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□勉強しましょうか
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テキストに向けられた瞳は伏し目がちで、マスカラなんて塗らなくても十分に長い睫毛が影を落としている。
肌だって白くてキレイだし、今日はおろされた髪も傷んでるところなんて見当たらない。
桜色の唇は柔らかくてなんだか甘いし……。




「未琴ちゃん」

「なに?」

「キスしていい?」

「えっ……?」




驚いて目をしばたかせる未琴ちゃんは、徐々に顔を赤く染めていく。
わざわざ許可取るなんて初めてだからなー、いつも勝手にしてたし。
オレは次に来るであろう暴言に身構えていたら、意外な返事が返ってきた。




「……よ」

「え?」

「だから、いいよ」




そう言って閉じられた瞳にオレは堪らず口付けた。
未琴ちゃんの唇はやっぱり甘くて、何度も重ねてはそれを割って口内を味わう。
悩ましげに寄せられた眉と、時折零れる未琴ちゃんの声がオレをひどく掻き立てる。

あ、やべ……。




「ごめん、未琴ちゃん」

「ん?かず、なり?」

「勃った」

「は、あっ?!ちょ……やっ」




気にしないフリしてたけど、未琴ちゃんの大きく開いた襟元から若干見えていた谷間に限界がきた。
大体好きな人と二人きりなのに欲情すんなってほうが無理っしょ。




「ってことで、いただきまー……」

「わりぃ未琴。電子辞書かしてく……れ」

「み、やじさ……」

「お兄、帰ってたの」

「……高尾。軽トラで轢かれんのとパイナップルで撲殺、どっちがお望みだ?」

「え、あ……えと」




やばい。
宮地サンの後ろに般若が見える。
声も一段と低いし、完璧怒ってるわコレ。

あれやこれやと言い訳が浮かんでは消えて、オレは視線を彷徨わせた。




「はい、電子辞書。それから和成は悪くないわ」

「は?未琴、お前何言って……」

「前から思ってたけど、お兄は過保護なのよ。私と和成は恋人同士だし良識ぐらいある。……まあ、今回のは反省するけど」




宮地サンとオレの間に立ち、落ち着いた様子で電子辞書を手渡す未琴ちゃんは堂々としていてカッコ良い。
ていうか、彼女に庇ってもらうとかオレめっちゃダサくね?

あーでも、この人たちはそんなの気にするタイプじゃねーか。




「はあ……。わりぃ、ついカッとなった。お前らを信用してないわけじゃねーんだよ」

「ん。お兄のそういうとこ、私好きだよ」




申し訳なさそうに視線を逸らしながら、未琴ちゃんの頭を撫でる宮地サン。
それを目を細めながら受ける未琴ちゃんはなんとも幸せそうだ。
なんつーか……絵になるな。

そんな二人の様子をぼんやり眺めていたら宮地サンと目が合った。




「高尾もわりぃな」

「いっいえ!オレは……」

「まあでも、次にうちで未琴に手ぇ出そうとしたらマジでパイナップルで撲殺すっから」




部活でよく見る笑顔を浮かべた宮地サンに思わず身震いした。
目が……目が据わってんだけど!

オレは宮地サン家で調子に乗るのは絶対やめようと心に誓った。







(お兄、和成いじめるのやめて。それから早く彼女作って)(オレは未琴とあーりんさえいればいいんだよ)(……シスコン)(あ?高尾なんつった?)
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