ミルモでポン!短編

□メカニックラブ
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妖精界の商店街。
暇なヤシチは(掃除という仕事が溜まっていて暇ではないのだが)冷やかし専門として、フラフラと歩いていた。

ある店の前で足を止める。
商品に惹かれたわけでも、店員に惹かれたわけでもない。

そこに、商品たちとにらめっこしている少女がいた
ヤシチもよく知る人物だ。

「ケケレ?」

呼ばれ慣れていないのか、多少キョドりながら振り返るケケレ。

「ヤシチさん…!」

カラクリ人形の頬がピンクに変色する。
そんな様子に気にも留めずに、ヤシチはケケレへ駆け寄った。

「買い物か?」

「あ……その、お茶菓子を購入しに」

突然の巡り会いに動揺しながらも、ケケレは口を動かした。
そうなのか、と簡単に返す。

「ケケレはお菓子は何が好きなのだ?」

なんとなく問うと、ケケレは少し困ったように笑う。


「食べられないんですよ」

飲めないですし。
ポツリと言われ、少し間を置いてヤシチの首が項垂れた。

「すまん……」

「あっ気にしないで下さい!」

様々な表情を見せても、少女は人形。

ヤシチは己の失言を反省した
相手の少女は人形でも、感情はあるのだ。

「そんな落ち込まないで下さい……っ
ワタシは、それを不便だと感じたことはないのですから」

「…そうか」

「……でも」

ケケレが平気と言っているので反省をやめた。

確かに不便と感じたことはないし、それを悲しんだりしたこともない。
しかし、小さいようで大きいような不満はある

「あなたの好きなものを深く知れないのは、少し寂しいです」


言ってから、ケケレは口に手をポンと当てた。
ヤシチはパチパチと瞬きするだけ。
まるで普通の妖精みたいに顔がみるみる赤くなっていき、羞恥からか小さく震えていた。

「ケケ…」

「ああああのっ!今のは!今のは忘れてくださいっっ!き………きゃあああああ!!」

真っ赤な顔のままバタバタと店を出て、喫茶店の方へ走っていった。

「……何だ?」

遠くの方で転び、すぐ立ち上がってまた走っていく少女を見送りながら、1人取り残されたヤシチは目を点にして呟いた。

「お茶菓子……」

食べることが出来ない食べ物を買おうとしていたのだろうか。
彼女からしたら食べ物などきっと、ただの固形物なのに。


先ほど、ケケレがにらめっこしていた菓子袋の方へ視線を移動させた。
そこの棚にはかりんとうがズラリと並んでいた。








→妖精と人形じゃ見える世界が違いすぎるのです


 
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