忌まわしき遺産

□森の奥へ
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「あ、あ、あ、あのさ……よ、よ、よ、よかったらさ……そのよかったらでいいんだけど……お、お、俺……」
しどろもどろになって顔を赤くする彼の様子に彼女は疑問を覚える。
「あ、あや、と……手をつ、つつつ、つないで……みてもいいかな?」
顔をいつものようにトマトみたいにしながら言う彼を見てアヤはおかしく、そしてかわいらしく思い笑みをこぼす。
「ソルさん、そういうのは言ってからするんじゃなくて何も言わずにするのですよ」
アヤに指摘されますます彼は顔を赤らめる。今なら彼の顔でお湯が沸かせるんじゃないかというぐらい真っ赤だ。
「そ、……そう、なのか?」
えぇというアヤは彼女が自ら彼の手を取る。初めて触れる彼の手は小さくてやわらかくてちょっぴり冷たい。彼は握られてまた顔を一段と赤くする。
「照れないでくださいよ。私まで恥ずかしくなってしまうじゃないですか。カップルは普通こうするものですよ」
アヤがそういうが彼の顔は一向に普通の色に戻る気配がない。
「ほら、帰らないと夜遅くなってしまいます」
アヤは恥ずかしそうに立っているソルに言う。ソルはあぁ、と言って歩き出した。
――かわいらしいですね――
アヤは内心そう思っていた。彼に言うとたぶん彼は傷つくだろうし嘆くだろうから言わないが。
「ところで、明日はとうとう森へ入るんだよな、俺たち」
「そうですね、きっとソルさんと一緒ならなんだって切り抜けられますよ。わたしたち今までだってそうだったじゃないですか、だから今回もきっと大丈夫です」
心配そうな顔をするソルにアヤは安心させるような言葉を言う。
「不思議だな、アヤがそういうと本当になる気がするよ」
「それはうれしいです」
「あ、もう屋敷まで来てしまったのか」
彼は恥ずかしいからと手をほどいた。アヤは若干残念そうな顔をするがミモザが見たらきっとソルをからかうだろう。そんなことになっては彼があまりに赤面して倒れる可能性があった。呼び鈴を鳴らす。すぐに返答があり扉があく。
「おかえりなさい」
「アメルさん!?」
なんと起きていたのはアメルだった。ほかの人は寝てしまったという。
「わたしももう寝ようと思っていました、寝る前にお二人が帰ってきてよかったです」
「ごめんなさい、こんな遅くなる予定じゃなかったの、消火に思ったよりも手間取ってしまって……」
彼女は言い訳をする。もちろん申告内容は嘘だが。
「それでは寝ましょうか」
はい(あぁ)とアヤとソルは返答しそれぞれの部屋へと行く。では、また明日……とアヤが言ってそれぞれ自室へと入る。
――アヤと初めて手がつなげた……――
初めてつないだ彼女の手は柔らかくて小さくてちょっぴり冷たくてでも温かかった。きっと心の温度なんだろうと彼は考える。
――いけない、寝ないと……――
彼はうれしさの余韻に浸ってしまうが、明日のことを考えベッドへと入る。
 疲れていたのか彼は割とすぐに眠りへと落ちた。

「いくわよ、皆準備はいい?忘れ物、忘れ人はいない?」
ミモザが最終チェックをする。
「忘れ人いたら返事できないと思うんだが……」
ソルが横で揚げ足を取る。
「もう、そういうことは言わないのよ、点呼とってるんだから!」
「ミモザもう出発してもいいみたいだぞ」
ギブソンがそう促し一同は出発する。
 
 「ここなんですね……」
アヤが呟く。彼らはアヤの召喚したワイヴァーンで近くの原っぱまで来てそこから歩いてきた。
「そうよ、ここからは何があるかわからないわ。気を引き締めていくわよ」
「どうやらすでにお出迎えが来たみたいだよ?」
ミモザが言った瞬間エルジンが前方を見て言う。彼が指し示す先にはすでに悪魔がこっちへと向かってきているのが見える。
グルォっぉぉぉぉん!
「前は任せろや!おらぁ!!」
「後ろからは俺がやってやるぜ?」
ジンガとソルが自然に構え、ジンガは真っ先に向かって着た悪魔に向かって正拳を差し出す。
「邪魔なんだよ!!どきやがれ!」
ジンガは悪魔を一体一体着実に沈めていく。
「行くぜー、後悔しろ!ヘキサアームズ頼む!」
後方で召喚術を唱えたソルが叫ぶ。悪魔の一段の中心から同心円状にプラズマが起こる。
「ふぅ、こんなの朝飯前だぜ」
ジンガがすべて敵を片付けて言う。
「いやぁ、ジンガくんいきなりすごいね。怪我ひとつ追わないなんて……」
彼の戦いぶりを見ていたアメルが言う。彼女の言うとおり相手の攻撃は彼をかすりもしなかった。
「こんなのアネゴの戦いに比べれば足元にも及ばないんだぜ……」
とジンガは謙遜する。
「ちょっと、それ私が無敵みたいないい方じゃないですかぁ」
アヤは逆にちょっと困った笑顔になった。
「とりあえず先を急ごうよ」
エルジンがもっともなことを言い、一行は先に進み始めた。
 谷までは昨日の甲斐ありすぐにたどり着けた。
「これを降りるんですね……。わたし降りられるかしら……?」
アヤは深い谷を見て途方に暮れる。実際これはよほど運動神経がよくないと下まで降りれない。
「まかせて、エスガルドとボクが何とかするから」
エルジンが横から言った。
「召喚、ドリトル。頼むよ」
彼はそういうと崖をドリルで必要最低限人が一人通れるぐらいの幅に掘り始める。
「しかし、彼の使う召喚獣は俺は見たことがないぜ。どこの召喚獣なんだ?」
ソルが不思議に思う。ソルをはじめこの場のほとんどの人が見たことがない。
「さすが、ノイラーム家の血をひくだけあるな。召喚獣も見たことのないものだ……」
ギブソンが過去の記憶と重ね合わせそう唸る。
 あっという間に谷までの道のりが完成し、一行は谷底へと降りていく。
 「さて、降りてきたのはいいのだけれど……」
「この川を渡る術がないのよねぇ……」
アメルのセリフにミモザが目の前に横たわる川を見ながらつぶやく。
「それについては俺に任せろよな」
以外にも助力を買って出たのはソル。
「よいしょっと、召喚っと」
彼がそういって喚んだのは……。

なんとホーンテッド船長。
「ちょっとギブソンとアヤ、それにエルジン、手伝ってくれるか?」
彼は助力を頼んだ。見たこともない召喚獣にギブソンとエルジンは大丈夫なのかと彼を訝しむ。
「大丈夫だと思いますよ、私はソルさんを信じます」
アヤはみんなをそういって手を貸すように促す。アヤが言うならと二人も手を貸す。
「―――そーっおれっと。よいしょこれで大丈夫かぁ?ほら全員乗って」
ギブソンは同じ霊界の召喚師として興味津々になりながら船へと乗り込む。エルジンも霊属性に関する知識もあり微弱なものならば扱えるので興味を示しながら乗る。
「全員乗ったか?それじゃ行くぜー、突撃幽霊船!!」
「この船、幽霊なのですか?」
アヤが疑問を口にするがソルには聞こえていなかった。ソルが唱えた途端船が急に加速する。対岸めがけてまっしぐら……。
「ちょっ、ソルこれじゃぶ」
ミモザがぶつかるといい終えるまでに船はものすごい勢いで対岸に突撃してぶつかった。ものすごい衝撃が体を襲う。
「ちょっと、や、や、やりすぎたみたいだな……」
「そう、みたいですね……」
アヤは服についた汚れを払いながら船を降りる。
「なんにせよ助かったのだけれどね」
ギブソンがとりあえずお礼を言う。
「さて、先に進もうか」
 また下ってきた分だけ谷を今度は上がっていく。
「これはしんどいぜ……俺には」
「ソルさん、頂上までもう少しですからがんばりましょう?」
若干気力がなくなりかけているソルにアヤは手を差し出す。ソルはものすごい恥ずかしそうにしながらその手を取る。彼の顔が真っ赤になって行くのがアヤにはおかしくて仕方がない。
――もう、ほんとにかわいいんですから……まぁここがソルさんのいいところでもあるんですけれどね……――

 「エスガルドの見立てではここからさらに奥へ向かってはいって行くそうだよ」
頂上へ着いた一向にエルジンが説明する。奥の森は明らかに今までとは様子が違う。
「でも、大丈夫でしょうか?奥の森からは並々ならぬ憎悪と恨みの感情を感じるのですが……」
アメルが少し不安そうに言う。
「大丈夫だぜ、アネゴがいる限りはおれっちたちは負けないから!」
「だから、どうして私がそこで出てくるんですかね……」
ジンガの保証にアヤがこめかみをおさえる。
「デハ、私が先導スル」
エスガルドの一言で彼を先頭にまた森の奥へと一行は向かっていく。

「これって村という認識でいいのかしら?」
ミモザが正しい実感を口にする。ただしそこには明らかな違和感が漂っている。
「正しいとは思うが、何か尋常じゃない気がする」
ギブソンが答える。そこは昼だというのに人が一人も見当たらない。生活をしているという雰囲気すらもない。
「家の中まで人が一人もいないみたいだよぉ」
家の中までのぞいたエルジンがそういう。彼の指差す先には玄関扉があいた家がありその中には誰もいない。代わりに埃がうっすらと積もっている。ここを人が離れて割と経過していることを示している。
「こんなものがあったぜ」
別の家に入っていたソルはとある本のようなものを取り出してくる。ソルの入った家も同じく埃が積もっていた。彼が歩いたところだけが足跡になっていた。
「これは……日記帳ですね」
アヤが見慣れたものに思いをはせながら開く。
「1年半前のとある日で止まってるようですね」
スウォンがそういう。日記は1年半前のとある日に書きかけのまま放置されていた。
「この日に何かあったようですね」
「っ!おしゃべりしてるヒマはないようですよ、皆さん」
アメルが指差す先にはまた悪魔の一団がこっちへ向かってきているのが見える。
「こんなに歓迎していただいて恐縮ですけれど、あなたたちの歓迎はもう目いっぱい楽しみましたの」
アヤは笑顔になりながら言う。その笑顔をソルが覗き込むと目が笑っていなかった。
――ひいいっ!!――
ソルは内心悲鳴を上げる。怒った彼女はある意味誰よりも怖い。
「しかたないです、行きますよ、召喚ミカヅチ、ゼルゼノン、エイビス、レヴァティーン、ヘキサアームズ、ツヴァイレライ、お好きに相手を引き裂くがよろしい」
「なぁ、アヤ。先ほどから召喚する数がどんどん増えてないか?」
ソルは隣でアヤに突っ込む。
「そうですか?私はいつも通りですが?」
それ以上突っ込むと怒りの矛先が自分に向かいかねないと彼は黙る。彼の見つめる先では悪魔たちが無残にも蒸発させられていっていた。召喚術が強すぎたようである。彼も思っているがアヤが込める魔力がどんどん回を追うごとに増しているのである。召喚術も俄然威力を増して発動しているのが彼にはわかった。
「さっきから悪魔と遭遇することが増えてますね……」
「そうだけきっと目的地に近づいてきたということだろう」
「はい、徐々にではありますがその気配の場所へと近づいています」
アヤとギブソンの会話にアメルが加わる。
「どうもこの村よりももっと奥地にあるようです」
彼女はそう付け加える。
「でも、この奥ってこの奥はひたすらうっそうとした森が生い茂ってるだけだぜ?」
ソルは彼自信の認識を口にする。実際無色にいたころに目にした地図でもこの辺りには特に目につくものもなかったと思うのだが……。
「まぁ、行ってみましょう」
「とりあえず、お昼にしませんか?」
アヤがそういった横からアメルが水を差す。だが、すでにとっくにお昼は過ぎていて、彼女自身腹ペコだ。
「そうしましょうか、腹が減っては戦はできぬといいますし」
アヤも笑顔で同意する。
「ハラガヘッテハ……?」
だが、その場にいるだれもがその言葉に聞き覚えがなく怪訝な顔になった。
「と、とにかくですね、おなかが減っていたら頑張れないということです」
アヤがあわてて言い直す。一同もこれにはうなずく。
「はい、お弁当です」
「朝からアメルとソルが早起きして作ってくれたのよ」
ミモザが笑顔でお弁当を差しだすアメルの横で一言いう。
「そうだったんですね……私も起きて手伝えばよかったですね……」
アヤはちょっと申し訳なさそうにしながらお弁当を食べる。
「そ、そんな!私が好きで作っただけなので気にしないでください」
「そうそう、お前の代わりに一応俺も手伝ったしな」
ソルがアヤに言う。
「実際今日のお弁当のほとんどはソルさんが作ったものなんです。わたしは今日は寝坊してしまったので……」
アメルが補足説明を加える。
「マ、マ、マまずくてもも、も、文句言うなよ!?」
ソルが照れ隠しにそういう。が。
「ソルさんおいしいです、なんていうかその………ソルさんが作ったものだから余計においしいです」
アヤが少しはにかみながら言うとソルは余計にいっそう照れてそ、そうか、と顔を赤らめながらそっぽを向いた。
「さて、今後の予定なんだが、アメルの見立てだと今日中には目的地に着かないらしい。今日はこの場所で休むか先を急ぐかどっちがいいか決めたいんだがいいかな?」
ギブソンがそう言う。実際もう日はとっくの昔に西に傾いている。
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