帝都学園日記

□Before Enter
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「あはは、明日の試験が終われば晴れてとりあえず一度は解放されるのね」
ベルフラウは帝都のお気に入りのパン屋さんへと行った帰りに青い空を仰いでそう言った。
「そうだよね、明日は面接だけだし緊張してがちがちにならない限り多分余裕でパスできるだろう。ね、先生?」
「えぇ、ウィルくんやベルフラウちゃんなら簡単に通ると思う」
「ナップやアリーゼに関しても楽にとおるだろうな。出会ったころと比べると二人とも変わったから」
女性に続き男性が後ろにいる二人へと声をかける。
「あぁ、そう言ってもらえるとオレもがんばれる気がするぜ」
「私も精一杯頑張ります。レックス先生、帰ったら面接の練習をしてください」
アリーゼと呼ばれた少女が男性へと言った。
「じゃぁ、アリーゼの次は私がやるわよ。わたしにも練習をしてよね」
ベルフラウと言われた少女もレックスへと声をかける。それを見て女性が少年たちへと声をかける。
「じゃぁ私と練習しましょう。そうと決まったら急いで帰りましょう?」
「あぁヨロシクな先生」
「よろしくお願いします」
彼らは帰途を急ぐ。

コンコンッ。帝都で借りている家へと戻った彼らは早速二人の家庭教師に練習を着けてもらおうと練習を始めていた。
「失礼します」
ドアを両手で開けてアリーゼが入室した。その部屋の真ん中には机といすがあり何やら紙を置いて筆記用具を持ったレックスがいる。彼女は両手で丁寧にドアを閉め、そして回れ右をして彼のいる場所へとやってくる。歩いている姿勢も美しく、動作も清楚である。
「受験者、アリーゼ・マルティーニで間違いはないですか?」
レックスがそう事務的な声で聞く。アリーゼは少し緊張していたのか少し間をおいてハイ、とはっきりととおる割と大きめの声で言った。
「では、座ってください。面接を始めます」
「失礼します」
そう言って彼女は素早く習った通りの座姿勢になるように着席する。
「では、まずあなたが軍学校を志望した理由を聞かせてください」
「はい、私は小さいころから国民の生活を守る軍人という職業に興味がありました。その思いが強まり志願に至ったというわけです」
「では、特技や趣味などあれば教えてください」
「特技……回復魔法を用いるのが得意です。趣味は創作活動です」
 レックスとアリーゼは淡々と質問を五つほどこなして終わる。
「ありがとうございました。これで面接は終わりです」
「ありがとうございました。失礼します」
レックスがそう言った後彼女がそう言ってその場で礼をして、ドアのところでもう一礼して出て行った。
――ふぅ〜、やはり少し緊張しますね……――
「じゃあ、次は私の番かしら?」
「えぇ、ベル姉様。行ってらっしゃいませ」
アリーゼはそう言って彼女を送り出した。

 しばらくののちアティとレックスの作った夕飯を全員で集まって食べ始めた。
「ウィル兄様、どうでした?やはり私緊張してしまうのですけれど……」
アリーゼは全力が出せなかったことを悔やみながら言った。
「僕もやっぱりちょっぴり緊張しちゃうかな。相手がアティ先生だったのもあるんだろうけれど」
そう言って彼はナップの前に座る女性を見つめる。
「オレもやっぱアティ先生相手だと緊張するんだよなぁ……」
ナップも面接のことを振り返りつつぼやく。
「あら、私はむしろレックス先生に自分の思いのたけを思い切りぶつけるつもりでいったからむしろ全力でできましたけど?」
ベルフラウは涼しげな顔でそう言う。
「たしかにね、ベルは完璧としか言えない出来だったよ。アリーゼは少し緊張していたね。本番は頑張ってな」
「ナップくんは視線が少し泳いでいたのが気になったかな。ウィルくんはちょっとうつむいてたからまっすぐ前を向いてね?」
それぞれにそれぞれの教師が評価を告げる。
「わかりました」 「はいっ」 「あぁ」 「やりましたわ、本番もこの調子でやりきって見せますわ」
生徒たちは自分の面接を振り返りつつそう反応した。
「しっかし、こんなに試験中に余裕で話してられるなんてね」
ベルフラウは不意にそう言った。
「確かに、僕もそれは不思議だな。試験前って普通は切羽詰まってるはずなのに今はうまくいくっていう確信しかないよ」
「ウィル兄様じゃないけれど、それは同感ですね。もう明日になるのが待ちきれない感じです」
「オレもなんだかもう不安はないかもな。早く明日になってくれればいいや」
「それは多分、君たちが頑張ったからよ。実際帝都に来てからの君たちの頑張りは目を見張るものがあったもの」
彼らの言ったことにアティがそう言う。
「あぁ、俺も君たちの進歩に驚かされてばかりだった。もちろん島にいる間もね」
レックスも彼女に同意していった。
「今日の試験、簡単すぎて笑えたものね」
「えぇ、ベルフラウじゃないけど僕も簡単だったから時間を持て余したよ」
「私は新しいお話を考えて時間をつぶしましたよ?」
「オレなんて余った時間寝ちまったぜ。まぁここまでの学力になったのは全部先生たちのおかげなんだけどな」
ナップはそう言う。
「って、アリーゼもナップも何をやっているんだか……。まぁどうやら手ごたえがあったみたいだしいいんだけれど……。今日は明日の面接に備えて早く寝ること!いいか?」
レックスの言葉に彼らは即答ではーいと言った。

―翌朝。
「さぁ、朝ごはんはできてるよ」
食堂へと降りてきた生徒たちをレックスとアティが迎える。
「たくさんほしかったらおかわりもできるよ」
「えぇ、たくさん作っておいたからどんどん食べてね。おなか減ったらできることもできなくなっちゃうから」
「あら、誰かが言ってたことを言うわね……」
「う〜ん……誰だろう?」
「ウィル兄様やベル姉様もですか?私も聞き覚えが……」
「オウキーニじゃねぇか?確か島にいたころそんなこと言ってたじゃねえか」
姉や兄が頭をひねっていたのを見て末子がそう言った。
「あぁ、そうでしたね。でも私はそれに同感かな。おなか減ってるとやる気も力も出ないって思うの」
「確かに、僕もそれには同感かな」
「そうですわね、腹が減っては戦はできぬといいますし」
「そっちはミスミ様の言っていたことだね。懐かしいなぁ、島で暮らしてた頃が」
ウィルは回想に入りながらそう言う。
「ほら、早く食べないと冷めますよ」
「これが面接の日の風景とはとてもじゃないけれど思えないなぁ」
レックスは和やかな朝食を見ながら少しあきれた。

「じゃぁ、頑張ってね」
「油断はするなよ、でもリラックスしてな」
「あら、余裕ですわよ」 「同感だね」 「はい、頑張ります」 「はは、大丈夫だろ」
アティとレックスの最後の激励を受けて彼らは学校の試験会場へと向かった。アティとレックスは姿が見えなくなるまで見送った。
「では、生徒たちの試験が終わる時間帯まで私たちは少し帝都を歩いてみますか」
アティにそう言われ彼も歩き出した。

――ふぅ、完璧にとはいかなかったけれど胸を張って帰れるくらいの出来にはなりました……――
アリーゼは入れ替わりで入って行ったウィルが出てくるのを待ちながら内心ほっとしていた。彼女はほとんど完璧に受け答えをし、美しい振る舞いでもって面接を終えた。すべての項目で満点がついているのは彼女の知るところではないが。
「あ、アリーゼお待たせ。あとはナップとベルフラウが出てきたら四人そろって帰ろうか」
「えぇ、兄様。お疲れ様です」
そう言う彼女の横を生徒が通り過ぎた。どうやら少し落ち込んでいるようである。
 ほどなくナップとベルフラウも門のところへとやってきた。
「じゃぁ、帰りましょうか」
「どうせだし、少し寄り道していきませんこと?やっとテストが終わったことですし、パーッとやっても罰は当たりませんわ」
ベルフラウは少し欲求不満なのか顔を期待に輝かせてそう言って駈け出した。
「あぁ、待てってベル姉!!」
「そうですよ〜、待ってください〜〜〜」
「ベルフラウ、待つんだ!」
通りへと出たベルフラウは背後からの声を聴いて足を止める。
 彼らは大きな中央通とも思えるような大通りへとやってきた。
「あ、あそこにいるのは……」
アリーゼが目ざとくレックスとアティを見つけて指差す。
「あぁ、アリーゼ!ベルフラウ!」
「あ、ウィルく〜ん、ナップく〜ん!」
彼らもこっちへと振り向いて生徒の名を呼ぶ。四人は走りって彼らへと飛びつく。
「まさか、ここへきてばったり会うとは……」
「そうね、試験お疲れ様」
「とりあえず立ち話もなんだからそこにあるお店にでも入ろうか」
レックスはそう言って喫茶店へと入って行った。
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