short
□一歩半
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「藍ちゃん!ちょ、ちょっと待って」
「遅いよ未琴。早くしてよね」
「だって……」
藍ちゃんはデートのときだって私と並んでくれない。
スタスタといつも私の少し前を歩いてしまう。
話しかけても目線を向けるだけで、振り返りもせずに言葉を返す。
私はそれがすごく淋しい。
「藍ちゃんのバカ……」
本人には聞こえないくらい小さく呟いた本音。
のはずだったのに、私の声が届いたのかはわからないけど、気付けば目の前に手が差し出されていた。
「藍、ちゃん?」
「手……繋ぐの?繋がないの?」
「つっ繋ぐ!」
意外に大きくて、とっても温かい大好きな藍ちゃんの手。
繋がった手のひらから伝わる体温だけで満足するなんて、私はだいぶ単純に出来てるみたい。
「未琴……」
「なぁに?藍ちゃん」
「好きだよ」
「え?」
「僕、未琴のこと好きだから」
少し前を歩く藍ちゃんを見れば、ほんのり染まった頬と耳が見えた。
それが寒さのせいじゃないって私は自惚れていいのかな?
藍ちゃんの少し後ろの、お互いに表情の見えない位置が今はちょっとだけありがたかった。
だって私の顔はきっと真っ赤で、恥ずかしいくらいに緩んでいるから。
私は返事の代わりにギュッと手を握り返した。
(藍ちゃんそっち寮だよ?)(知ってる。予定変更だよ)(なんで?)(はあ……未琴はもう少し自覚を持ったら?)(う、ん?)(一応アイドルなんだからさ(他の男の視線を気にしなよ))