかないと学校に遅れるぜ!?」
そういってソルは彼女を急かす。テーブルに置いてあるトーストを口にくわえ彼女は玄関へと走る。そんな様子を見てソルは思う。
――最近、テストだとか言って夜が遅いからなぁ……そんなに勉強しなければいけないほどテストって大変なのか?――
彼が刹那思考の渦に入っているとアヤの行ってきまーす!!という元気な声が聞こえてきた。それを聞いてソルは玄関の鍵を閉める。
 いつもなら彼女が先に起きて朝ごはんを用意して(ついでに彼女のお弁当も)学校へ出かけていくのが普通だったのだ。彼女は帰ってくるのも最近は遅い。ソルはそのことを訝しむ。
――まさか俺に愛想を尽かしたとか?――
真剣に彼は最近思い悩んでいた。実際アヤが放課後しているのはソルの戸籍関係のことである。同居人を学校へと通わせたいのであるが転入生として編入するには戸籍と旧学校の書類が必要なのである。アヤはソルを学校に通わせるため日々奮闘しているのである。だが彼にはそんなことを推し量るすべもなく当然思い当りもしない。

「おはよう、樋口」
「あ、おはようございます新堂君」
学校の玄関で見慣れた顔に挨拶をされ振り返るとそこにはハヤトがいた。ハヤトは靴を自分の靴箱へと入れかわりに上靴を出す。
「寒いな」
「えぇ、今週はこの寒さが続くらしいですよ」
ハヤトにそういいながらアヤは自教室へと向かう。『HR204』そう書かれた教室へと彼女は入る。
「おはよう、アヤ」
そう挨拶してくるクラスメートに彼女も挨拶をして自席へとつく。今日がテスト前最後の授業日であるためかみんな揃って自習をしていて教室は静かだった。彼女も席に着き自習を始める。

その日も普段通りに過ぎて行った。アヤは昼休み友人と各自持ち寄ったお弁当を食べながら窓の外へと視線をやる。ところがしみじみと思い出に浸っているアヤへと友人から声がかけられる。
「アヤ、今日は委員会?」
「いえ、今日は生徒会で会議をしたら放課です。クリスマス時期の学校行事がなんとかとか会長が言っていましたのでそれについての話し合いなんです」
アヤはいつものように笑顔で返答する。彼女は生徒会に所属しながら図書委員をしている。
「クリスマスかぁ……ねぇアヤ、クリスマス一緒にパーティーしない?」
とある友人がアヤに持ちかける。アヤはですが……と了承し渋る。
「別に誰か連れてきたい人がいるなら連れてきてもいいからさぁ。あたし今年予定がないのよ」
友人がそういう。アヤはそれでも気の進まなさげにしている。
「樋口ちょっと、いいか?」
「あら、新堂君じゃありませんか、私に御用ですか?」
アヤは助かったと彼のもとへ行くために席を離れる。その背後からアヤの裏切りものーーという若干ふざけた声が聞こえなかった気もしないでもないが彼女は無視した。
「あのさ、クリスマスのことなんだがこっちの世界で過ごすのもなんだしイブと当日はリィンバウムへ行くのも悪くないんじゃないかということなんだが……」
「それ私もいいと思います。子供たちやリプレさんたちにも久しぶりに会いたいし」
「決まりでいいか?」
えぇ、と彼に返答をしお昼を食べてましたのでと教室へ戻ろうとする。
「後で詳しい話はメールするから」
ハヤトはそういって彼の教室へと戻って行った。
 その後話し合いで友人たちとのクリスマス会は12月の22日ということになった。アヤが23日〜25日は都合が悪いということで彼女が参加できるように最大限に融通を聞かせたようだ。日程が決まったところでチャイムが鳴り5限が始業した。

 放課後。彼女は生徒会室へと向かう。すでにほかのメンバーは来ており彼女がくると同時に会議が始まった。
 会議ではクリスマスの行事を今年から新たに始めるということで閉会した。アヤは会議で取り決められた通りにショッピングモールへと向かうべく学校を出て、駅へと向かう。
 普段とは違う電車のため定期が利かずお金をカードへと入れ、改札を抜ける。彼女の乗る電車はすぐにやってきて彼女は混んでいる電車へと乗り込んだ。
 目的地に着くころにはどっぷりと日が暮れて街のネオンがまばゆいくらいになっていた。彼女はショッピングモールでクリスマスツリー用の電灯を予算内で帰るだけ買いまた学校へと引き返す。来るときより混んだ電車へと乗り込み、窓の外に目をやる。
――これはもしかしたら家に着くまでに雨もしくは雪が降り出すかもしれませんね……――

彼女の予想は当たり、彼女が家に向かうまでの電車の中で窓ガラスに水滴が当たり始める。
――やっぱり降ってきてしまいましたか……――
彼女は折り畳み傘を入れているはずと思ってすこし先ほどより空いた車内でバッグの中を探す。が、そこには傘がなかった。
――そういえば、おとといの雨でぬれてベランダで干しっぱなしにしてたんでした……、なんとかやんでくれませんかね……――
アヤの願望とは裏腹に雨はアヤの自宅近くの駅に電車が付くころには雷雨になっていた。霙のような雨がアスファルトへと叩き付ける様子を駅のホームから目の当たりにした彼女は途方に暮れる。
――これはコンビニかどこかで傘を買って帰らないと風邪をひきますね……――
彼女がそう思いお財布を用意しながら改札を抜ける。
「アヤ、お帰り」
コンビニへ急ごうとしたアヤに不意に声がかけられる。
「ソルさん!」
「いや、どしゃ降りになってきたみたいだし傘……もっていかないと風邪ひくだろ?」
少し照れたのか最後がぶっきらぼうだ。
「ありがとうございます、家へ帰りましょうか」
あぁ、と赤くなった顔をアヤからは見えないように先に彼は歩き出す。速足な彼にアヤは急いでついていく。
 家に帰りつくといい匂いがアヤの鼻をくすぐった。
「ソルさん、ご飯作っていてくれたんですか?」
アヤが驚いてソルの顔を見つめる。ソルは少し照れたようで顔をあさっての方向に向けながらあぁ、とだけ返した。
「おいしそうなシチューですね、早速ごはんにしましょう?」
アヤが鍋の中にあるものをみてソルに持ちかける。
 いただきまーす、二人が食べ始める。すぐにアヤが今日学校でハヤトから持ちかけられたことと友人から持ちかけられたパーティーの両方を話す。
「いいんじゃないか?フラットのみんなとクリスマスパーティーか。久しぶりにほかの誓約者や兄弟にも会いたいし。友達とクリスマスパーティってのは俺も参加できるんだな?」
ソルはアヤが言ったことをもう一度確認する。
「えぇ、誰でも連れてきたい人を連れてきていいという話だったので。わたしはケーキを調達する係になっていまいました」
アヤは苦笑いしながらそう言う。
「じゃぁ、たくさんお金が要りそうだな。フラットの子供たちにプレゼントを買わないといけないし……。フラットにクリスマスツリーはないだろうから持って行ってやらないと……」
「ソルさんケーキは22日のどうしましょう?」
「それなら、俺とアヤで焼けばいいよ、幸いレシピならいんたーねっとだったか?に乗ってるんじゃないのか?」
「インターネット、ですか。そうですね、ネットで探してみましょう」
「でこれーしょんけーきだったか?にするのか?」
「えぇ、私とソルさんでデコレーションしましょう」
ソルとアヤが取り決めをしていると不意に玄関のインターホンが鳴った。そこに映るのは
「新堂君?それにキールさんも……」
「ハヤトにキール兄だ……」
アヤは驚いて玄関を開ける。するとそこにはハヤトとキールだけでなくナツミにクラレット、トウヤにカシスまでいた。
何の断りもなく彼らは家へと上がりこむ。
「アヤ、早速24日と25日の打ち合わせに来たぞ、あとついでに勉強を教えてくれ」
ハヤトがそう口を開く。
「打ち合わせだから僕たちも一応きたよ」
「さぁ、打ち合わせをしましょ」
ナツミがそう切り出す。
「とりあえずこーひーでよかったら飲むか?」
ソルがコーヒーを淹れながら言う。
「あたし砂糖とミルクも入れてくれる?」
「僕はブラックで」
「俺も砂糖とミルクな」
口々にそういう。アヤが注文を取りまとめてソルのところまで持っていく。
「新堂君と橋本さんとカシスさんが砂糖とミルクで私とクラレットさんそれに深崎くんとキールさんがブラックだそうです」
「わかった」
と手慣れた様子で彼はサーバーからコーヒーを注ぎ分ける。
そのうち三つのカップに砂糖とミルクを入れる。
「おまちどおさま」
ソルはそういってみんなにそれぞれカップを差し出した。
「で、けーきはどうするんだ?たしか、クリスマスにはけーきが必須なんだろ?」
ソルがすぐに口を開く。
「それはあたしたちがフラットでリプレと一緒に焼けばいいと思うわ。デコレートは子供たちと一緒にやるってことで」
「それは楽しそうですね。子供たちもデコレートなら楽しんでくれそうですし」
「だが、賞味期限の問題もあるぞ……?」
「その前にそれをいつどこで調達するかだろ」
誓約者たちが意見を交換する横でクリスマスがなんだかわかっていないカシスとクラレットとキールは別のところで集まっていた。そこへソルがいく。
「キール兄にクラレット姉、それにカシス姉なにやってるんだ?」
「いやぁあたしたちこの世界のクリスマスって知らないのよねぇ……」
カシスがもっともなことを言う。ソルはいたってシンプルに彼らにクリスマスを紹介し始める。
 彼の説明が終わったときには三人もわかった風だった。
 話し合い自体も割と短時間で一時間で終わった。ハヤトとナツミの顔つきが変わる。
「樋口、勉強教えてくれ、明日からテストだろうちの学校」
「深崎くん、あたしマジでピンチなの、助けて」
彼らはせっかく集まったのでこの機会を利用して勉強会をしようと画策もしていたのだ。とはいってもトウヤに関しては無理やり多数決でやらされたのだが。ハヤトとナツミの有無を言わさない態度にトウヤもアヤもうなずく。
 セルボルト四兄弟がクラレットとカシス、ソルとキールに分かれて就寝部屋に向かったところでアヤがテーブルをどこからともなく持ち出してくる。
「うわぁ、こんなもの何処から……?」
あまりに突然だったのでハヤトが驚く。
「これですか、召喚ですよ」
「これ、踏み台として使ってためもりーですく?」
ナツミが見覚えのあるものらしい。アヤはえぇと答えた。
「さて、始めましょうか」
彼女が召喚した四つのメモリーディスクでハヤト、ナツミ、トウヤが勉強道具を広げる。
「あれ、樋口、勉強道具は?」
目の前に座るアヤを見てハヤトが聞く。彼女の机には何もなく、ただ筆箱があるだけだった。
「え、私が新堂君に勉強を教えるのでしょう?」
「いや、あの樋口さん自身は勉強しないの?」
「そうよ、そっちの学校明日からテストなんでしょ?」
トウヤにナツミが付け加える。
「そういうことですか。わたしは一応勉強しなくても全教科80点は取れますし、それに何回かノートと範囲である参考書を見直しましたのでもうたぶん大丈夫だと思います。明日は古文と地学だけですし。地学は授業を聞いていれば100点を狙うことも可能です」
さらっとすごいことを言ってのけるアヤにナツミは恐怖しハヤトを見る。ハヤトは首よ飛んで行けといわんばかりに首を振る。
「そうかぁ、それで教科書を出さないんだね……僕たちとは住んでいる世界が違うようだね。僕は勉強しないで挑むと60点ぐらいになってしまうから。だからこうして勉強するのだけれど」
「リィンバウムから帰還して以来後期の暗記や外国語や古文、漢文がますます読みやすくなってさらに勉強する必要がなくなりました」
「確かに行く前よりかは古文、漢文がやりやすくなった気はするね」
「そうかもね。わたし昔の成績は言えないけれど帰ってきてからは古文と漢文それに英語の点数がそれぞれ15点ほど伸びたもの」
そこだけはついていけるのかナツミも会話に加わる。
「わたしはいつも英語は100点だったので点が伸びないんです……」
アヤが少し残念そうに言う。確かに……とトウヤもうなずく。
「こいつら、化け物だ……魔王より怖い……」
一人ハヤトは戦慄した。
 はじめ話は脱線したもの勉強会が始まった。やり始めて5分でハヤトがアヤに訊く。
「樋口、ここの公式がわからん……」
「そこは、式を大きな目で見て……そうすると三つのベクトルの合成になっているのが見えてきます」
「そ、そうなのかぁ?」
そういうものですとアヤがいう。一方彼女はトウヤやナツミからも質問を受ける。
「アヤ、教科書違ってて申し訳ないんだけどここってどう訳せばいいの?」
ナツミは授業中爆睡していた事実は闇に葬ってアヤに質問する。
「授業で訳は取るんじゃないのか?」
トウヤは疑問を口にするがナツミに殺すわよという視線を送られ黙る。
「ここはですね……このwhich自体がこのthe problemをさします。ですので……」
アヤは丁寧に解説してゆく。アヤがナツミに解説を終えると今度はトウヤが質問してきた。
「樋口さん、ここの意味が取れないんだけれど……」
そういって彼は漢文を差し出す。その漢文にも彼女は丁寧に解説を加え訳してみせる。彼女のていねいな解説に納得しトウヤは礼を言った。
「あー、これじゃあさってからのテストどうにかなるとは思えないわ、特に数学!あの式意味あるの?」
疲れてきたナツミがぼやく。ナツミの学校はテストが始まるのが遅い。その分一日にたくさんテストを受けるため終わる日はアヤの学校と一緒だ。
 かなり時間がたってアヤが口を開く。
 「そろそろ寝たほうがいいと思われます。夜中というよりもう朝方ですし、一度睡眠をとらないとテスト中に寝てしまいますよ?」
アヤがそういうとアヤ以外全員その場に気を失ったように睡眠へ落ちた。彼女はそれを見て全員に毛布を掛けて回りエアコンのスイッチを入れる。エアコンが稼働し始めてから彼女も眠りへと落ちた。
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