忌まわしき遺産

□帰途
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「結局、メルギトスのカスラが昔からの実験装置を破壊してしまったのね……しかも破壊しただけでは物足らずのっとってしまったと」
ミモザが終わった後になって分析する。
「そういうことのようですね」
ハーブティーを飲みながらアメルが言う。あのあと彼らはアヤが召喚したワイヴァーンでその日のうちに王都に帰ってきた。
帰ってきた彼らをエクスとグラムス、それにラウル、それとなぜかミニスが出迎えてくれた。ミニス曰く彼らが留守の間もう一回悪魔による王都襲撃があったそうでミニスも防衛作戦の中核を担ったそうだ。
「お前にはいつもびっくりするよ」
ソルがミニスに言う。実際ミニスは彼よりも幼いが立派に召喚術を使う。ミモザには及ばないが、獣属性なら彼女に並ぶものはそんじょそこら探してみてもいないだろう。
ソルに褒められミニスは顔をほころばせる。
「でも、やっぱりあたしはまだまだかも……現にやっぱりラウルさんやグラムスさん、エクス総帥みたいにはたくさんの召喚獣が呼べないし……」
ミニスはちょっと冴えない顔色になる。それは比べる対象がおかしいんじゃないかとソルは思ったが口にはしない。向上心を持つのはいいことだと彼は思っているから。常日頃から自分よりも上級者を目指していれば日々精進を重ねられる。それは召喚師にとっても必要なことだ。

それをしなくなった召喚師は魔力的にも技術的にも知識的にも時代に立ち遅れていく。それどころか精神を摩耗させたりして外道召喚師になることすらあり得る。
彼自身そんな例を見たことがあった。
「ミニス、そういえば王都ではどこで暮らしてるんだ?たしか今は蒼の派閥にもお世話になっていると聞いたんだが……」
実際金の派閥は家々ごとに秘伝とされる召喚術を用いるためほかの家の召喚獣や家の属性以外の召喚術が学べることは少ない。マーン家は代々霊属性なので獣属性の彼女は二年ほど前から独学で勉強していたのだ。
ところが傀儡戦争で蒼の派閥と金の派閥が手を組むことになり金の派閥の議長と蒼の派閥の総帥が直接顔を合わせたり合同作戦をしたりと接点が増え、以前よりは仲が険悪ではなくなった。
その機会を利用してファミィは蒼の派閥の本部へとミニスを通わせることにしたのである。
蒼の派閥は召喚術を用いてこの世の真理や召喚術そのものを研究している機関であるのでミニスも自分の専門の分野の研究ができると思ったためだ。そのためミニスは今現在親のファミィが住んでいるファナンではなくゼラムに居を構えているはずであるのだが……。
「それなんだけれどね、あたし今ケルマの家にいるのよ」
えっ!?その場の全員が驚く。ソルが口を開く。
「たしかマーン家とウォーデン家って対立して無かったか?」
「それももう昔の話よ。傀儡戦争時お母様とケルマが手を結んだことでこれからは少しずつでも仲良くしていきましょうということになったわ」
ミニスの説明にソルが驚く。あれほどお互い激しく火花を散らしていたのに……。
「まぁよかったミニス、これからも勉強頑張るんだぞ?俺たちもたまには顔を出すからさ」
うん、とソルに言われてミニスはうなずく。
「そういえば、ソルさん蒼の派閥に入ったんでしょ?」
ミニスが聞きたかったことを聞く。ソルは特に隠すこともないので悪びれもなく言う。
「あぁ、俺はもともと好きで無色にいたわけでもないし……。それにもっと召喚術のこと学びたいと思ったからな。何もかもアヤのおかげだよ」
そういって今はアメルやグラムスたちと話し込んでいるアヤに視線を送る。実際アヤがいなかったら彼は無色を抜け出せなかった。またグラムス、ミモザ、ギブソンたちから功績を評価されることもなく無色の一部品として人生を終える予定だったのだ。
――全く彼女にはかなわないな……――
そうソルは心から思った。

「まったねぇーーー!」
駅でミニスが手を振っている。ソルとアヤ、そしてジンガとスウォンは窓から身を乗り出して手を振りかえす。
「今度、サイジェントにも来いよなーー!子供たちが待ってるぜーー?」
ソルがそういう。
「うんーー、またお母様といっしょにいくわーー!」
「また来ますねーー ミモザさん、ギブソンさーん」
「いつでも来てちょうだいなーー」
「お姉さんたちならいつでも大歓迎だよーー」
「お気をつけてーー」
「気を付けて帰るんだよーー」
「アネゴがいれば大丈夫だってーーー」
「そちらこそ気を付けてくださいねーーー」
お互いに挨拶を交わす。スウォンがそういい終わったとき発車のベルが鳴る。
「気を付けるのよーー!アヤ、ソル、結婚式の案内まってるわよーーー!」
ミモザがふざけてそう言う。
「けけけけ、け、け、結婚し、式?」
ソルはまんまと焦ってしどろもどろになってしまう。そんな様子をミモザは笑った。そして笑顔で見送る。
「あー、やっぱりソル面白い反応するわねェ」
列車が言ってしまった駅舎でミモザが言う。
「しっかしあれねェ、あれじゃいつになってもアヤとの関係が進展しなさそうね……」
ミモザがちょっと残念そうに言う。ギブソンもそれには同感なのか苦々しくも笑っている。
「純粋なのはいいがあそこまで純情だとちょっと大変だろうなァ、アヤちゃんも」
「さぁ帰りましょう」
アメルに促され五人と一機は帰宅の途へとつく。

「お昼はどうしましょう……?このままだとサイジェントにつく前にお昼ご飯食べないとおなかがすきますよね……」
アヤが列車のコーパートメントでいう。サイジェントとゼラムを結ぶ列車は休養が取りやすいようにコーパートメント式の作りになっている。各コーパートメントには天井側に二つベッドが用意されていて普段は収納されているが出しさえすれば寝れもする。
「それに関しては心配しなくてもいいぜ、俺が朝作ってきたから」
ソルがお弁当箱を指し示す。
「あら、ソルさん今朝もお弁当作ってたんですか、わたしも呼んでくださればいいのに」
「いや、アヤに手伝わせるわけにもいかないよ」
ソルはそう言う。
「アネゴー、眠いから寝てもいいか?」
ジンガの突然の質問にアヤは若干間があったがいいですよと答える。どうやらスウォンも寝るようなので彼らはここに居ては邪魔になると考えコーパートメントを後にする。
アヤとソルは末尾車両へとやってきた。末尾車両は窓の大きい車両で景色が見やすい作りとなっている。彼らはそんな車両の片隅に席を取る。
「風景がきれいだな」
「そうですね、こんなところでみんなでピクニックしたらと思うと……」
「そうだな、いつかこういうところでサイジェントのみんなと……っていうのもいいかもな」
「私はソルさんと二人でもいいんですよ?」
アヤはちょっとふざけてソルにそう言う。ソルはちょっと赤くなってしまう。そんな様子をかわいらしいなとアヤは思う。なんかいじらしくなってしまったので彼の手をアヤは握る。すると彼の顔は見る見る間に真っ赤になってしまった。
「ソルさん、顔が赤いです」
アヤがわざわざ指摘する。
「……」
「別に手をつなぐぐらい照れることでもないでしょうに……」
「……」
ソルは完全に照れてしまって全く口をきけていない。そんな彼をいじらしく、かわいらしく思いアヤは質問する。
「ソルさん、ソルさんは私のことどう思ってますか?」
ソルが答えに詰まるであろう、答えられないであろう質問をわざと繰り出す。案の定ソルは口をパクパクさせるだけで何も言えない。
「あの……なにも聞こえないのですが……?」
「その……俺は……お、お、れは……あ、あァァや、ァャがす、……きだ……」
ソルはとぎれとぎれになりながら照れてあさっての方向を向きながらでもそう言い切った。そんなかわいらしい様子を見てアヤがほほ笑む。
「わたしもソルさんのことが好きなんです、こんなわたしでも好きでいてくれますか?」
アヤはもう一度確かめる。彼が自分のことを必要としているか、好きなのかを。
「あぁ……」
今度はぶっきらぼうながらにもきちんとした返答が帰ってきた。
「うれしいです」
アヤがそれを聞いて笑った。
「あぁーー!アネゴたちこんなところにいたのか!?」
そこへ素っ頓狂な声が聞こえてくる。時間がかなりたってしまっていたのかジンガが末尾車両に来てしまったようだ。彼はソルとアヤのラブラブムードをぶち壊した。
「アネゴぉ、そろそろ飯食おうぜ、それと予定より早くサイジェントにつきそうだってさ」
「そうですか……じゃぁコーパートメントに戻りましょうか」
アヤがそういってソルの手を引っ張る。彼は引っ張られるのにうれしさを感じながら自分のコーパートメントまで戻る。
ソルの作ったお昼ご飯はおいしかった。量もかなり多くみんな文句なしに満腹になった。
「ふぅーー食った食った!」
「そうですね、量が結構ありましたね」
スウォンとジンガがそういう。
「おいしかったのでついつい食べ過ぎちゃいました」
アヤもそういってソルのお弁当を自然に称賛する。ソルはよかったよ、気に入ってくれたみたいで、とぶっきらぼうに言った。
 昼食後少しの間まったりしていると車内放送が入る。
「―え〜、列車はもう間もなくサイジェントへと到着いたします。下車される方は忘れものなどなさいませんようご注意ください、なおこの列車はサイジェントどまりです、本日はご乗車ありがとうございました」

 サイジェントの駅で降りるとリプレとガゼルがお迎えに来ていた。時間的に子供たちはお昼寝中らしい。
「おかえりなさいアヤ、ソル、ジンガくん、それにスウォンくん。聖王都はどうだった?」
リプレが自然に声をかける。ソルが返答をする。
「できれば思い出したくないよ……。戦ってばかりだったし。結局ほとんど観光できなかったよ」
少しうんざりした顔をしてみせる。
「そう……。今度みんなでゼラムに旅行に出かけてもいいかもしれないわね。ミモザさんたちの顔も見たいし」
「リプレ、費用がかなり掛かると思うぞ……」
ガゼルがリプレの発案にげっそりするが、彼女は聞く耳を持たなかった。
「とりあえず帰りましょ」
彼女に促され彼らは見慣れた街を歩いていく。すべてがいつも通りだった。それを見てソルは思うう。
――よかった、この日常を守れて本当によかった……――
「ソル、ぼさっとしているとおいてっちまうぞ」
あぁ、とソルは返事をして走って追いつく。みんなでフラットへと帰って行った。

 後日、派閥からお礼の手紙とたくさんの謝礼金とソルの身分証明書が送られきた。
「とりあえず、これで蒼の派閥の召喚師ってことなのかな……?」
ソルが照れながらその証明書となるカードを眺める。
「おめでとうございます、しかも、幹部じゃないですか!すごいです」
アヤは言う。謝礼はびっくりするくらいあり、さらにその月から六か月は給与を四人分支給すると書いてあった。一人分でも多いくらいなのにそれを四人分とは……とリプレは驚いた。さらにその下にはこれから世界各地の遺跡の調査をすることに決定したと書いてあった。今回の一件で遺跡の危険性が改めて浮き彫りになったようだ。
――二度と同じようなことがないことを祈りたいね……――
ソルがそう思う。笑顔であふれた世界になるといいんだが。彼はそう思って窓の外から差し込んでくる日を見つめていた。

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