忌まわしき遺産

□決戦
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「わかった!」
エルジンがそういう。彼はソルがつらくない程度まで速度を落とした。
「ところで、ここから先全く足場が組めないみたいなんだけど……」
エルジンが申し訳なさそうに言う。実際彼の目の前に広がるのは断崖絶壁。これに足場を作るのは至難の技だろうしワイヴァーンで飛んででもいない限り無理だ。だが、うかつに飛ぶと目的地にたどり着けるかがわからない。
「だから、ちょっとお兄さんとお姉さんにはつらいかもしれないけど……これを使って上へあがるね」
にっこりと彼が取り出したのはチェーンと楔……。

 「よいしょっと!」
説明を終えてエルジンがエスガルドよりも先に絶壁を先頭で上がり始める。彼の手には楔とチェーンが握られている。彼は絶壁にチェーンを通した杭を打ち込みそれを足場にして登ってゆく。エスガルドが後から続き彼の打ち込んだ楔を固定する意味も込めてフレイムナイトを用い岩盤を焼いていく。
「しかし、これそうとう体力がいるぞ……。俺体力持つのかな」
足場になりそうな場所までまだ半分以上残している場所でソルがぼやく。
先頭のエルジンは彼がドリトルでくりぬいた場所へとすでにたどり着いている。彼の横にエスガルド、そしてミモザとスウォン、ジンガがたどり着く。
「ソルさん、頑張ってください」
たった今たどり着いたアメルが後ろを振り返って言う。その先ではエルジンがすでにドリトルとペズソウを用いて岩盤をどんどんくりぬいたり掘ったり粉砕したりして歩道を作って行っている。
「ほら、ソルさん、もう少しですから」
ソルの後ろにいるたった一人の人アヤから励まされて彼は上へと昇る。最後の一つへと手をかける。
「わぁっ!!」
彼の手が滑った。彼はバランスを崩す。
――落ちる……俺の命はここまでのなのか……――
ガシッ。先にたどり着いたジンガが地面に伏せて彼の腕をつかんでいた。
「お前が死んだらアネゴが悲しむだろ……」
彼はすこしつらそうに、だが一人でソルを引き上げる。
「危なかったな」
ギブソンがそう言う。後ろから上がってきたアヤがそうでしたねと同意した。ソルは申し訳なさそうにうつむいた。
その後は特に問題もなく狭い足場を一行は移動する。時折危ない場面もあったがジンガやエスガルドがカバーした。
 やがて一行は意味ありげな場所の前にたどり着く。
「これって……?鳥居?」
アヤは見覚えのあるものに目を丸くする。彼女の目に狂いがなければそれは鳥居だった。ところどころが朽ちてしまっているが。
「気配はこの中から感じます」
アメルがそういう。が、そういうまでもなくここまで来れば誰にでも感じられる。それくらい大きな違和感がこの中から漂っている。
「じゃぁわたしが先頭を行きますね」
アヤが鳥居の中に入ろうとする。が……
「きゃぁっ」
鳥居に何やら仕掛けでもあるのかそこから先へは入れない。代わりに彼女がはじかれたように後方へ投げ出される。
「おっと」
ジンガががっしりと受け止めたので崖から落ちることはなかったが。
「結界か何かがあるみたいね……」
じゃぁこれでどうかしら!?とミモザがつぶやく。
「エイビス、いっけ―――!」
が、見事に結界へ吸い取られ、全く効果がない。
「召喚術がだめなら!」
おらあ!!とジンガが正拳を繰り出すが弾き返された。
「あたしに任せてください」
アメルが引き受ける。彼女が結界へ近づくとそこにあった魔力の結界らしきものが破壊された。
「そういうことか」
ギブソンがひとり納得する。
「この先にあるのは間違いなく悪魔関連のものだ……」
その彼の言葉を証明するかのように悪魔が襲い掛かってくるのが見えた。
「はっ、上等だぜ、一発ぶちかましてやらぁ」
ジンガがさっそく構える。
「オニマル、頼む!」
向かってきた悪魔は間合いが悪いのでオニマルで麻痺させる。そこへ彼の正拳が突き刺さった。
「わたしもアシストします、フレイムナイト、ジップフレイム」
アヤがアシストをし悪魔を消しさる。
 そこから先は悪魔の巣窟だった。少し進むたびに悪魔との交戦がある。とはいっても毎回襲い掛かってくる悪魔は三体前後でそんなにおびただしい数ではない。
 最終的に彼らは洞窟へとたどり着いた。
「いよいよここなんですね」
スウォンが固唾をのむ。あぁとソルが言った。
「行こうぜ、行くしかないんだから」
ソルが促す。そうしないと誰も踏み出さないと彼は思ったからだ。
「あぁ、何が起ころうともみんな揃って帰ろう」
ギブソンがそういって最初に洞窟へと踏み入った。
「中は意外と広いみたいだな」
ジンガがそう呟く。実際奥がどこまで行けばあるのか不明だ。彼の記憶に間違いがなければ入ってから割と時間が経過していてなおかつずっと歩き続けていると思うのだが。
「前方ヨリ敵ダ」
エスガルドが言う。が、最前列にいるソル、アヤ、エルジン、ギブソンは攻撃が仕掛けられない。
代わりに後列のスウォンが弓矢を悪魔の数だけ放つ。彼が放った矢は見事に悪魔に命中、それらの命を奪う。見事ダとエスガルドから言われるが、彼は全く真に受ける様子もなく、ありがとうと言った。
「敵の本拠地に乗り込んだから敵の数も多いかと思ったら意外とそんなにいないんだな。助かったけどなんだか拍子抜けだな」
そういうのはソルである。実際数は王都に攻め寄せた数と比べれば足元にも及ばない。
「モウスグ、洞窟ノ果テヘ到着スル」
エスガルドの言葉はすなわち全面衝突が近いということだ。
 そこには簡素な祭壇があった。
「え?これだけ……?」
ミモザが拍子抜けする。確かに非常に簡素な祭壇なのである。特段悪魔に関係するような代物とも思えない。
「そうだよなぁ……。これに特段特別な力があるとも思えねぇぜ」
ソルがそうぼやきながら岩盤へと手をつく。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
その瞬間地響きが始まった。彼の手をついたところがスイッチとなっていたのである。
「わわっ」
スウォンが立っていた位置の床が動き始める。
振動が終わるころには床にぽっかりと階段が口を広げていた。アヤとソルがお互いに顔を見合わせてうなずいて、先頭を切って突入する。
「暗い……。召喚エルエル」
彼はそういって天使を呼ぶ。翼の光が彼らの行く手を照らす。すると……。
「っひっ」
アヤが驚くのも無理はない。そこにあるのは……
「これ、死体か……?しかも死後かなり経過してるぞ……」
ソルが死体を見て言う。しかもその骨は明らかに女性のものらしい。目立った外傷もないうえ特にやせ細っているわけでもない。
「この女性、なぜなくなったのか不明だな……」
グルぉォォォン、その先から悪魔のものと思われる咆哮が聞こえる。が、通路が狭く隊列中ほどのジンガやスウォンは前線に出てこれない。エスガルドはエルジンと隊列の末尾にいるのでもってのほかだ。だが、天井が低いこの場所で召喚術を使えばどうなるかはアヤにもソルにもわかっていた。
「来るぞ、アヤ!」
ソルが叫ぶ。はいっ、とアヤは答える。最前列の彼女は杖を携えている。かくいうソルも武器は杖しか携行して無いので杖をしかたなく携える。
――彼女を守る力を……どうか俺に!!!――
ソルは念じる。彼が彼女より一瞬先に悪魔へとかかって行く。彼が狙うのは……。
グルロロロ……
のどだ。案の定目論見が当たったのか悪魔はその場へしゃがみこむ。逆にアヤが狙ったのは頭。
こちらは頭に衝撃を受けたためその場へ倒れこんでしまう。
――俺は……!!――
ソルの決意の一撃が彼のダウンさせた悪魔の頭へと叩き込まれる。
「ふぅ、なんとか肉弾戦でも戦えたな」
「えぇ、敵が二体だけというのが幸いしましたね」
悪魔を倒し彼らは振り返る。
実際彼女の言うとおり悪魔がもっとたくさんいたならば彼らは対処しきれず敢え無く敗れていただろう。悪魔の数が少なかったことにソルは安堵する。

「どうやら、ついたみたいだぜ……」
ソルがそういう先には大きな何かがあった。
「これは…………」
アメルが息をのむ。そこにあったのは大きな魔力制御盤。いや正確には魔力制御装置ととある骸。
「これが、暴走して悪魔をたくさん呼び寄せてたのね……」
ミモザが納得する。魔力制御装置は一部が欠損しており機能が欠落していると思われる。エルジンが調査しようと近づいてつぶやいた。
「構造的にかけている部分は人工制御装置で、勝手に魔力制御盤そのものが働かないようにしていた部分だ……それが欠けて装置いや、遺跡が暴走を始めてるんだ!!後ろ!!!」
エルジンが叫んで指差した先には新たに招来された悪魔があった。その目は血に飢えている。
「来るぞ!!」
悪魔から一番近い位置にいるソルが叫ぶ。
―――ヒュンッ―――
スウォンが矢を放つ。矢は一番先頭の悪魔に命中する。グルォォォォン!
が、今度ばかりは悪魔の数が多かった。っちとソルが言って彼の杖を取る。
「仕方ない!ヘキサアームズ!」
おりゃぁぁ!とソルが叫ぶ。
「仕方ないです、エルエル、それにロティエルもスペルバリアを!」
アヤがソルの魔法に応じて岩盤が崩れないように魔法に対するバリアを張る。岩盤にかけられたそのバリアによって彼の魔法はその囲まれた範囲内で威力を増した。プラズマが悪魔を殲滅する。
「今のうちに、制御盤をなんとかしてくれ!こうもたくさん毎回召喚されてたら長くはもたない!!」
ソルがそう叫ぶ。実際彼らはここまで必死に歩いてきて体力が残りあまりない。その上にフルパワーで戦闘となれば長く持たないのは目に見えていた。
わかったとエルジンとミモザ、ギブソンが返事をして制御盤へと走る。ところが……。
「そうは、させない!!」
なんと制御盤の前に人影が現れる。
「どきなさい!」
ミモザがペンタくんを投げる。ところがそれに直撃し、爆発したにもかかわらず全くダメージを受けていなかった。
「われには、召喚術など通用しない、なぜならわれは怨念の集合、実態を持たないのだから」
それはそう言う。実際実態がないからなのかしわがれた聞き取りづりづらい声しか出てこない。
「だったらなんだというんです!?」
アメルが叫んでレヴァティーンを召喚する。いっけーと彼女が叫んで制御盤もろともそれを破壊しようと試みる。
「無駄だ」
それが言った通りレヴァティーンの攻撃ですら全くダメージを与えられていない。
「われは怨念の集合体、人々が恨み、妬みの感情を持っている限り何度でもよみがえる、強くなれるのだ」
「ありえない……そんな……」
ミモザが膝をつく。
あきらめるな!誰もが諦めようとしたその時悪魔の繰り出した剣を杖で受け止めていたソルが叫ぶ。
「あきらめるな!かならずどこかに勝機はある。万に一つでも億に一つでも勝機がある限り、あきらめるな!!」
彼は今すでにかなり崖っぷちの状態まで追い込まれている。彼の杖に悪魔の剣が当たっていて、必死の攻防を続けているが彼はすでに岩盤まで追い込まれていて後がない。アヤも似たり寄ったりだ。
「お願いです、あきらめないでください、あきらめたら私たちが今ここにいる意味がないです!!前を向いて生きていくために私たちはあの日あの場所で誓ったんじゃなかったんですか!!」
アヤも半ば絶叫に近い声を上げる。
「そう……ですよね……あの日あの場所で私は誓いました。前へ進むと、決して立ち止まらないと」
アメルが自分に言い聞かせる。
「僕だって、まだ戦える!!」
「おれっちだってまだまだ戦えるぜ!?こんな痛みアネゴたちがあの時受けた痛みに比べればなんてことないんだ!!」
やぁぁぁぁ!!うらぁ!!
ジンガとスウォンが同時に叫ぶ。
ジンガとスウォンがアヤとソルを助けるべく悪魔の軍勢へと攻撃を仕掛ける。スウォンは矢を高速で射掛け、ジンガはオニマルで動きを封じながらこぶしをもって悪魔を確実に沈めていく。が、魔力制御盤が石に呼応して次から次へと悪魔を招来していく。
「はやく!こっちは食い止めるからはやく制御盤とそいつをなんとかしてくれ!!」
「なんとかって……」
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