08/19の日記
13:22
膝丸夢話(一部加筆修正版)
---------------
「いってらっしゃい。皆の無事の帰還を待っています」
縁側から望む庭に審神者に声が響く。
その庭の中ほどにあるのは、転送装置。
それを囲むように立つ6振の刀剣男士の姿があった。
5月初めのよく晴れた朝。
庭の奥の池の辺りには菖蒲の緑が瑞々しく輝いている。
辰の刻を一刻程過ぎた辺り。
伯耆国のとある本丸の第一部隊が、出陣の時を迎えていた。
この本丸は、発足して1年目。
そのため、顕現した刀もまだそれ程多くはなかった。
審神者の性格故なのか方針なのか、
他の本丸に比べ、急がずややゆったりと運営している。
その結果、現在の部隊はまだ第三部隊までであった。
その第三部隊も朝餉を終えるとすぐに遠征に出掛けていったし、朝方帰還した第二部隊は、すでに解散し、今頃は各々の部屋で休息を取っている事だろう。
あとは、目の前の第一部隊と内番を行う数振。そして、審神者の隣に立つ近侍だけである。
「行ってくる。膝丸、主を頼んだぞ」
近侍である膝丸に真剣な眼差しを向け、そう告げるのは、初期刀であり、第一部隊隊長を務める山姥切国広。
「ああ。主の事は任せておけ」
その初期刀に同様の眼差しを返しながら、膝丸はしっかりと頷く。
「しっかり近侍の務めを果たすんだよ。えーと、弟の…」
「膝丸だ、兄者!」
「そうだったねぇ、弟」
「だから!膝丸だ!ひ・ざ・ま・るっ!」
「あはは〜」
「くっ…兄者…俺の名前を覚えてくれ…」
もはや定番と化したやりとりに、がっくりと肩を項垂れる膝丸。
「ふふっ」
その二人に審神者は密やかに笑みを浮かべた。
「はいはい。それじゃ、出発するね〜」
兄弟のコント(ただし、一方は常に真剣)を軽く流しながら、副隊長である加州清光は装置の転送ボタンを押す。
その途端、辺りに光が広がった。
「主さん、行ってきまーす」
「行ってまいります」
にこやかに手を振ったり、静かに黙礼をする刀達。
その6振が光の渦が包まれたかと思うと、次の瞬間パァッと光が弾け散った。
「………」
庭に静けさが訪れる。
先程まで賑やかだった庭に置かれた転送装置も何やらうら淋しく見えてしまう程だ。
「やっぱりまだ慣れないな」
しばしの合間、その転送装置を見つめていた審神者だったが、その口からポツリと言葉がこぼれ落ちた。
「主?」
膝丸の呼びかけに、審神者はゆっくりと隣を見上げる。
その審神者は、どこか困ったように微笑んでいて。
どうかしたのか、と膝丸は不思議そうな、そして心配そうな表情を浮かべた。
「姿が消えちゃうところ。
もちろん、みんなのことを信じてるし、
そんな事は無いってわかっているんだけど。
でも、透けて消えてゆく姿に、いつも何だか不安な気持ちになっちゃうの。
もしかしたら、もう二度と会えないのじゃないかって」
黒く長いまつ毛を静かに伏せ、そう話す審神者の表情は、見ているこちらが切なくなってしまう程で。
「主」と、膝丸は審神者の両肩に手を置くと、そっと自分の方へと向きを変えさせた。
「主。俺は、俺達は消えたりなどしない。
必ず主の元に戻ってくる。
俺達は主の刀だ。主と共にあるぞ」
真っ直ぐに審神者の目を見つめ、そう告げる。
その様子に僅かに目を見開いた審神者だったが、
「ありがとう、膝丸」
そう言うと、嬉しそうに微笑んだ。
「あ、主…俺は主「鶴丸国永ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」を………」
その笑みに一瞬驚いたような表情をした膝丸だったが、何か意を決したように口を開く。
だが、それは遠くに響く長谷部の怒号にかき消された。
「ふふ。また鶴丸が何かしたのね」
審神者には膝丸の言葉は聞こえていなかったのか、すでに興味は畑の方に向いている。
「……今度は何をしたのだ、鶴丸は」
後処理に駆り出されのは、俺なのだぞ…
と膝丸は深く深くため息を落とす。
「では、まだこちらに被害が及ぶ前に、今日の執務を片付けてしまいましょうか、近侍殿」
そうくすくすと笑いながら話す審神者につられ、膝丸からもふっと笑みがこぼれた。
「ああ、今日もよろしく頼む。主」
皐月の青く澄んだ青空
緑の薫りを含んだ風が柔らかく吹き抜けてゆく
その風に髪をなびかせながら、
二人の姿は執務室へと消えていった。
題名求ム……
前へ|次へ
□ コメントを書く
□ 日記を書き直す
□ この日記を削除
[戻る]