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□君限定
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「あ、翔ちゃん!」
「おう。お疲れ……って、おわっ!!」
「はあ……。3日ぶりの翔ちゃん。癒されるー」
「おまっ、離せ未琴!」
寮の廊下で俺と目が合うと、一目散に駆けてきた未琴に抱きつかれた。
いつもながら、俺の胸板に頬を寄せて幸せそうに笑う姿に顔が熱くなる。
口では離せと言っても、本当にそうされたら真っ赤なこの顔が見られちまうし、未琴の柔らかい温もりを感じられなくなる。
悶々と考えていたら頭から湯気が出そうだ。
「今日ね、翔ちゃんに話したいことがたくさんあって。……あ、でも」
「ん、何だ?話聞かせろよ」
「うん。色々あったんだけど……翔ちゃんの顔見たら嬉しくて忘れちゃった」
ふにゃりと笑いながらそんなことを言ってのける未琴はズルイ。
ファンやその辺の男ならイチコロだろう。
さすがに俺でも勘違いをしてしまいそうになる。
「なあ、未琴」
「んー?なぁに」
甘えた声に上目遣い……。
耐えろ、耐えるんだ俺!
「そ、そのだな」
「うん」
「そうやって軽々しく抱きつくのは、その……すっ、好きなヤツだけにしろよ」
「うん」
「男って単純だから、すぐ勘違いとかしちまうし……」
「わかってるよ」
いやわかってねぇだろっ!
と、つっこみたいのは山々なんだが、純真な瞳を向けて首を傾げる未琴が可愛すぎて俺には出来ない。
つーかそれだよ、それ!
都合よく勘違いするからマジやめてくれ。
「勘違いされてもいいし、私だって誰にでも抱きつくわけじゃないよ」
「は?」
「翔ちゃんだから……だよ?」
顔を隠すように俺の胸におでこをくっつける未琴。
少しだけ見えた頬が赤く色付いていたのは、俺の都合のいい勘違いじゃない……よな?
今まで抑えいた気持ちが溢れて、俺は初めて未琴を抱き締め返した。
未琴の言葉の真意を知るのは、もう少し先の話。
(未琴ちゃん今日も可愛いです!ギューッてしてもいいですか?)(なっちゃんは苦しいから嫌)(じゃあレディ、俺の胸に……)(下心丸出しで話しかけてこないで)