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□星雨のキス
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「わあっ……!コトちゃん、流れ星ですよぉ」




冷えてきた冬の空の下を並んで歩いていたら、不意に立ち止まった那月くんが感嘆の声をあげた。
それに倣って夜空を見上げてみても、星はもう流れた後だった。




「……あ」

「ああ、見逃しちゃった?」

「っ!……うん」




余程残念な気持ちが表情に出ていたのか、那月くんが私の顔を覗き込む。
びっくりして赤くなる私にニッコリ笑いかけると、優しい温もりで私を包み込んだ。




「叶えたい願いでもあった?」

「う、ん。那月くんと、」

「僕と?」




そこまで言ってはたと気付く。
願い事は人に教えたら叶わなくなる。って、誰かが言っていた気がする。

私は慌てて取り繕うように話を逸らすことにした。




「ううん。やっぱ何でもない!」

「ええー、気になりますよぉ」

「そっそれより那月くんは?何かお願いしたの?」

「僕ですか?」

「うん」

「僕は……好き好き好き、と」

「っえ?……す、き?」




那月くんの口から零れた意外な言葉に強張った声が出てしまった。

恋愛禁止を掲げるこの学校で想いを伝えるのはご法度。
それはつまり、彼の「好き」は目の前にいる私以外に向けられたもの。
密かに想いを寄せるだけなら許されると思ったのに、それすらも揺らいでしまいそうになる。




「はい。今、僕の腕の中にいる愛らしい女の子に想いが伝わるように」

「……な、つきくん?」

「ふふっ。僕のお願いはお星様が叶えてくれます。だから僕は……コトちゃんのお願いを叶えてあげますね」

「え?」




自分に都合の良いことばかりが浮かんで混乱する私に、那月くんがそっと顔を近付けた。
そして抱き締める腕に力を込め、真剣で少しだけ熱っぽい瞳を私に向ける。




「ねえ、教えて。未琴のお願いは何?……僕に、どうして欲しい?」




媚薬のように鼓膜を刺激する声にほだされて、私は静かに目を閉じた。
すぐに唇に触れた温もりと囁かれた言葉が嬉しくて、涙が出そうになった。







(好きです、未琴)(わ、私も那月くんが……んっ)(その続きはまだ聞けない)(え?)(想いが通じ合ってはいけないから)

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