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□甘い毒
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「ちょこれいと?」

「はい。丁度お店に入荷して、店長が少しくださったんです」

「いいのか……?こんな高価なもの」

「白子さんにはいつもお世話になっていますから」




にこにこと純真な笑顔を向ける未琴と純粋な興味に負けて、俺は差し出されたものをありがたく受け取る。
包みを開けば、おそらくひと手間加えてくれたのであろう、想像よりも多いちょこれいとがあった。
そのまま渡さない辺りが実に未琴らしい。




「いただきます」




一つ摘まんで口に入れると、和菓子には無い甘さが広がる。
和菓子より濃厚なそれは初めて食べたが嫌ではない。




「美味しい」

「本当ですか!お口に合ったみたいで良かったです」

「うん。特に胡桃、かな?良い味出してるね」




その言葉に未琴の瞳が更に輝く。
なるほど、加えてくれたひと手間は胡桃か。
相変わらずそういった創作が上手い。

本当に美味しくて手が止まらず、気付けば最後の一つになってしまった。
もっと大事に食べるべきだったと少しだけ後悔。
そして俺をじっと見つめていた未琴と目が合った。




「ごめん、もしかしなくても食べたかった?」

「い、いえ!私は白子さんに喜んでいただければそれで」

「でも折角美味しいから、一緒に食べようか?」

「えっ……?」




俺は最後の一欠片を口に放り、溶け出す前に未琴の顎を掬い唇を重ねる。
至近距離で合わさった視線に慌てて目を閉じる姿が愛らしい。
唇を割って舌を淹れれば、大袈裟な程肩が揺れて思わず目を細めた。
嗜虐的な趣味は無いつもりだが、こうも可愛い反応をされると困る。

泥沼に嵌まる前に何とか唇を離す。




「し、しらすさ……」

「ふふっ、ご馳走さま」

「……」

「あれ、もしかして……」




―足りなかった?




わざとらしく尋ねれば、音がしそうな程勢いよく真っ赤に染まる頬。
加えて潤んだ瞳で見上げられ、俺は手遅れを悟った。







(俺は足りないな)(えっ!?)(もっと可愛い反応見せてよ)

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