忌まわしき遺産

□再会は突然に
1ページ/2ページ

何気なく召喚師であるアヤとソルがいつものようにフラットで家事のほとんどをこなしているリプレの頼んだ買い物から帰ってきた。二人はもう住み始めて1年を優に超える家ともいえるフラットの玄関の中へと入る。そこへ意外な人物が声をかける。
「あねご、遅いぜ?」
え?と呼ばれたアヤだけでなくソルまでもが耳を疑う。なぜならその声の持ち主は……。
「ジンガくん?どうしてここに?」
ジンガと呼ばれた少年――彼は北の闘技都市で格闘試合をしていたらしい――のだがそれがひと段落したためフラットに帰ってきていたらしかった。
「なんでここに、はないだろアネゴ。おれっちはアネゴがやっぱり一番強いと思ったからアネゴのもとで戦いの勉強をしようと思ったんだよ。」
「って言って、またフラットで過ごすってさ。」
いつの間にか洗濯物を干し終えてお昼の支度にとりかかろうとしているリプレが台所から顔を出して言った。
 ジンガの話を聞くに闘技都市にはあまり名だたる闘士はいなかったらしくジンガには多少退屈だったらしい。それならと慕っているアヤのもとで修行しようと思ったらしい。
「結局はジンガはアヤのことを最強だと思ってるんだな。まぁあながち間違ってもいないんだが……。」
横でソルがもっともだといわんばかりでうなずいている。それを見てジンガはこれからもよろしくな!!というなり外へと掛けて行ってしまった。
「ちょっと、ジンガくん、お昼までには帰ってくるのよぉ!?」
リプレの忠告が聞こえたのか聞こえなかったのかはわからないが彼は手を挙げた。
「それにしても彼がいきなり帰ってくるとは思わなかったわ」
リプレがそう呟いた。だがその呟きは誰の耳にも届いていなかった。
ジンガはほどなくして帰ってきた。どうやら同行してきた人物が物語っているのはガレフの森に行っていたということだ。
「こんにちは、みなさんお久しぶりです。」
「お、スウォンじゃないか!!ひさしぶりだな、元気にしてたか?」
「あら、ほんとです。最近顔を合わせる機会が少なくて、でも私にはあの森をスウォンさんの家のところまでたどり着く自信もなくて会いにいけなかったんです。」
居間にいたアヤとソルがそれぞれ思っていたことを素直に口にする。それもそのはず、最近はあまり気温が上がらない日が続きアヤがあまり外出したがらない。ソルは若干持て余し気味ではあるが彼は彼で面白い小説や召喚術の専門書を1日中読んでいたりするのであまり退屈はしていないのだが。そこへスウォンの後から家へと入ってきたジンガが口を開いた。
「いやぁおれっちサイジェントの街に帰ってくるのが久しぶりだからやっぱりいろんな人に会いたくなっちゃってさ……」
「それで、ガレフの森のスウォンのところに行っていたのね。」
台所からいつの間にやらできたお昼ご飯をもってリプレがやってきた。
 お昼にするわよーーー、というリプレの一声(もとい号令)で自室にいたラミやフィズ、外で遊んでいたガゼルやアルバたちが一斉に居間へと集まってきた。
「ジンガにーちゃん久しぶりだな!」
やけに興奮した様子でアルバはジンガに向かって話している。彼にとってはジンガはいい友達であり競争相手であるようだ。アルバは彼なりにこの1年半ほどけいこを積んでいた。今まではレイドにほとんどの稽古をつけてもらっていたが、ラムダやイリアスにまで指導を受けるようになって、彼の技術は格段に向上していた。そのけいこの様子を今は楽しそうに話している。
フィズやラミはスウォンとまた木を使った楽器の音色の話や彼が練習してきたという新曲について話している。どうやら昼食後演奏するようだ。
「「ごちそうさまでしたー」」
このセリフはアヤがみんなに教えたものだ。リプレがその由来を聞くやいうのが習慣となったのである。片づけをそそくさと始めたリプレとソルをよそにみんなが談笑している(アヤはジンガに引き留められ手伝えなかった)とそこへ独り見覚えがない男が戸口へとあらわれた。子供が一番戸口に近かったこともあって一同は緊張の色を濃くする。ところが、彼は呼び鈴を押した。間抜けな音が響く。
「ごめんくださーい、アヤヒグチさまとソル・セルボルトさまはいらっしゃいますか?とある手紙を持ってまいりました」
「はい?私に?」「オレにか?」
二人がほぼ同時に返答をする。
「はい、蒼の派閥のミモザ・ロランジュさまとギブソン・ジラール様からです」
「なんだろう……?ミモザだけならともかくギブソンが単なる挨拶の手紙なんて送らないだろうし。」

拝啓―――
堅苦しい言葉はいらないって思うんだけどギブソンがつけろっていうから……。元気にしてた?最近王都も寒くなってきたわ、体調崩してないかしら?あたしたちは元気よ。……(なぜかインクがにじんだり拭かれていたり)今回手紙を送ったのは君たちにも調査の手伝いをしてほしいからなんだ。今回調査するのが森であることからしてスウォンくんに助力を頼みたいんだがいいだろうか?できれば一人ぐらいは腕に自信のある人を連れてきてくれるとうれしいんだが……。そしてソルくんもいてくれると助かる。彼の知識も借りたいのでね。ではいい返事を待っているよ。  敬具 ミモザ ギブソン ―――
「手紙の筆跡が途中で変わってるのと、インクがにじんでるところや拭かれてるところを見るとミモザさん書いてる途中に寝てたか別のことしてたからギブソンさんが交代したってところかな……?」
ソルが妥当な読みをする。アヤ?と彼女のパートナーが声をかける。アネゴ?とジンガも顔を覗き込む。彼としては行きたいようだ。
「別に断る必要もないでしょうし、私の力が役に立つのなら役に立てるべきでしょうね」
「オレの力も役にたてられるなら喜んで加勢するぜ」
「よっしゃ、おれっちも暴れまわるぜ!」
「ボクもできる限りでは頑張りますね」
4者4様の反応を見せつつも全会一致で方針は決まったようだ。あ、とソルが念のためと口を開く。
「ガゼルたちはここに残ってくれ。この書き方だともしかしたらこっちにも刺客がくる可能性がゼロじゃないみたいだから」
わかった、とガゼルが上の空といった声で返事をする。台所の片づけが終わったリプレが最後に添える。
「出立はいつにするのかしら?交通費とかはいらないのかしら?聖王都まで行くとなるとかなりかかるわよ?うちのお財布が持つかどうか……」
リプレのもっともらしい心配は自信満々に言うアヤによって無用のものとなる。
「大丈夫です、明日の朝、郊外まで歩いて出ればただで聖王都まで行けますから」
「いや、アヤその自信はどこから来るかなぁ……?」

翌朝……。
彼女たちは朝早く起床し、サイジェントの街が混み始めないうちに家を出た。お日様が上がってきて、朝がやってきた。ベルネット平原にやってきてアヤは不意に足を止める。
「ここでいいでしょう。さぁ行きますか王都へと。」
「アヤさん、あのここには列車の駅も港もないですけど……?」
晴れやかなアヤの表情とは裏腹にスウォンとジンガの表情が曇る。が、ソルがどうやらその意図を理解したらしかった。
「お前のやりたいことがだいたいわかった。しかしいいのか、そんな普通の用途外の使用法で使っても……?」
「そうですね……普段は一瞬でそう長時間も召喚し続けたりしないから持ってましたけど今回ばかりはどうか……」
彼女が慎重な意見を言うのはわかるがあまりにもコメントがきつかったのでソルもしかめ面になる。そうしてるうちにアヤが召喚を始める。
「誓約者の力において命ずる。いでよ!………ふぅ、召喚には成功ですね、乗ってくださいね」
アヤが召喚したのは成龍とはなっていないだろうが割と成長盛りの竜である。
「これ、もしアヤが持たなかったら俺たちどうなるんだ??」
ソルは先のことを考えると背筋が凍ったので考えるのをやめた。アヤが合図をすると一行は聖王都へと出立した。
「しかし、これはこれでいいものですね」
素直な感想を口にしたのはスウォンである。ジンガもジンガで風を全身に受けて楽しめているようである。ソルはといえばこのすごい風圧の中、召喚術に関する専門書を読んでいる。アヤはアヤで彼女もソルから借りている召喚術の本を読んでいる。アヤにとって竜の長時間顕現は朝飯前といった様子である。事実彼女は特に精神を集中させているでもなく、本のほうへと精を出しているようである。
 アヤが読んでいる400ページぐらいある本のうち1/4を読み進めるだろうという時間がたったのちジンガが不意に声を上げた。
「アネゴ、聖王都が見えてきたぜ?そろそろ高度を落として着陸場所を考えてもいいんじゃないか?」
そうですね、とアヤは返答し竜をおろし始める。が……。
「かはっ、かはっ、ごほっ…」
今日の聖王都付近のお天気は下り坂で彼女たちが下降をする頃にはいつ雨が降り出してもおかしくない状況にまで悪化していた。ソルはその雲にむせこんだのである。
「何やら雲行きがすぐれませんね……。ちょっと手荒なことをさせてもらいますかね……。ソルさんお手伝い願います!!!」
アヤは風圧に負けず龍から身を乗り出している。言われたソルもあわてて前へやってくる。
「具体的にオレは何をすればいいんだ?竜の使役はメイトルパの魔法、最近特訓しているからと言ってオレの専門でもないからあんまり手伝えないと思うぞ。」
首をかしげるソルにアヤは微笑んで告げる。
「いえ、そういうことじゃなくて。ソルさんはミモザさんの家にスペルバリアを張るだけでいいのですよ。あとは私にお任せください。」
「お前に任せるとすごい怖いことになりそうなんだが……」
「何か言いました?」
アヤが貴方は黙っててくださいという視線を送ってきたのでソルは黙る。彼女には逆らいたくなかった。
「ではいきますよー」
アヤの合図で竜がますます滑空をはじめ高度がますます下がり始める。

では、今から着地方法を説明しますね。簡単です、私がペンタくんを召喚して地上に向かって投げるので皆さんペンタくんに向かって飛び降りてください。着地しだい急いで離れてくださいね。」
アヤの戦慄するような説明にソルが抗議する。
「ちょ、ちょっと待て。それってもしかしたら着地した瞬間に爆発するんじゃないか?そうなったらどうな……?」
なんか言いました?というアヤの微笑んだ(目は黙れと言っている)視線を受けて彼のセリフはとまる。
「ちょうどミモザさんの家の上空に来たようですね。行きますよ」
それっと言ってアヤはペンタくんを地上に投げつける。ソルは言われたとおりにスペルバリアを展開。スウォン、ジンガ、ソル、アヤの順で飛び降りる。スウォンとジンガは無事に下りられたようだ。ソルの番だが……
「ちょっと待て!ペンタくんが爆発しそうだぞ!?!?」
彼の抗議のセリフは意味をなさない。なぜなら彼はもうスカイダイビング中、着地までもうすぐなのである。……着地……。
ドーン!!!!ソルが離れようとした瞬間にペンタくんが爆発した。彼は衝撃で吹っ飛ばされた。
「うわぁぁぁぁあ」
が、特にどこかを打ったわけではなかったのですぐに立ち上がる。そして。
「アヤが。このままだと地面に激突してしまう……。何かいい手段は……。」
彼は瞬時に判断しスライムポット召喚し、アヤにスペルバリアを展開。彼女はその瞬間彼の召喚したスライムポットの上に着地した。むにゅーーん。スライムポットの形がゆがむがきちんと彼女を受け止められたようである。
「皆さん無事のようですね。よかったです、成功して。」
俺がアシストしなかったらどうなっていたやら……。彼の苦労など彼女は知るところなど無い様子であった。
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ