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□緑色の迷信家
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「未琴、アレは片付けたか?」

「あれって何?」

「この時期にアレと言ったらアレに決まっているのだよ」




朝、真太郎に会って開口一番でなされたのが今の会話。
だからあれって何なのよ。
さも当然のように言われてもわかるわけがないでしょ。
あと、ドヤ顔うざい。




「はあ……雛人形に決まっているだろう」

「ああ、おひなさま?そういえばまだ片付けてないなぁ」

「ふっ」

「ちょっと。鼻で笑うのやめてくれる?」

「だからお前は駄目なのだよ。そんなんでは、女子力とやらがないと言われても仕方がない」




ずれてもいない眼鏡のブリッジを押し上げながらそう言う真太郎に何も言い返せない。
ちくしょう、確かにウチの部で誰よりも女子力高いのよアンタ。
私、爪のケアなんて滅多にしないし。

てか、おひなさまと女子力関係なくない?




「その様子では知らないのだな」

「何をよ」

「雛人形にまつわるジンクスだ」

「……は?ジンクス?」




何となくわかったかも。
というより、わかってしまった。
おひなさまと片付けといえば多分あの噂だと思う。




「雛人形を片付けないと嫁に行き遅れる、というものなのだよ」

「知ってる、けど……あれって所詮迷信でしょ」




半ば呆れながら返す私に、真太郎は目を見開いて詰め寄る。
必死すぎる形相が若干恐い。




「何を言っているのだ!真実に決まっているだろう」

「根拠は?」

「ふん。おは朝で言っていたのだよ」

「……そう」




このおは朝信者め。
そんなの嘘に決まっているでしょ。
あれは片付けも出来ない娘は嫁に行けない。みたいな説が有力らしいし。




「まあでも、未琴は人事を尽くさなくてもいいのだよ」

「は?それは私に嫁に行くなって言ってるの?」

「その時はオレが貰ってやるから心配ない」




頬をピンクに染めて視線を逸らす真太郎。
ちょ、こんなとこでデレ発動?
もしかして、それが言いたかっただけじゃないのかしら。







(真太郎、男に二言はないわよ)(ふん、当然なのだよ)(もうおひなさまは片付けなくてもいいかも)(なんて思ったことは)(絶対に言ってやらない)

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