帝都学園日記

□初めての長期休み
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「久しぶりだよね、屋敷に帰るなんて」
「そうですね、お父様にきちんと近況を報告しないと……」
ウィルのセリフを受けたアリーゼは少し面持が硬くなる。
「そう固くならなくてもいいんじゃなくて?いい知らせもしっかり用意してるわけですし」
「おぅ、元気いっぱいなところを見せてオヤジを安心させてやらないとなっ!」
「ところでさ、屋敷の回りのどの辺におろせばいいかなぁ?」
「う〜ん、どうでしょう……あまり屋敷に近すぎると使用人の方々が驚くでしょうし……」
「かといってあまり歩くのは、時間の浪費になって建設的じゃありませんわ。荷物も重いですし」
「そうだよなぁ、それに人目につくとまずいんじゃねえか?竜から降りてくるなんて召喚師に間違いないんだから」
「ナップの言うとおりだろうね、召喚師=派閥ってなって帝国の人たちじゃあまりいい顔はしないだろうねぇ……しかも僕たち子供だし」
これには長子であるウィルも考え込んでしまう。
「あるいは……全く人気のない浜辺とかに不時着しちゃうとか?ウィル兄さまでしたら、スライムポット召喚できるでしょう?それをクッション代わりにするとか……」
「ベル姉様、それはあまりに大胆すぎるんじゃ……」
「それだったらよ、普通に浜辺に竜を下せばいいんじゃねえか?人気のいないところぐらいあるだろ」
ナップがそう言う。それがいいと思う、とウィルがぼやいた。
「んじゃ、とりあえず、港の周りで下せそうな場所を探してみようか」
ウィルはそう言ってまだ見えてこない屋敷のある街の方角を見つめる。まったく水平線上にもまだ現れていなかった。

「さて、そろそろ着陸するよ」
ウィルが上空から屋敷のある街を眺めながら言った。
「下では今頃大騒ぎでしょうね……なんていったって竜が街の上を飛んでいるのですから」
アリーゼは下で起こっているであろうことを予想して少し苦笑いした。
「仕方ないじゃない、着陸できそうな場所、意外になかったんだから」
「ウィル兄、どこにおろすつもりなんだ?」
「う〜ん、あの辺りなんてどうだろう?」
ウィルはそう言って沖の方ではなれ小島になっている場所を指す。
「あ、あそこならいいんじゃねえか?」
「あの場所なら降りて即座に街の憲兵につかまることもありませんわね」
そうこうしている間にも竜は地面へと着陸した。
「ありがとう」
ウィルは一言お礼を言って頭をなでてから竜をメイトルパへと返した。
「問題はここからだな、ここ、何気にむこうとはつながってないみたいだぜ?」
ナップは海の中にシャインセイバーを突き刺しながら言う。
「シャインセイバーってそんな使い方するものじゃないんじゃ……」
アリーゼが呆れているが、そんなことはお構いなしに横ではベルフラウが石細工の土台を召喚した。
「なら、これでどうかしら」
ベルフラウはそれを海中に放り込む。どっぱーんと音がしてそれは沈んでいった。
「あら、意外と深いんですのね、これじゃ意味がないじゃない」
ベルフラウはそういってそれを送還した。
「一番手っ取り早いのは……再度『ワイヴァーン』かなぁ」
「だろうな、仕方ないと思うぜ?向こうの砂浜に着陸させちまえ」
ナップにけしかけられてウィルは再度召喚をする。

 そうこうして何とか陸地側に着陸した4人はなんとか憲兵たちに見つかることなく屋敷への帰路についていた。
「さて、この角を曲がれば……」
「屋敷ですね、あら、誰かいるみたいですよ」
「サローネじゃないの?あの姿は」
ベルフラウがそう言うが、どうもサローネじゃなさそうだぜ、とナップがぼやいた。
「まぁいいさ。あのたち方と服だと屋敷の人間に違いはないだろうし」
そうこう言っている間に彼らは屋敷の前までやってきていた。門を開け中へと入る。
「あら、ちょうどいいところに来てくれたわね。お父様に帰ったわと伝えてちょうだいな」
ベルフラウは屋敷からやってきた召使にそう言伝する。
「荷物は私たち自分で持てますから大丈夫です」
アリーゼは荷物を預かろうとする女中たちにそう笑顔で言うと屋敷の玄関をめざし女中たちと一緒に歩き始めた。
 女中に続いてドアをくぐるとかつての屋敷がほとんど変わらずにそこにあった。客人と思われる姿がちらほら見えるのも変わらない。
「懐かしいわね」
「そうですね、もう何年も帰ってきていない、そんな気がします」
「でも、やっぱり帰ってきたって感じはするね」
「相変わらずみたいだな、うちは」
四人はそれぞれ全く違うことをぼやく。彼らに向かって屋敷の中にいる人たちからやや怪訝なまなざしが向けられる。しばらくホールに立っていると奥から一人の男性が出てきた。
「ん、誰かと思えばお前たちか、かなり早かったじゃないか。学校の宿舎から帰ってくると聞いててっきり夜になると思っていたが」
「まぁ、ウィル兄さまがワイヴァーン召喚しましたから。それに乗って帰ってきたのですわ」
「荷物を自室においてくるよ、父さん」
「お話は夕飯が終わったあとお父様の自室で、ということで」
そう言って四人はかつての自室の逢った方向へと移動を始めた。
 すぐに荷物を置いて彼らは応接間へと戻ってきた。
「しばらくぶりだな。どうだ、学校は?」
彼らの父はそう尋ねた。
「えぇ、授業もおかげさまで退屈ですね」
「授業が簡単すぎてお話にならないわ」
「そうか、いわゆる首席で入学したからと言って油断だけはするんじゃないぞ」
父にそう言われてナップはしきりにうなずいたがほかはため息をついた。
「大丈夫ですよ、きちんとまじめに授業受けてますから」
「あの程度で落ちこぼれるなんてありえませんわ」
「まぁね、ベルの言うとおりかな」
「まぁ、本当の話はレックス先生とアティ先生から聞いたぞ」
父が意外なことをいうものだから4人は少しぽかんとなった。
「ぇ…?」
「お前たちが実はアドニアス港から出港した後、海賊たちに襲撃された話も、そのあと見知らぬ島に流れ着いて戦いの日々を生き抜いていたことも」
「げ、そうなのかよ?」
「黙っていてごめんなさい、いつか話すつもりだったのよ……」
ナップとベルがそう返した。
「まぁよい。お前たちが生きていたのは事実、それにレックス先生とアティ先生がその中でお前たちに生きる術、戦いの術、コミュニケーションの術を教え、そしてお前たちを導き見事私の想像以上の成果を出してくれたのだからな。先生たちには感謝せんとな……」
「そうだね、今だから言えるけど昔の僕ってなんてちっぽけで醜くて子供だったんだろうって思うよ」
父がしみじみなっている横でウィルもしみじみとなった。
「それはそうと、オヤジ、ここで俺たちと話してていいのか?どうみてもお客さんたちが多数来てたように見えたけどよ?」
「そうですよ、お客さんたちと取引の話をしたり、親睦を深めるためのお茶やダンスパーティーや食事会はしなくていいの?」
「それなんだが、お前たちの到着が予想よりも早くて、若干考えあぐねておるのだ。もうすぐお昼ご飯の時間だから皆で会食しながら考えるとしよう」
当主はそう言いながら出て行った。ウィルたち4人は顔を見合わせた後すぐについて行った。
 5人で大広間へと行くとすでにちらほらと来ている人がいた。各々適当に席に着く。ウィルたちは当主に近い席を取って着席した。ウィルとベルフラウが年長者のため父親により近い側にいる。
「御嬢さん確か……さきほど屋敷に入ってきてらっしゃった方の……」
アリーゼの横に座る女性が彼女に尋ねる。
「えぇ、そうです。私マルティーニ家の次女、アリーゼ・マルティーニと申します。以後お見知り置きを……」
アリーゼはそう言ってぺこりと浅くお辞儀した。
「ご丁寧にどうも、私、あなたのお父様とお取引をさせていただいているとある家の跡継ぎ予定のアントニアと申します」
アントニアといった彼女もアリーゼに一礼した。
 反対側ではナップが隣に座った男性に話しかけられていた。
「オレ、ナップって言います。マルティーニ家の次男です」
「なんだかやんちゃって感じだね。僕は、エリク。僕のお父さんと君のお父さんが取引してて僕は今日父さんが後継者をお披露目するからっていう目的で連れてこられたんだ」
エリクというなんだか純粋そうな少年はぺこりとナップにお辞儀した。ナップもあわててぺこりと頭を下げる。
「僕実はこういうセミフォーマルな場に来るの初めてなんだよな……」
「オレだって得意じゃないさ、こんな場面。外で遊ぶ方が好きなんだぜ」
「へぇ、気が合うね。僕も元気いっぱいに遊んでるほうが楽しくていいや」
「あとで遊ぶか?」
ナップが持ちかけるとエリクは首を縦に振った。
「あ、父さんが来た……」
エリクは少し姿勢を正して正面を向き直った。
 間もなく全員広間の丸テーブルに着席し昼食会が始まった。といっても当主の要望でフルコースの形式ではなく、各自が取りたいものを食べられるビュッフェのスタイルを取っている。
「この形式だとテーブルで席が遠い人たちとも話せるだろう?」
「あぁ、そうだな。型式ばったコース料理だと席にずっと座ってるからほとんどが隣同士での話になっちまうよな。だったら会食する意味が薄れちまうし」
ナップはそう言いながらにこにこと彼の大好物ばかりをさらに載せる。
「ナップ、あまりそればかり食べてないでほかのものも食べなさいよ」
ベルフラウが呆れて注意したため彼はほんの申し訳程度ほかの食べ物もさらに載せた。
 結局1時間ほどで食事は終了し、各自一度あてがわれている部屋へと帰って行った。エリクを除いて。
「ナップくん、僕着替えてくるから待ってくれるかな?この服じゃ動きづらいし……」
「おぅ、俺も一回部屋に帰って上着おいてくるな」
ナップはそう言って自分の部屋へと一度戻っていった。
「お昼からは運ばれてくる積み荷のチェックと現場の査察が入っているのだが、誰か同行してもらえないか?」
マルティーニの当主はそう彼らに持ちかけた。
「僕が行くよ、最年長だしね」
「私も行きますわ。アリーゼの分まできちんといってくるからアリーゼは好きなことしてなさいな」
ベルフラウは妹に向かってウインクした。
「わ、わかりました……どうせだしお散歩でもしてこようかな……」
「ならアリ姉オレと一緒に来いよ。さっきのエリクと遊ぶんだ」
いつの間にか戻ってきていたナップが姉の腕を引っ張る。
「いいですけど……」
「まぁ子供の代同士で親睦を深めるのも大事だな。そっちはそっちでうまくやるんだぞ」
「おぅ!」
「僕たちは僕たちできちんと顔を覚えてもらってくるよ」
ウィルはそう言って当主と一緒に屋敷のホールへと向かった。ナップたちはそれを黙って見送った。
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