短編小説

□大嫌いな君
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ただ、笑って……笑った。

何したいのかな?どうしたいのかな?

何か、笑ってないと立ち直れない気がしたんだ。


「那緒斗」

ぼそっと名前を呼んでその名の響きに一瞬だけ酔いしれた。

「ん?悠希、何か言った?」

「あっ嫌、何も…」

「そう?」

(そうだった;)

今、自分のいる状況を思い出して 僕は手に持ったグラスを口に運んだ。

僕の名前は長谷川悠希。

21歳、専門学校に通う学生だ。

今日は友人の誘いで飲み会に来ていたのだ。

正直…気が重い。

僕はどちらかというと内向的で友人はあまり多くはない。

今回のはどうやら“合コン”みたいで僕は数会わせで呼ばれたみたいだ。

「はぁっ」

思わずため息が洩れる。

早く帰りたい。

ちびちびとグラスの中味を口に入れる。

ざわめく場所は自分が独りになった気がするからキライなんだ。

(皆のワに入れない…からなんだろうなぁ)

どうしようもない不安や孤独感に悩まされるのは………。

「ふぅっ」

再びため息がこぼれ、僕は席を立ち上がる。

「悠希。どっか行くのか?」

「ハハッ、トイレ」




用を済まし手を洗い終わり様に、鏡に映る自分の顔を何の気なしに見つめていた。

そのうち、無意識に手が自分の唇を撫でていた。

(アイツも誰かに……)

「キス」

ギクリとした。

「したいの?」

鏡に映る知らない男にいきなり思いを読まれた気がした。

だからだろうか、男として悔しい位に端整な顔立ちにイラッとしたのは……。

「何を…言って」

「だって。ずっと唇を触ってるから………」

唇を僅かにあげ、男は笑った。

まるで可愛そうな人間を嘲笑う様に。
笑ったんだ。






そう。
だから、僕は悪くない。

例え、奴のみぞおちに一発入れて。

なに食わぬ顔をして……奴の真横に居たとしても!!

(僕は悪くない…ハズだ。たぶん)
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